万年Aクラスのオッサン冒険者、引退間際になって伝説を残す?

ナギノセン

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37 龍の谷の鎮痛薬

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 まぶたの裏がやけに眩しくて落ち着かない。鼻も何だかむずがゆい。
 どうにかしようと上げた腕の痛みでガイルは目を覚ました。
 最初に視界へ入ったのは青と銀の光、そして乾いた笑みを浮かべる美しい少女が銀色の長い髪を筆のようにまとめて彼の顔をくすぐっていた。

「フィオリナ――」
「おじ様、本当はもう少しお休みいただきたかったのですが申し訳ありません」
「いや――」

 まだ頭がハッキリしないガイルはフィオリナを呆然と見上げる。
 つややかな絹を銀色に染めたような髪に白磁のような白い肌。涼し気な目元には瞳と同じ青銀色の化粧が施されている。
 その神々しいまでの美貌から、月の女神の使徒と噂される王弟アレクセイの息女である。
 急に黙ってしまったガイルにフィオリナは悪戯は止めて事情を問い質し始めた。

「ところでわたくしの記憶違いでなければ、冒険者をお辞めになると息まいておられたような気がするのですが、どうでしょうか?」
「あ、あー、そうなんだけど色々あって、痛っ」

 言い訳をするときの癖で頭を掻こうと上げた右腕が痛い。目を遣ると綺麗な白い包帯がキッチリと巻かれている。徐々にガイルの頭が回り始めた。
 ほんの一月ほど前に、フィオリナや彼女の父親へ冒険者引退の報告をしたのは、まぎれもない事実である。当時のガイルは、意気揚々と様々な知り合いのところへ引退の挨拶周りをしながらホームタウンのアルザスを目指していた。

 フィオリナのことは彼女が幼い頃から知っている。彼女の騎龍となっているジルニトラとも同じ頃から付き合いになる。馴れ初めは彼女の母親と偶然知り合ったことによるのだが、引退の挨拶の時には彼女の母親もジルニトラも王都には不在だった。

「――そうだ、ジルニトラ!! アーニャはっ!?」
 
 再び王都へ来ることになった理由や犯罪者として捕まったこと、アーニャに襲われてフィオリナ達に助けられたことをガイルは唐突に思い出す。慌てて身を起こそうとしたところ脇腹に激痛が走り、思わず体をくの字に曲げて再び横になった。

 目の前には少し日焼けをした膝頭とほどよい肉付きの太腿が見える。どうやらベッドの上に寝かされていたことや場所が見慣れた部屋の中なのも気づいた。ゆっくり視線を上げるとフィオリナが困ったように笑っている。

「おじ様、少し落ち着いてください。屋敷へ戻って傷や骨折の応急手当は済ませましたが――そうでした、ゆっくり座ってこれをお飲みください。さっきは口移し、いえ何でもありません」

 フィオリナがわざとらしく咳払いをしながら腰のポーチをもぞもぞと触った。液体の入った真っ青な小瓶を取り出すと寝そべったままのガイルの目の前へ両手に乗せて差し出た。
 ガイルには瓶の中身について言われるまでもなく分かっている。それよりも気になるのは今の状況だった。

 アーニャに襲われたケガの治療のために王弟アレクセイの屋敷へ運ばれたのは間違いない。見覚えのある理由は、ガイルとデニスの滞在のためにわざわざ龍舎の隣に建てられた専用の客間だからだ。
 彼はゆっくりと座り直してフィオリナとベッドの上で向かい合う。

 これまでの位置関係からするとフィオリナが自慢の髪でガイルの顔をくすぐれるような体勢は、彼女の膝枕で寝ていたとしか思えない。
 瓶を差し出す少女の手の下に見える太腿はちょうど半分ほどの位置で日焼けの後がくっきりと分かれている。王弟殿下のご令嬢なのに龍騎士としてしっかり鍛えていることが見て取れる。白いスカートが太腿のほぼ付け根近くまで捲れあがっていた。

「ロックウェルの鎮痛薬か、貴重なものをすまない」
「お気になさらずに」

 フィオリナが膝を少し進めてガイルに近寄ると完全にスカートの意味がなくなった。自分の半分ほどの年の少女とは言え女性としての魅力がないわけではない。見なかったことにしようとガイルは慌てて真っ青なガラスの小瓶を受け取った。
 決して使い捨てされることのないだろう凝った意匠も施されている。中身の透明な液体をガイルは一気に飲み干した。

「――相変わらず苦い、いや、ありがたい」
「無理をなさらずお水で割られればよろしいですのに」
「それだと折角の効果が薄まるだろう?」
「まあそうですが」

 気がつくとフィオリナの白い手がガイルの膝に乗せられている。
 白磁のような肌をした美しい少女の顔が徐々に近づいてきた。あやうく唇にニアミスする寸前で彼は体を無理矢理捻る。何とか避けたガイルが見たフィオリナは何故か目を閉じて微妙に唇を突き出している。
 
「……フィオリナ?」
「――チッ」
「チッ?」
「い、いえ、龍の谷に伝わる鎮痛薬の効果を確認しただけです。おじ様は色々とやせ我慢をされるので予期せぬ不意打ちのほうがはっきりするかと思って。本当に他意はありません」
「あ、ああ、確かに痛みが引いている。相変わらずすごい効き目だ」

 わざとらしく銀色の髪を整える仕草のフィオリナが視線を逸らせた。ガイルも王族の令嬢にキスを迫られたなどと勘違いをするほどうぬぼれてはいない。
 手にした小瓶をフィオリナへ返しながら体中を触って確認をする。
 フィオリナが手当てをしたあばら骨は一本が折れて二本にひびが入っていた。先程までは寝起きでさえ激しい痛みが走ったのに今の動きでもやや鈍いくらいの痛みしか感じなくなっていた。
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