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23話 ①
しおりを挟む「……俺はバーベキューしたりで楽しかったぞ!お前ら、夏休みはちゃんと楽しめたか?いやー!こうして、全員の顔を見れて安心したぞ!事故にも巻き込まれず病気にもならずに元気に登校してくれて……」
「先生、早くHR終わらないと始業式始まりますよー?」
「あ!やば、全員急いで体育館に移動!」
忙しなく終わった朝のHRに学校が始まったことを実感した。夏休みに自身がどう過ごしていたのかだけで終わるほど話が長く雑談の多い担任だが、どうしてか憎めない空気があって俺は嫌いではなかった。
他のクラスはもう体育館に向かったらしく、廊下は静かで俺達のクラスしかいなかった。
眠そうで足元が覚束ない燈の手を引いて階段を降りていると、手が離されて伸びをしながら欠伸をしていた。
「ふわぁ……、いつの間にか話終わってたんだが……」
「あの短時間で寝れるお前は凄いな」
「よせやい。褒めてもなんも出ねぇぞ」
「褒めてないんだよなぁ……」
軽口を叩けるくらいに目が覚めて頭も回り始めた燈はしっかりとした足取りで階段を降りていた。それを見てもう手を貸す必要はないと思い、手を引っ込めると涼しい風が指の隙間を通り抜けた。
子供体温な燈と触れ合っていたから、やけに涼しく感じそのことに疑問に思う前に燈がまた話し始めた。
「シマの顔、見た?」
「見た。珍しくクマが出来てて二度見した」
「あの顔見てガチで深夜まで時間かかったんだって思ったわ」
「朝、ヒムラも眠そうだったな」
「な!てか、あの二人家隣とか……、いいな」
「そうだな。俺達は少し離れてるから頻繁には行きき出来ないもんな」
「え?あ、そ、う、そう……ね」
「燈?」
歯切れの悪い返事にどうしたのかと隣を見ると、顔を背けた燈がいた。
「どした?……顔赤いけど熱ある?」
「いや?暑いだけだが?朝のニュースで今日はかなり暑くなるらしいって言ってたからな。いやー、アツイ、アツイナァ……」
燈の様子がおかしいのに気づいて覗き込むと顔がほんのり赤くなっていてそれを指摘すると、急に顔を手で扇ぎ始めた。確かに今日は朝から既に25°以上あるから暑いには暑いのだろうが、今更何を言っているんだと燈を見るとまたサッと顔を背けてしまった。
それ以降、燈に話しかけても上の空の空返事で会話は成り立たなかった。
「早く帰んべー」
「だな」
「ゲーセン?」
「お前ら……休み明けテストの存在を忘れてないか?」
「あ」
「うわ!マジだ!忘れてた!」
「わざと忘れてた!」
「確信犯の忘れてるはただ忘れてるよりもっと悪い。ということで、真っ直ぐ家に帰って勉強しようか」
「宿題、……やったから大丈夫だって!」
「そうそう!」
「……などと宿題を写しただけの人達が供述してるけど……本当に大丈夫?本当に、大丈夫だと思ってる?」
「スゥーー……、ま、控えめに言っても」
「大丈夫じゃないね!」
「じゃ、各自真面目に勉強しような。赤点は放課後補習なの思い出して頑張れ」
「俺は今回、割と自信ありよりのありだわ」
「燈は俺も大丈夫だと信じてる。から、今日……」
学校から出て駅へと四人で向かっている時だった。テスト前だというのに遊びに行こうとするシマとミハルを少し脅しながら行かせないようにした後に、燈に今日も勉強しに来るかと聞こうとしたタイミングでどこからか視線を感じた。
視線を感じた方向を見ても住宅街が広がっているだけで人影一つも見当たらなかった。
「……一輝?どうしたの?」
「なになに?猫猫子猫?」
「いや、猫じゃない。……なんでもない。それで燈は今日はどうする?俺ん家に来るか?」
「……行こっかな。まだ自信ないとこあるし」
「おっけ。父さんに言っとく」
急に黙って辺りを見渡し出した俺を心配そうに覗き込んで見つめてきた燈に大丈夫だと笑いかける。それでも、燈の顔は晴れずに曇ったままだったから、さっき聞こうとしていたことを聞いて誤魔化した。燈は少し考えてからウチに来ることにした。道の端に避けてからスマホを取り出して父さんにメッセージを送る。すぐによくわからない生物が親指を立てたスタンプが送られてきたのを確認してまた歩き始めた。
数ヶ月後にこの時の視線が気のせいではなかったと身をもって知ることとなった。
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