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内腿の山百合ーー薄緑の花弁に隠された,蜜の旋律を歌う二人だけの練習曲
第10話:きれいな嘘,そして山百合の残響
地上の喧騒が遠のいた頂上で,唇が重なった。
大輝先輩の舌が,私の唇を割るようにして求めてくる。
私は一瞬,それを拒むようにわずかに顔を背け,舌先を逃がそうとした。
けれど,それは拒絶ではない。昨夜あんなに独りで彼を求めていたくせに,いざ本物の彼を自分から迎え入れるのが,たまらなく恥ずかしかっただけーー。
短く,そしてくぐもった音が鼻から漏れる。
「……ぅ,ん……」
完全に唇を合わさった瞬間,喉の奥が震え,塞がれた口から,行き場のない熱いあえぎが彼の口内へと直接流れ込む。
二人の間で往復する,足りない酸素を求めるような,短く,熱い吐息。
「んっ……,んんっ……」
我慢しきれずに鼻から抜ける切実な音と,彼の熱に溶かされて喉が震える艶やかな音。
その二重の旋律に抗うように,大輝先輩の手が私の後頭部をさらに強く引き寄せた。
ーー深く絡まり合う舌の感触。
それは,記憶から懸命に手繰り寄せようとしたどんな幻よりも鮮烈で,暴力的なまでに「本物」だった。
ーー鼻腔を抜ける彼の清潔な香りと,わずかな唾液の甘さ。
ゴンドラがゆっくりと下降を始めたのをきっかけに,私たちは名残惜しさを剥がすようにして唇を離した。
地上の喧騒が,また少しずつ耳に戻ってくる。
……………………………………………………………………………………
みなとみらい駅の,深く,長いエスカレーター。
地下へと降りていく駆動音に身を任せていると,一段下を行く大輝先輩が,不意に肩越しに振り返った。
不意を突かれ,心臓が跳ねる。
一段下にいる彼が私を見上げる形になり,至近距離で視線が絡み合った。普段は少し遠くにあるはずの端正な眉が,驚くほど近い。
やがて,不自然に泳いだ彼の瞳が,ふらりと私の喉元から下へと落ちた。
ーー薄緑のワンピースに包まれた,私の「清廉な恋人」としての小さな膨らみ。
その場所を,彼がなぞるように見つめた刹那。
(……あ,勝った)
どこか冷めた頭の隅で,確信が芽生えた。
先輩は,その一瞬の「盗み見」を私に気づかれていないとでも思っているのだろう。いけないものを見てしまったという,育ちの良さゆえの罪悪感が彼の表情を強張らせるたびに,私の内側では歪な優越感が膨らんでいく。
コンプレックスだったはずのこの場所が,今は彼を翻弄するための最強の武器だ。
見つめられた意識が一点に集中し,乳首がツンと尖って,ワンピースの布地を内側から押し上げる。触れられてもいないのに,視線に射抜かれただけで私の身体がこんなにも鮮明に応えてしまったという事実は,言葉よりも雄弁に「敗北」を告げていた。
けれどその「敗北」こそが,彼を支配するための切り札になる。
昨夜,独りでタイルの上に膝を突き,自分の身体を汚すように「予習」した私。そんなドロドロとした執着など微塵も知らない彼は,今,目の前の小さな膨らみに,ただ無防備に理性を削り取られている。
吹き抜ける地下の冷たい風にさらされているはずなのに,彼に射抜かれた場所だけが,じりじりと火傷したように熱い。
たった一段上から見下ろす私の瞳は,彼がどこを見,何を渇望し,いかにして理性を擦り減らしているのかを,残酷なほど鮮明に捉えていた。
吸い込まれるように近づくエスカレーターの降り口は,もうすぐ始まる「答え合わせ」へのスタートラインに思えた。
ホームに滑り込んできた電車のドアが開く。
私は,迷う大輝先輩を促すように一歩早く車内へ入ると,並んで空いている座席を見つけ,彼を誘うようにして隣同士で腰を下ろした。
電車の座席という限られたスペースで,二人の境界線が曖昧になる。
肩が触れ,太ももの熱がワンピースの薄い布地を抜けて伝わってくる。先輩は緊張からか,膝の上に置いた拳を固く握りしめていた。
私は迷わず,その大きな手の上に自分の手を重ねた。
先輩がびくりと肩を揺らす。私はそのまま,逃がさないように指先を滑り込ませ,彼の指の間に自分の指を一本ずつ深く沈めていった。
ーー初めての,恋人つなぎ。
昨夜,たった独りで自らの「容れ物」へと沈めたあの頼りない指とは違う,骨張った男の人の指。
そして,暴力的なまでの熱。
彼の五本の指から,私の五本の指へ,早鐘のような動悸が直に伝わってくる。
横目で見る先輩の横顔は,必死に前方の窓ガラスを見つめ,彫像のように固まっていた。
けれど,窓に映る彼の瞳は,隣に座る私の存在にひどく怯え,同時に激しく飢えている。
「……陽菜さん」
熱を孕んで掠れた声が耳元に届く。
私は返事をする代わりに,ただ繋いだ指の力を強くした。
手のひらを通じて,彼の理性をじりじりと侵食していく。彼が隠そうとしている「いけない期待」をすべて掌握しているという実感が,私を甘美な勝利の酔いへと誘った。
やがてアナウンスが流れ,私たちは雑司ヶ谷駅の深いホームに降り立った。
地上へと向かう長いエスカレーター。
今度は,私が一段「下」に立つ。
見上げる視線の先にある先輩の背中は,先ほどよりもずっと高く,逞しく見えた。
けれど,今の私に怯えなど微塵もない。
圧倒的な優越感だけが,私の背筋を真っ直ぐに伸ばしていた。
一段高い場所にいる彼の,耳たぶが微かに赤い。
隠しきれないその動揺を勝者の余裕で見つめながら,私は地下鉄の入り口を出て,夜の闇へと足を踏み出した。
住宅街の暗がりに紛れた瞬間,私は繋いでいた手を解き,今度は彼の左腕に自分の両腕を深く絡ませた。
「……陽菜さん?」
「……来る? 先輩」
戸惑う彼の二の腕を,私は逃がさないように抱きしめる。
私の「清廉な恋人」としての小さな膨らみは,彼の逞しく,硬い筋肉に押し潰され,その形を失っていく。
けれど,だからこそーー逃げ場を失ったワンピースと,その下にある薄いレースの境界線で,ツンと尖ったままの乳首の感触が,逃げ場を失って私自身に突き刺さった。
ブラジャーという防壁など,今の私の生理反応の前では無意味だった。
パットのない繊細なレースを突き破らんばかりに昂ぶったその「点」は,彼の腕という硬い壁にぶつかり,熱い火花を散らすような刺激を脳へと跳ね返してくる。
私が彼を支配しているつもりでいながら,その「点」を通じて,私の身体は彼の硬さに屈服し,彼の色に染め上げられていく。
自ら押し付けておきながら,その触覚の鮮烈さに,私のほうが先に溶けてしまいそうだった。
腕に伝わる私の不自然なまでの熱と,衣服越しに主張する確かな硬度。
それに気づいた先輩の息が,ひゅっと止まるのがわかった。
彼には見えないはずの私の「点」が,腕という粘膜を通さない接触によって,何よりも饒舌に彼の理性を焼き切っていく。←わかりにくい
マンションの白い外壁が街灯に照らされ,私たちの帰還を冷ややかに迎える。
オートロックを解錠する電子音が静寂に響き,エントランスの自動ドアが開いた。大理石の床を叩く私のヒールの音が,いつもより高く,鋭く反響する。
エレベーターの前には,不運にも先客がいた。
二人きりになれると思った直前のーー「お預け」。
短い電子音とともに,私たちは「四角い箱」へと踏み込んだ。
わずか数十秒の沈黙が,永遠のように長く感じる。
腕を絡めることも,言葉を交わすことも許されないこの空白の時間が,かえって私たちの内側の熱を煮詰め,研ぎ澄ませていった。
……………………………………………………………………………………
廊下を足早に歩く。
夜風が通り抜ける場所なのに,繋いだ手の熱が逃げ場を失い,肌に焼き付いている。
震える手で鍵を差し込み,重いドアを開けて滑り込むと,背後で「カチリ」と施錠の音が響いた。
その音を合図に,暗がりの玄関で私たちは縋り合うように唇を重ねた。
立ったまま,どちらからともなく。
ーー観覧車のときとは違う,飢えたような深いキス。
けれど,七月末の閉め切った部屋は,一日分の熱気が澱んでいた。
「……っ,あつい,ね……」
唇を離し,上気した顔でそう漏らす。私は逃げるようにヒールを脱ぎ捨てると,真っ暗な部屋の奥へと急いだ。
「先に冷房つけてくる!」
背後に彼を残したまま,私は壁のリモコンを押し,冷房のスイッチを入れた。
ピピッ,という無機質な電子音。暗闇の中でエアコンが低く唸りを上げ,湿った熱気を吸い込み始める。
ふと振り返ると,廊下の薄明かりの中で,大輝先輩が屈んでいた。
彼は私が脱ぎ捨てたままのヒールを拾い上げ,自分の靴の隣に,爪先を揃えて完璧に並べていた。
その育ちの良さと,先ほどまで私の口内を蹂躙していた熱い舌の記憶が結びつかない。
そのギャップが,これから行われる「上書き」の残酷さを予感させ,私の背筋に冷たい震えを走らせた。
「……まずは,手を洗おう」
靴を揃え終えた先輩が,掠れた声でそう言った。
洗面台の鏡に映る二人の顔は,どちらも上気し,瞳は濡れている。
私は順番に手を洗い終え,濡れた手を拭く先輩の背後に回り込んだ。鏡越しに彼を挑発するように見つめ,耳元で囁く。
「先輩,そんなに丁寧に洗わなくても……どうせすぐ,汚れちゃうのに」
大輝先輩の背中がびくんと跳ねる。私はその「勝者の余裕」を噛み締めながら,「予備のバスタオルを取ってくる」と告げて,自分の部屋へ戻った。
白い家具で統一され,エアコンと除湿機が淡々と空気を整え始めた私の「聖域」。
けれど,すぐ背後に先輩の気配が迫る。
振り返る間もなく彼は私の手を取り,そのままベッドの端へと座らせた。
ーー深いキスが始まる。
そう思っていた。
けれど,大輝先輩は不意に,私の前に跪いた。
彼はひざまずくことで,私の視覚という支配からあえて脱し,私が最も無防備で敏感な場所を完全にコントロール下に置いた。見下ろしているはずの私が,彼の一挙一動に,その呼吸ひとつに命運を握られている。
先輩の手が,薄緑のワンピースの上から私の「小さな膨らみ」を包み込んだ。
パットのない繊細なレースを突き破らんばかりに昂ぶった乳首の「点」は,彼の大きな手のひらに押し潰され,熱い火花を散らすような刺激を脳へと跳ね返してくる。
「……っ,あ,……」
脳がドロドロに溶かされていく。
汗ばんだ肌が衣服に張り付く不快感と,ショーツの中の「一点」から止めどなく溢れ出す蜜の熱。
その不潔で甘美な重みを一刻も早く洗い流したかった。
そして,それ以上にーー。
一刻も早く,すべてを暴かれ,彼の一部になりたいという剥き出しの欲求が,理性の堤防を削り取っていく。
「……せん,ぱい……早く,……」
「シャワーを浴びたい」ーー。
そう続くはずだった言葉は,喉の奥で熱い吐息に化けて消えた。
跪いたままの先輩の肩が,びくんと跳ねる。
見上げた彼の瞳には,今まで見たこともないような,熱く濁った情熱が宿っていた。
私の拙い「早く」という懇願を,彼はどう受け止めたのだろうか。
七月末の横浜。一日中,彼の隣で歩き,山手の丘を巡り,熱を帯びた私の身体。薄いレースの下着に閉じ込められていたのは,石鹸の残り香と,湿った肌の熱,そして自分でも制御できない「女」の生々しい匂い。
その「匂い」を消してほしいという潔癖な焦りを,彼は,一刻も早く自分を壊してほしいという剥き出しの渇望として受け取ってしまったのかもしれない。
「……陽菜さん。僕も,待てない」
大輝先輩の指が,ワンピースの裾にかけられる。
ゆっくりと,ゆっくりと捲り上げられたその布地は,もはや服ではなかった。それは,昼間の山手で見た,あの淡い色の山百合そのものだった。
捲り上げられたワンピースという「花弁」の内側から,あの庭園で嗅いだものよりずっと濃厚で,毒を含んだような百合の香りが溢れ出し,冷え切った部屋の空気を一瞬で塗り潰した。
むせ返るようなその香りは,陽菜の,最も純粋で,最も卑猥な告白だった。
恥ずかしさで死にそうだった。
けれど,先輩はその強烈な香りを拒むどころか,まるですべての感覚を,目の前に咲くたった一輪の山百合に捧げるかのように深く吸い込み,陶酔したように目を細めた。
ーーその瞬間。
「ひ……っ,あ……っ,んっ……!」
たくし上げられたスカートの中,膝の裏から内腿へ,熱を帯びた指先が這い上がる。
昨夜,独りでなぞっただけの虚しい場所が,彼の指とその熱によって容赦なく塗り潰されていく。
百合の花弁をかき分けるように,深く,執拗に指先が入り込んでくる衝撃。
私には,その指が,今どう動いているのかを視覚で捉えることができない。
ーー見えない指。
何が起きているのか分からない恐怖と期待が,私の感覚を異常なまでに研ぎ澄ませていった。
そして,ーー。
ついに最深部へと到達した彼の指が,汗と蜜で湿ったピンクのショーツに触れた。
一ヶ月前のあの晩。初めて彼にすべてを預けた日と同じ,「ピンクのリボン」。
本当は,今日こそはあの時と違い,清廉なまま,湿っていない状態でそのリボンを彼に解いてほしかった。
凛とした指先でショーツを下ろされ,自分を捧げることこそが,私なりの「やり直し」になるはずだったのだ。
けれど,現実はあまりに無慈悲だった。
大輝先輩の指は,その不自然な「湿り」を確かめるように,ゆっくりとそこをなぞった。
その摩擦の下で押し潰されている私の,剛く,不揃いな茂みの感触に意識が集中し,逃げ場を失った羞恥が全身を駆け巡る。
指先が触れるたび,蜜を吸って束になった茂みが逃げ場を失い,その水分を吸い尽くして重くなったショーツがべったりと肌に吸い付く。
ーー見せたくなかった「汚れ」を,またしても彼に知られてしまった。
たった一枚の薄い布が,自分の肉体がどれほど無様に,そして執拗に彼を求めているのかという事実を,容赦なく私自身に伝えてくる。
その理想と現実のあまりの乖離に,私は絶望的な羞恥に身悶えすると同時に,「敗北」の予感を感じた。
ーーその下で,密かに,けれど激しく昂ぶっている「めしべ」の先端。
「おしべ」から放たれる花粉を待ちわびるのように,瑞々しく屹立してしまったそこを,彼は一枚の薄い布を挟んで執拗に往復し,優しく,けれど逃がさない強さで撫で上げた。
「……っ,んぁ……!」
布地の摩擦が,ダイレクトな愛撫よりも鋭い電流となって背筋を突き抜ける。
薄い布地が皮膚との間で細かく,激しく擦れるたび,むき出しの粘膜に触れられるよりも苛烈な刺激が脳へと跳ね返ってきた。
「めしべ」の先端を,何度も,何度も往復するその執拗な指の動きに,私の身体は,昨日の孤独な「予習」では決して辿り着けなかった未知の深度で震え始めた。
指先から伝わる彼の体温が,ショーツに染み込んだ「蜜」と混ざり合い,摩擦熱とはまた違う,沸き立つような,根源的な熱を帯びていく。
下腹部の奥深く。
「容れ物」の最奥から溢れ出した甘い「蜜」は,布地の限界を超えているのだろう。
ーー「くちゅ,り」。
指の動きに合わせて染み出す感覚とその音に,私は抗う術もなく,ただ彼に「知られてしまった」ことを悟った。
「……んっ,んぅぅ……!」
もはや完全な「敗者」となった私は,声を押し殺しながら,すがるように白すぎるシーツを掻き毟ることしかできなかった。
大輝先輩の舌が,私の唇を割るようにして求めてくる。
私は一瞬,それを拒むようにわずかに顔を背け,舌先を逃がそうとした。
けれど,それは拒絶ではない。昨夜あんなに独りで彼を求めていたくせに,いざ本物の彼を自分から迎え入れるのが,たまらなく恥ずかしかっただけーー。
短く,そしてくぐもった音が鼻から漏れる。
「……ぅ,ん……」
完全に唇を合わさった瞬間,喉の奥が震え,塞がれた口から,行き場のない熱いあえぎが彼の口内へと直接流れ込む。
二人の間で往復する,足りない酸素を求めるような,短く,熱い吐息。
「んっ……,んんっ……」
我慢しきれずに鼻から抜ける切実な音と,彼の熱に溶かされて喉が震える艶やかな音。
その二重の旋律に抗うように,大輝先輩の手が私の後頭部をさらに強く引き寄せた。
ーー深く絡まり合う舌の感触。
それは,記憶から懸命に手繰り寄せようとしたどんな幻よりも鮮烈で,暴力的なまでに「本物」だった。
ーー鼻腔を抜ける彼の清潔な香りと,わずかな唾液の甘さ。
ゴンドラがゆっくりと下降を始めたのをきっかけに,私たちは名残惜しさを剥がすようにして唇を離した。
地上の喧騒が,また少しずつ耳に戻ってくる。
……………………………………………………………………………………
みなとみらい駅の,深く,長いエスカレーター。
地下へと降りていく駆動音に身を任せていると,一段下を行く大輝先輩が,不意に肩越しに振り返った。
不意を突かれ,心臓が跳ねる。
一段下にいる彼が私を見上げる形になり,至近距離で視線が絡み合った。普段は少し遠くにあるはずの端正な眉が,驚くほど近い。
やがて,不自然に泳いだ彼の瞳が,ふらりと私の喉元から下へと落ちた。
ーー薄緑のワンピースに包まれた,私の「清廉な恋人」としての小さな膨らみ。
その場所を,彼がなぞるように見つめた刹那。
(……あ,勝った)
どこか冷めた頭の隅で,確信が芽生えた。
先輩は,その一瞬の「盗み見」を私に気づかれていないとでも思っているのだろう。いけないものを見てしまったという,育ちの良さゆえの罪悪感が彼の表情を強張らせるたびに,私の内側では歪な優越感が膨らんでいく。
コンプレックスだったはずのこの場所が,今は彼を翻弄するための最強の武器だ。
見つめられた意識が一点に集中し,乳首がツンと尖って,ワンピースの布地を内側から押し上げる。触れられてもいないのに,視線に射抜かれただけで私の身体がこんなにも鮮明に応えてしまったという事実は,言葉よりも雄弁に「敗北」を告げていた。
けれどその「敗北」こそが,彼を支配するための切り札になる。
昨夜,独りでタイルの上に膝を突き,自分の身体を汚すように「予習」した私。そんなドロドロとした執着など微塵も知らない彼は,今,目の前の小さな膨らみに,ただ無防備に理性を削り取られている。
吹き抜ける地下の冷たい風にさらされているはずなのに,彼に射抜かれた場所だけが,じりじりと火傷したように熱い。
たった一段上から見下ろす私の瞳は,彼がどこを見,何を渇望し,いかにして理性を擦り減らしているのかを,残酷なほど鮮明に捉えていた。
吸い込まれるように近づくエスカレーターの降り口は,もうすぐ始まる「答え合わせ」へのスタートラインに思えた。
ホームに滑り込んできた電車のドアが開く。
私は,迷う大輝先輩を促すように一歩早く車内へ入ると,並んで空いている座席を見つけ,彼を誘うようにして隣同士で腰を下ろした。
電車の座席という限られたスペースで,二人の境界線が曖昧になる。
肩が触れ,太ももの熱がワンピースの薄い布地を抜けて伝わってくる。先輩は緊張からか,膝の上に置いた拳を固く握りしめていた。
私は迷わず,その大きな手の上に自分の手を重ねた。
先輩がびくりと肩を揺らす。私はそのまま,逃がさないように指先を滑り込ませ,彼の指の間に自分の指を一本ずつ深く沈めていった。
ーー初めての,恋人つなぎ。
昨夜,たった独りで自らの「容れ物」へと沈めたあの頼りない指とは違う,骨張った男の人の指。
そして,暴力的なまでの熱。
彼の五本の指から,私の五本の指へ,早鐘のような動悸が直に伝わってくる。
横目で見る先輩の横顔は,必死に前方の窓ガラスを見つめ,彫像のように固まっていた。
けれど,窓に映る彼の瞳は,隣に座る私の存在にひどく怯え,同時に激しく飢えている。
「……陽菜さん」
熱を孕んで掠れた声が耳元に届く。
私は返事をする代わりに,ただ繋いだ指の力を強くした。
手のひらを通じて,彼の理性をじりじりと侵食していく。彼が隠そうとしている「いけない期待」をすべて掌握しているという実感が,私を甘美な勝利の酔いへと誘った。
やがてアナウンスが流れ,私たちは雑司ヶ谷駅の深いホームに降り立った。
地上へと向かう長いエスカレーター。
今度は,私が一段「下」に立つ。
見上げる視線の先にある先輩の背中は,先ほどよりもずっと高く,逞しく見えた。
けれど,今の私に怯えなど微塵もない。
圧倒的な優越感だけが,私の背筋を真っ直ぐに伸ばしていた。
一段高い場所にいる彼の,耳たぶが微かに赤い。
隠しきれないその動揺を勝者の余裕で見つめながら,私は地下鉄の入り口を出て,夜の闇へと足を踏み出した。
住宅街の暗がりに紛れた瞬間,私は繋いでいた手を解き,今度は彼の左腕に自分の両腕を深く絡ませた。
「……陽菜さん?」
「……来る? 先輩」
戸惑う彼の二の腕を,私は逃がさないように抱きしめる。
私の「清廉な恋人」としての小さな膨らみは,彼の逞しく,硬い筋肉に押し潰され,その形を失っていく。
けれど,だからこそーー逃げ場を失ったワンピースと,その下にある薄いレースの境界線で,ツンと尖ったままの乳首の感触が,逃げ場を失って私自身に突き刺さった。
ブラジャーという防壁など,今の私の生理反応の前では無意味だった。
パットのない繊細なレースを突き破らんばかりに昂ぶったその「点」は,彼の腕という硬い壁にぶつかり,熱い火花を散らすような刺激を脳へと跳ね返してくる。
私が彼を支配しているつもりでいながら,その「点」を通じて,私の身体は彼の硬さに屈服し,彼の色に染め上げられていく。
自ら押し付けておきながら,その触覚の鮮烈さに,私のほうが先に溶けてしまいそうだった。
腕に伝わる私の不自然なまでの熱と,衣服越しに主張する確かな硬度。
それに気づいた先輩の息が,ひゅっと止まるのがわかった。
彼には見えないはずの私の「点」が,腕という粘膜を通さない接触によって,何よりも饒舌に彼の理性を焼き切っていく。←わかりにくい
マンションの白い外壁が街灯に照らされ,私たちの帰還を冷ややかに迎える。
オートロックを解錠する電子音が静寂に響き,エントランスの自動ドアが開いた。大理石の床を叩く私のヒールの音が,いつもより高く,鋭く反響する。
エレベーターの前には,不運にも先客がいた。
二人きりになれると思った直前のーー「お預け」。
短い電子音とともに,私たちは「四角い箱」へと踏み込んだ。
わずか数十秒の沈黙が,永遠のように長く感じる。
腕を絡めることも,言葉を交わすことも許されないこの空白の時間が,かえって私たちの内側の熱を煮詰め,研ぎ澄ませていった。
……………………………………………………………………………………
廊下を足早に歩く。
夜風が通り抜ける場所なのに,繋いだ手の熱が逃げ場を失い,肌に焼き付いている。
震える手で鍵を差し込み,重いドアを開けて滑り込むと,背後で「カチリ」と施錠の音が響いた。
その音を合図に,暗がりの玄関で私たちは縋り合うように唇を重ねた。
立ったまま,どちらからともなく。
ーー観覧車のときとは違う,飢えたような深いキス。
けれど,七月末の閉め切った部屋は,一日分の熱気が澱んでいた。
「……っ,あつい,ね……」
唇を離し,上気した顔でそう漏らす。私は逃げるようにヒールを脱ぎ捨てると,真っ暗な部屋の奥へと急いだ。
「先に冷房つけてくる!」
背後に彼を残したまま,私は壁のリモコンを押し,冷房のスイッチを入れた。
ピピッ,という無機質な電子音。暗闇の中でエアコンが低く唸りを上げ,湿った熱気を吸い込み始める。
ふと振り返ると,廊下の薄明かりの中で,大輝先輩が屈んでいた。
彼は私が脱ぎ捨てたままのヒールを拾い上げ,自分の靴の隣に,爪先を揃えて完璧に並べていた。
その育ちの良さと,先ほどまで私の口内を蹂躙していた熱い舌の記憶が結びつかない。
そのギャップが,これから行われる「上書き」の残酷さを予感させ,私の背筋に冷たい震えを走らせた。
「……まずは,手を洗おう」
靴を揃え終えた先輩が,掠れた声でそう言った。
洗面台の鏡に映る二人の顔は,どちらも上気し,瞳は濡れている。
私は順番に手を洗い終え,濡れた手を拭く先輩の背後に回り込んだ。鏡越しに彼を挑発するように見つめ,耳元で囁く。
「先輩,そんなに丁寧に洗わなくても……どうせすぐ,汚れちゃうのに」
大輝先輩の背中がびくんと跳ねる。私はその「勝者の余裕」を噛み締めながら,「予備のバスタオルを取ってくる」と告げて,自分の部屋へ戻った。
白い家具で統一され,エアコンと除湿機が淡々と空気を整え始めた私の「聖域」。
けれど,すぐ背後に先輩の気配が迫る。
振り返る間もなく彼は私の手を取り,そのままベッドの端へと座らせた。
ーー深いキスが始まる。
そう思っていた。
けれど,大輝先輩は不意に,私の前に跪いた。
彼はひざまずくことで,私の視覚という支配からあえて脱し,私が最も無防備で敏感な場所を完全にコントロール下に置いた。見下ろしているはずの私が,彼の一挙一動に,その呼吸ひとつに命運を握られている。
先輩の手が,薄緑のワンピースの上から私の「小さな膨らみ」を包み込んだ。
パットのない繊細なレースを突き破らんばかりに昂ぶった乳首の「点」は,彼の大きな手のひらに押し潰され,熱い火花を散らすような刺激を脳へと跳ね返してくる。
「……っ,あ,……」
脳がドロドロに溶かされていく。
汗ばんだ肌が衣服に張り付く不快感と,ショーツの中の「一点」から止めどなく溢れ出す蜜の熱。
その不潔で甘美な重みを一刻も早く洗い流したかった。
そして,それ以上にーー。
一刻も早く,すべてを暴かれ,彼の一部になりたいという剥き出しの欲求が,理性の堤防を削り取っていく。
「……せん,ぱい……早く,……」
「シャワーを浴びたい」ーー。
そう続くはずだった言葉は,喉の奥で熱い吐息に化けて消えた。
跪いたままの先輩の肩が,びくんと跳ねる。
見上げた彼の瞳には,今まで見たこともないような,熱く濁った情熱が宿っていた。
私の拙い「早く」という懇願を,彼はどう受け止めたのだろうか。
七月末の横浜。一日中,彼の隣で歩き,山手の丘を巡り,熱を帯びた私の身体。薄いレースの下着に閉じ込められていたのは,石鹸の残り香と,湿った肌の熱,そして自分でも制御できない「女」の生々しい匂い。
その「匂い」を消してほしいという潔癖な焦りを,彼は,一刻も早く自分を壊してほしいという剥き出しの渇望として受け取ってしまったのかもしれない。
「……陽菜さん。僕も,待てない」
大輝先輩の指が,ワンピースの裾にかけられる。
ゆっくりと,ゆっくりと捲り上げられたその布地は,もはや服ではなかった。それは,昼間の山手で見た,あの淡い色の山百合そのものだった。
捲り上げられたワンピースという「花弁」の内側から,あの庭園で嗅いだものよりずっと濃厚で,毒を含んだような百合の香りが溢れ出し,冷え切った部屋の空気を一瞬で塗り潰した。
むせ返るようなその香りは,陽菜の,最も純粋で,最も卑猥な告白だった。
恥ずかしさで死にそうだった。
けれど,先輩はその強烈な香りを拒むどころか,まるですべての感覚を,目の前に咲くたった一輪の山百合に捧げるかのように深く吸い込み,陶酔したように目を細めた。
ーーその瞬間。
「ひ……っ,あ……っ,んっ……!」
たくし上げられたスカートの中,膝の裏から内腿へ,熱を帯びた指先が這い上がる。
昨夜,独りでなぞっただけの虚しい場所が,彼の指とその熱によって容赦なく塗り潰されていく。
百合の花弁をかき分けるように,深く,執拗に指先が入り込んでくる衝撃。
私には,その指が,今どう動いているのかを視覚で捉えることができない。
ーー見えない指。
何が起きているのか分からない恐怖と期待が,私の感覚を異常なまでに研ぎ澄ませていった。
そして,ーー。
ついに最深部へと到達した彼の指が,汗と蜜で湿ったピンクのショーツに触れた。
一ヶ月前のあの晩。初めて彼にすべてを預けた日と同じ,「ピンクのリボン」。
本当は,今日こそはあの時と違い,清廉なまま,湿っていない状態でそのリボンを彼に解いてほしかった。
凛とした指先でショーツを下ろされ,自分を捧げることこそが,私なりの「やり直し」になるはずだったのだ。
けれど,現実はあまりに無慈悲だった。
大輝先輩の指は,その不自然な「湿り」を確かめるように,ゆっくりとそこをなぞった。
その摩擦の下で押し潰されている私の,剛く,不揃いな茂みの感触に意識が集中し,逃げ場を失った羞恥が全身を駆け巡る。
指先が触れるたび,蜜を吸って束になった茂みが逃げ場を失い,その水分を吸い尽くして重くなったショーツがべったりと肌に吸い付く。
ーー見せたくなかった「汚れ」を,またしても彼に知られてしまった。
たった一枚の薄い布が,自分の肉体がどれほど無様に,そして執拗に彼を求めているのかという事実を,容赦なく私自身に伝えてくる。
その理想と現実のあまりの乖離に,私は絶望的な羞恥に身悶えすると同時に,「敗北」の予感を感じた。
ーーその下で,密かに,けれど激しく昂ぶっている「めしべ」の先端。
「おしべ」から放たれる花粉を待ちわびるのように,瑞々しく屹立してしまったそこを,彼は一枚の薄い布を挟んで執拗に往復し,優しく,けれど逃がさない強さで撫で上げた。
「……っ,んぁ……!」
布地の摩擦が,ダイレクトな愛撫よりも鋭い電流となって背筋を突き抜ける。
薄い布地が皮膚との間で細かく,激しく擦れるたび,むき出しの粘膜に触れられるよりも苛烈な刺激が脳へと跳ね返ってきた。
「めしべ」の先端を,何度も,何度も往復するその執拗な指の動きに,私の身体は,昨日の孤独な「予習」では決して辿り着けなかった未知の深度で震え始めた。
指先から伝わる彼の体温が,ショーツに染み込んだ「蜜」と混ざり合い,摩擦熱とはまた違う,沸き立つような,根源的な熱を帯びていく。
下腹部の奥深く。
「容れ物」の最奥から溢れ出した甘い「蜜」は,布地の限界を超えているのだろう。
ーー「くちゅ,り」。
指の動きに合わせて染み出す感覚とその音に,私は抗う術もなく,ただ彼に「知られてしまった」ことを悟った。
「……んっ,んぅぅ……!」
もはや完全な「敗者」となった私は,声を押し殺しながら,すがるように白すぎるシーツを掻き毟ることしかできなかった。
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