鬼の心臓は闇夜に疼く

藤波璃久

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旅立ち7(過去編②)

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 年の瀬も迫るころ、店に軍服を着た大柄な男が現れた。
ちょうど店先で作業をしていた小太郎は、男を見てギクリとした。
(軍服…)
「ようやく見つけた」
「…いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
普段、客に接するように応対した。
「小太郎…だったよな?」
「…人違いじゃありませんか?」
奥から女将さんが出て来た。
「小太郎…あ…お客さまだったのね」
「やはり君は小太郎くんじゃないか」
男は笑う。
「…あの、お米を買わないのなら、お帰りください」
「どうしたの?」
女将さんが近寄った。
「自分は、猿女さるめといいます。吉備津隊という、鬼を斬る部隊に所属してます」
「鬼…ですか」
「最近夜になると、化け物が出るという噂がありまして、その化け物は鬼だというんです」
「まあ」
女将さんは不安そうに頷いた。
「そしてこれがその鬼らしいです」
猿女が取り出した紙には似顔絵が描いてあった。
その顔は、小太郎にそっくりだ。
「小太郎?」
女将さんが呟く。
「はい」
「何かの間違いではありませんか? 小太郎は夜は遅くまで仕事をして、朝も早く起きています。夜中この家から出ていったりしていません」
「ですが、コイツは確実に鬼ですよ。見ていてください」
猿女は石ころを拾うと、小太郎に投げつけた。
「っ!」
「何するんですか⁉︎」
石ころが当たった額が赤くなっている。しかし、少ししてそれは消えた。
「あら?傷が…」
「これくらいの傷なら、鬼はすぐ治る」
「…そんな…小太郎が…鬼?」
信じられないという表情で、女将さんは小太郎を見た。
「……」
「でも、小太郎はとても良い子ですよ」
「女将さん。演技ですよ。そのうちあなたのうちの小さな者から喰われてしまう」
「……」
「とにかく、この子鬼は我々が責任持って、処分する」
猿女は小太郎の首に、輪っかを取り付けた。
「え?何これ」
「一族が開発した鬼用の首輪だ」
「ヤダ!外して!」
外そうとつかむと、首輪が締まった。
「ぐっ⁉︎」
「抵抗すると締まる。鬼の力を弱めるため、鬼の苦手なイワシの血を塗ってある」
「う…く…ゲホゲホッ…」
小太郎は、膝をついた。
「小太郎」
女将さんは小太郎を支えた。
「やめてください」
「鬼をかばうと、あなたも捕縛しますよ」
「そんな…」
小太郎は立ち上がると、女将さんにお辞儀した。
「女将さん。迷惑かけられません。オレ行きます。今までお世話になりました」
「小太郎…」
女将さんは悲しそうに名前を呼んだ。
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