当て馬と書いてキューピッドと読む

9

文字の大きさ
30 / 42

23話 ①

しおりを挟む



「……俺はバーベキューしたりで楽しかったぞ!お前ら、夏休みはちゃんと楽しめたか?いやー!こうして、全員の顔を見れて安心したぞ!事故にも巻き込まれず病気にもならずに元気に登校してくれて……」

「先生、早くHR終わらないと始業式始まりますよー?」

「あ!やば、全員急いで体育館に移動!」


忙しなく終わった朝のHRに学校が始まったことを実感した。夏休みに自身がどう過ごしていたのかだけで終わるほど話が長く雑談の多い担任だが、どうしてか憎めない空気があって俺は嫌いではなかった。
他のクラスはもう体育館に向かったらしく、廊下は静かで俺達のクラスしかいなかった。
眠そうで足元が覚束ない燈の手を引いて階段を降りていると、手が離されて伸びをしながら欠伸をしていた。


「ふわぁ……、いつの間にか話終わってたんだが……」

「あの短時間で寝れるお前は凄いな」

「よせやい。褒めてもなんも出ねぇぞ」

「褒めてないんだよなぁ……」


軽口を叩けるくらいに目が覚めて頭も回り始めた燈はしっかりとした足取りで階段を降りていた。それを見てもう手を貸す必要はないと思い、手を引っ込めると涼しい風が指の隙間を通り抜けた。
子供体温な燈と触れ合っていたから、やけに涼しく感じそのことに疑問に思う前に燈がまた話し始めた。


「シマの顔、見た?」

「見た。珍しくクマが出来てて二度見した」

「あの顔見てガチで深夜まで時間かかったんだって思ったわ」

「朝、ヒムラも眠そうだったな」

「な!てか、あの二人家隣とか……、いいな」

「そうだな。俺達は少し離れてるから頻繁には行きき出来ないもんな」

「え?あ、そ、う、そう……ね」

「燈?」


歯切れの悪い返事にどうしたのかと隣を見ると、顔を背けた燈がいた。


「どした?……顔赤いけど熱ある?」

「いや?暑いだけだが?朝のニュースで今日はかなり暑くなるらしいって言ってたからな。いやー、アツイ、アツイナァ……」


燈の様子がおかしいのに気づいて覗き込むと顔がほんのり赤くなっていてそれを指摘すると、急に顔を手で扇ぎ始めた。確かに今日は朝から既に25°以上あるから暑いには暑いのだろうが、今更何を言っているんだと燈を見るとまたサッと顔を背けてしまった。
それ以降、燈に話しかけても上の空の空返事で会話は成り立たなかった。










「早く帰んべー」

「だな」

「ゲーセン?」

「お前ら……休み明けテストの存在を忘れてないか?」

「あ」

「うわ!マジだ!忘れてた!」

「わざと忘れてた!」

「確信犯の忘れてるはただ忘れてるよりもっと悪い。ということで、真っ直ぐ家に帰って勉強しようか」

「宿題、……やったから大丈夫だって!」

「そうそう!」

「……などと宿題を写しただけの人達が供述してるけど……本当に大丈夫?本当に、大丈夫だと思ってる?」

「スゥーー……、ま、控えめに言っても」
「大丈夫じゃないね!」

「じゃ、各自真面目に勉強しような。赤点は放課後補習なの思い出して頑張れ」

「俺は今回、割と自信ありよりのありだわ」

「燈は俺も大丈夫だと信じてる。から、今日……」


学校から出て駅へと四人で向かっている時だった。テスト前だというのに遊びに行こうとするシマとミハルを少し脅しながら行かせないようにした後に、燈に今日も勉強しに来るかと聞こうとしたタイミングでどこからか視線を感じた。
視線を感じた方向を見ても住宅街が広がっているだけで人影一つも見当たらなかった。


「……一輝?どうしたの?」

「なになに?猫猫子猫?」

「いや、猫じゃない。……なんでもない。それで燈は今日はどうする?俺ん家に来るか?」

「……行こっかな。まだ自信ないとこあるし」

「おっけ。父さんに言っとく」


急に黙って辺りを見渡し出した俺を心配そうに覗き込んで見つめてきた燈に大丈夫だと笑いかける。それでも、燈の顔は晴れずに曇ったままだったから、さっき聞こうとしていたことを聞いて誤魔化した。燈は少し考えてからウチに来ることにした。道の端に避けてからスマホを取り出して父さんにメッセージを送る。すぐによくわからない生物が親指を立てたスタンプが送られてきたのを確認してまた歩き始めた。
数ヶ月後にこの時の視線が気のせいではなかったと身をもって知ることとなった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

幼馴染み

BL
高校生の真琴は、隣に住む幼馴染の龍之介が好き。かっこよくて品行方正な人気者の龍之介が、かわいいと噂の井野さんから告白されたと聞いて……。 高校生同士の瑞々しくて甘酸っぱい恋模様。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

坂木兄弟が家にやってきました。

風見鶏ーKazamidoriー
BL
父子家庭のマイホームに暮らす|鷹野《たかの》|楓《かえで》は家事をこなす高校生。ある日、父の再婚話が持ちあがり相手の家族とひとつ屋根のしたで生活することに、再婚相手には年の近い息子たちがいた。 ふてぶてしい兄弟に楓は手を焼きながら、しだいに惹かれていく。

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。 異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。 途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。 「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

処理中です...