騎士を愛した王女は、呪いで振り子時計になった。

間宮芽衣

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【4】25年前の微笑み。

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「エド!あったぞ!」

僕とキースは資料室で25年以上前の資料を漁っていた。

 それは25年前の白抜きになってしまった『誰か』の災害地域への慰問の記録だった。

「確かに慰問ってことは王女か王子辺りの仕事だよな…。」
キースと書類を手に取って白抜きの部分に触れると、キラキラと金色に光って『王女フローラ』と浮かび上がる。

「…本当に文字が浮かび上がった。」

僕は感嘆の声を漏らす。



 だんだんと文字は他の文書同様に黒くなり、やがて『元々そうであった』かのように普通の書類になった。

「おいおい、ヤバくね。

 …ご本人が今お前の実家にいるんだろ…?どういう経緯で王女が時計にされちまったんだ…。しかも記憶や記録が消えるなんて。」

「分からない…。」

書類をめくっていくと、フローラ王女の同行者の欄に出てきた名前に僕達は目を見張る。

 近衛騎士 ライオネス•フォード。

「…なぁ。これってお前の親父さんの名前だよな?」

◇◇

「まさか噂の『フローラ王女』がお前の実家にいるとはな。」

そう言って、魔導士団長のウィリアム様が苦笑する。

「…すみません、お忙しい中わざわざ来て頂いて。」

ウィリアム様とキースと一緒に、僕は27番地にある王都の実家に向かっていた。

 あの後、僕はキースと相談してウィリアム様に話す事にした。

 書類に浮かび上がる文字の件が噂になっていたし、フローラにかけられた未知の魔法もなんだか気掛かりだったからだ。

 カランカラーン

 呼び鈴を鳴らすと、鈴のなる様な声で『はーい。』と返事が聞こえる。

「突然申し訳ない。私は宮廷魔導士団長を務めているウィリアム•ラングレーだ。少し話を聞かせて頂きたい。

 安心して良い。部下のエドワードとキースも一緒だ。」

ウィリアム様の言葉でドアが勢い良く開く。

「…エド?!随分早かったのね。お帰りなさい。」

そう言ってフワッとフローラが笑う。

「…ただいま。」

思わずにまにましながら答えてしまう。

 それを見てキースとウィリアム様が固まる。

「…エド…。お前ってやつは…。マジで羨ましい…。」
キースの言葉にフローラは『ふふっ』と笑う。

「ウィリアム様とキース様もどうぞお入り下さい。」


――僕達は応接室で4人で向き合っていた。

「フローラ殿。貴女が長年フォード家の振り子時計に閉じ込められていたというのは本当だろうか…?」

ウィリアム様が切り出すと、フローラは頷く。

「ええ、本当です。」

「しかし、私も長年宮廷魔導士を勤めているが、記憶や記録がなくなってしまう魔法など聞いた事がないな。…だが、呪いの類ならありえるかもしれん。

 その振り子時計を見せてもらってもいいだろうか。」

そう言われたので、僕とフローラは頷く。

 父の執務室の時計の前に4人で立つ。フローラが出てきてから不思議なことに時計の美しい乙女の顔のレリーフは消えてしまった。

「ふむ…。」

そう言いながらウィリアム様が何かの魔力を時計に流す。

 バチバチバチバチバチィッ!!!

 すると、魔力が何かにコーティングされているかのように弾き返されてしまった。

「これは…。」

ウィリアム様が目を見開く。

「…団長。何かわかったんスか?」

そう言って、キースが心配そうに尋ねる。

「間違いない。時計に如何なる魔力も干渉出来ないようになっている。

 ――恐らくこれは呪いの一種だ。十中八九悪魔の仕業だろう。奴らは魔力とは別の禁忌の力を使うからな。」

そう言われてフローラは目を見開く。

「…そう。あの人は悪魔だったのね。」

そう言ってフローラは苦笑する。

(フローラ…?)

 僕は黙り込んでしまった彼女が心配になって顔を覗き込む。

「…フローラ殿。話せる所だけでもいい。当時どういう状況で呪いをかけられたか話して貰えるだろうか。」

ウィリアム様に言われて彼女は長いまつ毛を伏せて、ぽつりぽつりと話し始めた。

「…意に沿わない結婚が決まったの。

 私は愚かにも当時恋していた人と一緒にいたいと願ってしまった。それを恐らく悪魔につけ込まれてしまったのね。」

(当時、恋をしていた人…。)

何故か僕の胸がツキンと痛む。

「…そうですか。もしかしてその結婚相手というのはローゼンベルクのサルマン国王ですか?フローラ王女。」

ウィリアム様の言葉にフローラは目を見開く。

「…そう。もう隠せないわね。」

そう言って彼女は苦しそうに笑った。

「大丈夫です。知っているのは私達だけです。

 ローゼンベルクは10年前にクーデターがあり現在は第三王子だった方が国王になられました。

 後宮は解体され、沢山の妃を囲っていたサルマン様はお亡くなりになりましたよ。

 我が国にだけサルマン様から妃を請う打診が来ていなかったのを不思議に思ったことがありました。

 …そういう事だったのですね。」

それを聞いてフローラは、『…ええ。』と言って目を伏せた。

「この時計に呪いを掛けたと思われる悪魔については調べさせて頂きます。

 記憶を封じた、とのことですが、貴女が目覚めてから封じられたはずの『記録』には綻びが出ています。

  ――もしかしたら悪魔がまた現れるかもしれない。

 貴女はなるべく1人でいない方がいい。

 日中、エドが出かけている間は王宮に避難していた方がいいでしょう。

 私が貴女を受け入れてくれそうな場所を探します。

 必要があれば、受け入れ先の上の者にだけ貴女のことを話してもいいでしょうか。」

ウィリアム様の言葉にフローラは頷く。

「…ええ。わかったわ。宜しくお願いします。」


◇◇
 
 ――キースとウィリアム様が帰った後、フローラは自分の部屋に引きこもってしまった。

 きっと、何か1人で考えたい事でもあったのだろう。

 外はいつの間にかざあざあと強い雨が降っていた。

 僕は1人で父の遺品を整理していた。

 父と母が結婚したばかりの頃のアルバム。それに、僕が小さい頃の写真。

(…懐かしいな。)

そんな事を思いながら顔を綻ばせていると。

 机の奥の方でドサッと小さな日記が落ちてきた。

(…?一体いつのものだろう。)

 すると、挟まっていた写真がヒラリと落ちてきた。

 そこには父が1人で写っている。隣はなんだか白くなり、モヤがかかっている。

 拾い上げようと、僕が写真に手を触れた瞬間。

 もやがかかっていた部分がキラキラと金色に光り輝き、満面の笑みの美しい女性が浮かび上がってきた。

 それは。

(…フローラ。)

 25年前のフローラだった。

 ――その笑顔は、時を越えて僕の心に語りかけてくるようだった。
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