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第五章
心惹かれるものがない
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二度目の夜は散々ルカを貪ったという自覚はある。自分から湯浴みに誘っておきながら、背を向けて服を脱いだルカの姿に我慢できずに押し倒した。
初めの時は、とにかく優しく、ルカを怖がらせないようにと加減して触れていた。ルカの痛みを思って、思うさま抽挿を繰り返すこともなく、ほんの少し真似事をして終わらせた。
そこからルカの月のものがはじまり一週間と四日ほど。我慢の限界だった。貪るようにルカの全身を堪能し、激しく欲をぶつけた。
一度思うさま欲をぶつけてしまうと、もっともっとと欲張りになる。抑えが効かなくなり、それから毎夜のようにルカを抱いている。
昨夜もやりすぎたのはわかっている。おかげでルカは朝の散歩に起き上がれなかった。でも悪いことをしたとは思っていない。自分の欲望の全てをルカにぶつけたかった。溺れるくらい夢中な自分をルカに見せることで、ルカの憂いがなくなればいい。ルカは口には出さないが、まだレガリアのことを気にしている。気にするなと言う方が無理があるのだろう。それならば、余計なことを考えられないほど、自分を受け入れることで精一杯になればいい。そう思った。
ルカの中は、いつもユリウスの剛直を健気に飲み込んで、こちらも痛いくらいきつい。でも、白い喉をのけ反らせて喘ぐルカは思った以上に扇情的で、同時にまだ小ぶりな胸と相まって、背徳感が湧き上がる。
その背徳感さえ耽美で、ユリウスはこれほど誰かの体に溺れ、執着を感じたことはなかった。
夕べも思う様そんなルカを貪り、起き上がれないルカを屋敷に残しモント領館へ行くと、コーバスは上機嫌で騎士団の訓練にあたっていた。
どうしたと聞くと、クライドとの婚約が整い、日取りも決まったのだと嬉しそうに答えた。コーバスから話を聞いてからさほど日も経っていない。クライドとエミーの婚姻は、思った以上に速く本格的に動き出した。
いつものように執務を終え、ルカの待つ屋敷に帰宅した。いつもなら玄関前で出迎えるカレルがいない。おかしいと思い、声のする方へ行くと、応接間のソファに座るエミーに、カレルが深々と頭を下げるところだった。
カレルの話の内容だけでは何があったのかわからなかった。ただ、ローテーブル上の茶器が割れており、ノルデンまでいる。リサに守られるように立つルカを見れば、その白い頬に、ガーゼがあてがわれている。恐らくわれた茶器で切ったのだろう。それもエミーのせいで。詳細はわからないながらもそれだけのことを見て取ると、ユリウスは部屋に踏み込んだ。
ユリウスの姿に、エミーは驚いたように目を見開いた。いつもの背伸びした淑女の挨拶も忘れ、ソファから立ち上がることもなくこちらを見上げている。
ユリウスは真っ先にルカの元へ歩み寄ると、その頬の傷を確かめた。
「ノルデン」
「ユリウス様。大事ございません。それほど深い傷ではございませんので、跡も残りません」
「そうか」
ユリウスはルカを片腕に抱き上げた。いつものように首に腕を回して抱きついてくるルカのワンピースの胸元が泥で汚れているのに気がついた。なすりつけたようなその汚れと、床に落ちた泥のついた布と、エミーの靴の汚れを見て、ユリウスは大方のことを察した。
どういう経緯かはわからないが、ルカはエミーの靴を磨き、その過程で胸元を汚し、挙句の果てにローテーブルに倒れて頬を切った。
「カレル。おまえがいながら一体どういうことだ」
ルカにエミーの靴磨きをさせた説明をカレルに求めると、カレルは「申し訳ございません」と声を振り絞った。
「すべて私の不徳の致すところでございます。申し開きのしようもございません」
「おまえの謝罪はあとでよい。何があった」
カレルは手短にユリウスに経緯を説明した。途中何度もエミーが、「違うんです」「私の話も聞いてください」と割って入ったが全て無視してカレルの説明を最後まで聞いた。
カレルの話は、普段の大人しい性格のエミーからは想像もつかない出来事だった。エミーは、ユリウスの知る限り、いつもコーバスの影に隠れ、内気でほとんど話すことのない少女だ。それが一体どうしたというのだろう。
共も連れず、約束もなく、歩いて一人でユリウスに会いに来たというだけでも驚きの行動だ。それが更にルカを奴隷として扱い、あまつさえ靴でルカを蹴って怪我までさせるとは。
エミーがユリウスの前でいつも背伸びしていたのは知っていた。気づいていて、知らないふりを通してきた。何のためにユリウスの前で背伸びするのか。王都にいた頃、それなりに遊んでいたユリウスにはお見通しだったが、気づかないふりをした。
兄のコーバスが、曰くつきのユリウスとのそれを望んでいないことはわかっていたし、ユリウス自身、エミーに惹かれるところは一つもない。知らないふりをし続けてやるのが当人のためだと思ってきた。内気なエミーが、行動に出ることはないと見越してのことでもある。
その判断が誤っていたのだろう。
悲壮なエミーの顔は、もうすぐ婚約が取り交わされる前の女性の顔ではなかった。
ユリウスの髪に顔を埋めて、安心したように体の力を抜いているルカに、まずはユリウスは言った。
「ルカ」
呼びかけるとルカは頭をおこし、ユリウスの方を見た。
「なに? ユリウス」
「ルカは確かに立場は奴隷だが、俺以外の命令をきく必要はない。いいな?」
「わかった。でも、カレルとリサが困ってたらどうしたらいい?」
「それでもだ。カレルとリサは問題は自分達で解決する。俺がいない間は、カレルやリサが止めることは絶対にするな」
「うん。わかった」
頷くとルカはまたユリウスの首に抱きついた。昨日の怠さがまだ体に残っているのだろう。ルカはユリウスにべったりとくっついた。そのルカの肩に、どこにいたのかポポが駆け上がり、自分の居場所とばかりに落ち着いた。
ルカを抱いたそのままに、あえてその姿を見せるようにユリウスはエミーに向き直った。
エミーは頬をさっと強張らせた。自分がとんでもないことをしたと今になって正気になったようだ。
「私、あの。ユリウス様……」
「この間ルカを紹介したとき、あなたにはっきりと言っておくべきだった。聞いた通り、ルカは奴隷ではあるが、俺の大事な人だ。ルカがあなたの靴を磨くことはないし、倒れたあなたを助け起こす義務もない。更に靴底で胸を蹴るなどありえん。軽症とはいえ顔に怪我まで負わされ、俺が怒っていない、などと思ってはいまいな」
「でも、その子は性奴隷で、ユリウス様は騙されているのです。カレルやリサにまで取り入って、この屋敷で好きなように振る舞って。奴隷なのに」
「俺は奴隷に騙されるような馬鹿な領主だと言いたいのか」
「そんな、とんでもないです」
エミーはぶるぶると頭を振った。自慢のふわふわ巻毛が乱れるのも構わずに。
「それにな、ルカはカレルやリサに取り入ったりできるような器用さは持ち合わせておらん。あなたも少しルカと接すれば、こいつの純真さはわかったはずだ」
「それは、でも」
「もうすぐ婚約式だとコーバスに聞いたぞ。こんなところで何をしている、エミー」
そのユリウスの言葉に、エミーはわっと顔を伏せた。
「お兄様がいけないのです。何もかも、私の気持ちを無視して決めてしまって。私は本当は、本当はユリウス様と。どうしてです。どうしてそんな希少種なんかと。もっと他の方だったなら、中央の貴族の方なら、私だって納得がいったのです。なのに、なのに」
カレルが目を見張り、リサはまぁと驚いた声をあげた。エミーの告白は二人の予想を超えるものだったようだ。
拗らせた恋心が歪んで、ルカに牙を向いたか。
ユリウスはカレルに耳打ちして、すぐにコーバスを呼んでくるよう頼んだ。リサには温かいお茶を用意するよう指示を出す。二人が部屋を出ていくのを見届け、ユリウスは改めてエミーに向き直った。
「エミーの気持ちには、気づいていた」
はっとしたようにエミーは泣きぬれた顔を上げた。ユリウスは構わず続ける。
「だがな、残酷なようだが、正直俺はあなたに心惹かれるものが何もない。いつもコーバスの影から俺を見ていたろう。あいつが過保護すぎるのも問題だが、それでもあなた自身、ここまで来るまでにもっとできることはなかったのか? コーバスのせいだとなじる前に、ルカを傷つける前に、あなた自身、できることをなぜしなかった」
「だって、私なんか……」
「ここまで共も連れず一人で来たんだ。それだけでもなかなかの行動力だ。あなたは内気なだけの人ではないはずだと、俺は思うぞ」
「……ユリウス様…」
リサがカップを盆に載せて戻ってきた。リサはエミーの側に膝をつくと、そっとカップを差し出した。
「さぁ、エミー様。温かいココアです。きっと心が落ち着きますわ」
「……ありがとう」
エミーは両手で包むようにカップを受け取り、小さく呟いた。
「……ごめんなさい」
初めの時は、とにかく優しく、ルカを怖がらせないようにと加減して触れていた。ルカの痛みを思って、思うさま抽挿を繰り返すこともなく、ほんの少し真似事をして終わらせた。
そこからルカの月のものがはじまり一週間と四日ほど。我慢の限界だった。貪るようにルカの全身を堪能し、激しく欲をぶつけた。
一度思うさま欲をぶつけてしまうと、もっともっとと欲張りになる。抑えが効かなくなり、それから毎夜のようにルカを抱いている。
昨夜もやりすぎたのはわかっている。おかげでルカは朝の散歩に起き上がれなかった。でも悪いことをしたとは思っていない。自分の欲望の全てをルカにぶつけたかった。溺れるくらい夢中な自分をルカに見せることで、ルカの憂いがなくなればいい。ルカは口には出さないが、まだレガリアのことを気にしている。気にするなと言う方が無理があるのだろう。それならば、余計なことを考えられないほど、自分を受け入れることで精一杯になればいい。そう思った。
ルカの中は、いつもユリウスの剛直を健気に飲み込んで、こちらも痛いくらいきつい。でも、白い喉をのけ反らせて喘ぐルカは思った以上に扇情的で、同時にまだ小ぶりな胸と相まって、背徳感が湧き上がる。
その背徳感さえ耽美で、ユリウスはこれほど誰かの体に溺れ、執着を感じたことはなかった。
夕べも思う様そんなルカを貪り、起き上がれないルカを屋敷に残しモント領館へ行くと、コーバスは上機嫌で騎士団の訓練にあたっていた。
どうしたと聞くと、クライドとの婚約が整い、日取りも決まったのだと嬉しそうに答えた。コーバスから話を聞いてからさほど日も経っていない。クライドとエミーの婚姻は、思った以上に速く本格的に動き出した。
いつものように執務を終え、ルカの待つ屋敷に帰宅した。いつもなら玄関前で出迎えるカレルがいない。おかしいと思い、声のする方へ行くと、応接間のソファに座るエミーに、カレルが深々と頭を下げるところだった。
カレルの話の内容だけでは何があったのかわからなかった。ただ、ローテーブル上の茶器が割れており、ノルデンまでいる。リサに守られるように立つルカを見れば、その白い頬に、ガーゼがあてがわれている。恐らくわれた茶器で切ったのだろう。それもエミーのせいで。詳細はわからないながらもそれだけのことを見て取ると、ユリウスは部屋に踏み込んだ。
ユリウスの姿に、エミーは驚いたように目を見開いた。いつもの背伸びした淑女の挨拶も忘れ、ソファから立ち上がることもなくこちらを見上げている。
ユリウスは真っ先にルカの元へ歩み寄ると、その頬の傷を確かめた。
「ノルデン」
「ユリウス様。大事ございません。それほど深い傷ではございませんので、跡も残りません」
「そうか」
ユリウスはルカを片腕に抱き上げた。いつものように首に腕を回して抱きついてくるルカのワンピースの胸元が泥で汚れているのに気がついた。なすりつけたようなその汚れと、床に落ちた泥のついた布と、エミーの靴の汚れを見て、ユリウスは大方のことを察した。
どういう経緯かはわからないが、ルカはエミーの靴を磨き、その過程で胸元を汚し、挙句の果てにローテーブルに倒れて頬を切った。
「カレル。おまえがいながら一体どういうことだ」
ルカにエミーの靴磨きをさせた説明をカレルに求めると、カレルは「申し訳ございません」と声を振り絞った。
「すべて私の不徳の致すところでございます。申し開きのしようもございません」
「おまえの謝罪はあとでよい。何があった」
カレルは手短にユリウスに経緯を説明した。途中何度もエミーが、「違うんです」「私の話も聞いてください」と割って入ったが全て無視してカレルの説明を最後まで聞いた。
カレルの話は、普段の大人しい性格のエミーからは想像もつかない出来事だった。エミーは、ユリウスの知る限り、いつもコーバスの影に隠れ、内気でほとんど話すことのない少女だ。それが一体どうしたというのだろう。
共も連れず、約束もなく、歩いて一人でユリウスに会いに来たというだけでも驚きの行動だ。それが更にルカを奴隷として扱い、あまつさえ靴でルカを蹴って怪我までさせるとは。
エミーがユリウスの前でいつも背伸びしていたのは知っていた。気づいていて、知らないふりを通してきた。何のためにユリウスの前で背伸びするのか。王都にいた頃、それなりに遊んでいたユリウスにはお見通しだったが、気づかないふりをした。
兄のコーバスが、曰くつきのユリウスとのそれを望んでいないことはわかっていたし、ユリウス自身、エミーに惹かれるところは一つもない。知らないふりをし続けてやるのが当人のためだと思ってきた。内気なエミーが、行動に出ることはないと見越してのことでもある。
その判断が誤っていたのだろう。
悲壮なエミーの顔は、もうすぐ婚約が取り交わされる前の女性の顔ではなかった。
ユリウスの髪に顔を埋めて、安心したように体の力を抜いているルカに、まずはユリウスは言った。
「ルカ」
呼びかけるとルカは頭をおこし、ユリウスの方を見た。
「なに? ユリウス」
「ルカは確かに立場は奴隷だが、俺以外の命令をきく必要はない。いいな?」
「わかった。でも、カレルとリサが困ってたらどうしたらいい?」
「それでもだ。カレルとリサは問題は自分達で解決する。俺がいない間は、カレルやリサが止めることは絶対にするな」
「うん。わかった」
頷くとルカはまたユリウスの首に抱きついた。昨日の怠さがまだ体に残っているのだろう。ルカはユリウスにべったりとくっついた。そのルカの肩に、どこにいたのかポポが駆け上がり、自分の居場所とばかりに落ち着いた。
ルカを抱いたそのままに、あえてその姿を見せるようにユリウスはエミーに向き直った。
エミーは頬をさっと強張らせた。自分がとんでもないことをしたと今になって正気になったようだ。
「私、あの。ユリウス様……」
「この間ルカを紹介したとき、あなたにはっきりと言っておくべきだった。聞いた通り、ルカは奴隷ではあるが、俺の大事な人だ。ルカがあなたの靴を磨くことはないし、倒れたあなたを助け起こす義務もない。更に靴底で胸を蹴るなどありえん。軽症とはいえ顔に怪我まで負わされ、俺が怒っていない、などと思ってはいまいな」
「でも、その子は性奴隷で、ユリウス様は騙されているのです。カレルやリサにまで取り入って、この屋敷で好きなように振る舞って。奴隷なのに」
「俺は奴隷に騙されるような馬鹿な領主だと言いたいのか」
「そんな、とんでもないです」
エミーはぶるぶると頭を振った。自慢のふわふわ巻毛が乱れるのも構わずに。
「それにな、ルカはカレルやリサに取り入ったりできるような器用さは持ち合わせておらん。あなたも少しルカと接すれば、こいつの純真さはわかったはずだ」
「それは、でも」
「もうすぐ婚約式だとコーバスに聞いたぞ。こんなところで何をしている、エミー」
そのユリウスの言葉に、エミーはわっと顔を伏せた。
「お兄様がいけないのです。何もかも、私の気持ちを無視して決めてしまって。私は本当は、本当はユリウス様と。どうしてです。どうしてそんな希少種なんかと。もっと他の方だったなら、中央の貴族の方なら、私だって納得がいったのです。なのに、なのに」
カレルが目を見張り、リサはまぁと驚いた声をあげた。エミーの告白は二人の予想を超えるものだったようだ。
拗らせた恋心が歪んで、ルカに牙を向いたか。
ユリウスはカレルに耳打ちして、すぐにコーバスを呼んでくるよう頼んだ。リサには温かいお茶を用意するよう指示を出す。二人が部屋を出ていくのを見届け、ユリウスは改めてエミーに向き直った。
「エミーの気持ちには、気づいていた」
はっとしたようにエミーは泣きぬれた顔を上げた。ユリウスは構わず続ける。
「だがな、残酷なようだが、正直俺はあなたに心惹かれるものが何もない。いつもコーバスの影から俺を見ていたろう。あいつが過保護すぎるのも問題だが、それでもあなた自身、ここまで来るまでにもっとできることはなかったのか? コーバスのせいだとなじる前に、ルカを傷つける前に、あなた自身、できることをなぜしなかった」
「だって、私なんか……」
「ここまで共も連れず一人で来たんだ。それだけでもなかなかの行動力だ。あなたは内気なだけの人ではないはずだと、俺は思うぞ」
「……ユリウス様…」
リサがカップを盆に載せて戻ってきた。リサはエミーの側に膝をつくと、そっとカップを差し出した。
「さぁ、エミー様。温かいココアです。きっと心が落ち着きますわ」
「……ありがとう」
エミーは両手で包むようにカップを受け取り、小さく呟いた。
「……ごめんなさい」
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