【完結】戦争から帰ったら妻は別の男に取られていましたが 上官だった美貌の伯爵令嬢と恋をする俺の話

イヴェン

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魔道士アンドレアスによる土魔法技術者養成

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物語は終盤に差し掛かっておりますが、ここで新キャラ登場です。

ーーーーー


 ここはザゴルノ・ズラバフ新基地建設予定地。

 風で土埃が上がる、宿舎脇の空き地に、魔道士の修業をすべく王国中から集まった30名の者達が整列していた。

 これから、統括魔道士の訓示である。

 建設系魔道技術士の最高峰に位置する者。土魔法の高位技術者の証である濃いえんじ色のマントを翻して、その男は現れた。

 
「君らの指導を仰せつかったアンドレアス・オーバーディークだ」

 低めの、よく通る声。

 統括魔道士のアンドレアスは、皆が想像していたのと違った。若かった。二十代前半にしか見えない。(※25歳です)

 並んだ講習生達の間にも、ざわめきが広がる。

 超ベテランか40代以上の人物が出てくると想像していたのだ。

 目元も涼やかな美男であった。サラサラとした銀色の髪は肩の長さでパツンと切り揃えられており、意思の強そうな目が光る。

 細いが筋肉は付いている。冷たい印象を与える美形。

 「なんだ?若くて驚いたか?私より歳が上の者もいるようだが、もし君らの中に歳下の者からは教わりたくないという者がいるのならいつでもここから去ってくれて構わない。────、最初に言っておくが私は厳しいぞ。国の禄を食みながら学べる機会を、諸君は無駄にせぬように。
 …君たちには、短期間で即戦力になってもらいたい。めちゃくちゃ詰め込むしその後は仕事も山ほどやってもらうから 覚悟しておけ」

 アンドレアスがビシッと言いニタリ…と笑う。

 フランツも皆も縮み上がる。(怖い怖い怖い!その笑い方怖いよ!働きながら学べるのはいいけど!)

 ヒイッ、という声があちこちから上がった。

 ちなみに、アンドレアス師匠が自分よりも歳下であったのはフランツを含め5人いたが
 誰一人としてそれを嫌がる者などいなかった。




 未熟な10名は午前中は座学中心で学び、午後は新基地建設予定地の地ならしの前段階の雑務や諸々の作業に駆り出される。10名は適性はあるものの魔力が引き出せていない上に、魔力制御もままならないからだ。

 土魔法が使える者20名は、習熟者に混じって、港を作るため岩礁を海中に下げる作業などに従事していた。

 フランツを含む10人は、適性はあるものの魔力が少ない。アンドレアスから厳しい指導を受ける日々が始まった。





「魔力が少ないんじゃない、人間の内に秘められた魔力の引き出し方を会得してないんだ 教会での魔力調べで高い数値が出ないのは大抵がそれだ」

「違う!そうじゃない!」

「そこは違う方式で」

「呼吸を止めるな!常に呼吸は意識しろ」

「もう一回」
「もう一回」
「もう一回」

「何度でも立ち上がれ!」

「これは全部明日までに覚えておくように」

 アンドレアスから容赦ない指示と声が飛ぶ。

「いいか、動かそうとしてる対象と、君たちとの間に繋がりを作るんだ」

「魔力を対価に、対象物を動かすんだ、疲弊は覚悟しろ」

「いいか 頭の中にヴィジョンを描け……対象物の中に入り込んで、それがまるで自分の鼻や指であるかのように、中から感じるんだ…やってみろ」

「もう一回」
「もう一回」
「もう一回」

 教えを乞う全員が肩を上下させ、ゼーハーと息をしながら心の中だけで叫んだ。

(((((む…難しい!!!)))))

 ただ、「無理」とは思わなかった。皆、建設魔道技術士の資格を得るための第一段階なのだと必死だった。

 夜は勉強しながら寝落ちした。アンドレアスの厳しい指導と現場の業務……1ヶ月が過ぎる頃には
 魔力の少なかった10人も、皆と一緒に働けるレベルに上がっていた。




 【建設魔道技術士の資格について】

 有資格者は建設魔道技術士の称号を使用し、技術業務を行える。王国から認定されたことになる。

 土魔法によって行われる地歴調査、土質、透水、圧密、岩石等の各種試験、土壌、地下水の調査、地質と土質の調査のための貫入試験では地盤を深く掘らないといけない。

 硬い岩盤がある場合、いかに魔力が高くても少人数で掘削すると魔力の消費量が多すぎた。
 そこでの人海戦術である。大人数で掘削。

 (特にザゴルノ・ズラバフ周辺は、古代に滅んだ巨大甲殻系魔物の化石が堆積されていて特に硬度が高い土地であった)

 こうして、育成のためのコストをかけても、建設に特化した技術者集団を作ることにはメリットがあった。

 土魔法ゆえ、農業分野への応用も可能。

 戦争で荒れた王国の復興。若者たちはそれぞれに静かに燃えていた。


 建設した後の構造物点検、調査にも、建設魔道技術士が活躍する。

 基地が完成した後、魔力で塗膜を吹き付けるのだが、その塗膜のメンテナンスも必要。


◆◆◆



~ そして1年が経った ~

 そんな厳しい訓練を経て、新基地の建設に携わりながら30人の講習生たちは土魔法系統の建設魔道技術士の資格を得た。

 1人も欠けることなく、全員が1年間を終えることが出来た。

 一番下のランクだが、兎にも角にも資格を得ることが出来た。
 
 新基地も8割がた完成。あと残っているのは周辺の整備や構内のこまごました所のみとなった。

 一緒に資格を得た同僚たちの「これから」もさまざま。故郷に帰って復興に携わる者、王都で技術士として働く者。ここの基地に残る者もいた。

 新人の育成の為に、王都の学術機関からザゴルノ・ズラバフへ来たアンドレアス師匠は、もう一年こちらに残るんだそうだ。

 なんでも、これからやってくる軍の部隊に特別講習をするんだとか………、アンドレアスは土魔法だけでなく他の属性も持っている。




 (よし、帰ろう。トルーデの元へ)

 荷造りをしながらフランツは、1年間住んだ宿舎の部屋を眺める。

 開け放ってあったドアを、コンコンコンと叩く音がした。
 ドアにもたれ、アンドレアスが立って微笑んでいた。

「僕としては基地のメンテナンスもあるから、フランツにはここにずっと居てほしいなー 
 あれだけ頼んだのに断られるなんて!嗚呼、僕って哀れ…残念だ…ああ本当に残念だな~…」

 フランツは、クスッと笑って立ち上がりアンドレアスの正面に立つ。

「師匠、本当にお世話になりました」

「分かってるって!君の愛する婚約者が待ってるんだろ?早く帰ってやらないとな」

(王都に婚約者がいるフランツ……むうう…ああ、本当に残念でならない……しかも、超絶美人で筋肉も凄いっていうじゃないか…)

 なぜに筋肉。ここでも筋肉。

(遠距離恋愛だから、隙が出来たらそこに付け込んでからめ手で籠絡しようとも思ってたんだけど ───フランツってば彼女のことをものすごく愛しちゃってて 僕が入るスキマなんか微塵も無かったー!

 フランツを初めて教えた時は【僕の運命】だと思った。なぜだかすごく惹かれた。 仕方ない……完敗さ フフフ…弟子を、気持ちよく送り出してあげなきゃ)


 アンドレアスは実は、フランツに対して秘めた恋心を抱いていた。(トルーデ兄・ヴィリーの懸念はある意味当たっていたのかも)

 同性のカップルも結婚も当たり前の王国。
 アンドレアスはいまだピンとくる相手に巡り会えないでいた。

(初めて自分から欲するような好ましい相手に出会っても既にお相手がいた、か…)

 そんなアンドレアスに、従者であるカールヘンは言う。

「たとえ若にパートナーが出来なくとも、私がずっとおそばにいてお世話致します。老後の心配はございません ご安心下さい」

「いやいやいや僕、老後の安心の為に恋人を探してるわけじゃないから!」

 アンドレアスは、天才ゆえに幼少期に王国のエリート養成寄宿舎に放り込まれたのだが、その時に身の回りの世話をする従者として、乳兄弟のカールヘンが同行した。アンドレアスの生家であるオーバーディーク公爵家は古くからの魔術の名家。当代の公爵は王弟。その四男として生まれたアンドレアスは身の回りの世話は従者やメイドが行うのが当たり前という環境で育った。湯浴みの際に服を脱ぐのさえ、自分では脱がなくていいし濡れた身体を拭くのも従者の仕事だ。
 だから寄宿舎への入舎にはカールヘンが同行した。

 野営実習などもあるから、10歳までにはさすがの貴族の坊・アンドレアスも一通り自分の身の回りは自分で出来るようになった。

 そんなわけでアンドレアスとカールヘンは、かれこれ20年は一緒に暮らしている。
 
 
 アンドレアスにとってカールヘンは、乳兄弟であり幼なじみであり従者であり親友であり家族であった。

 今回のザゴルノ・ズラバフ勤務では、カールヘンはアンドレアスの世話全般のかたわら事務作業などの補助要員として働いた。

 ふふっとカールヘンは笑う。

(今は若のそばにいられるだけでいい。それで満足だ。若の幸せが私の望みだ ────…パートナーが出来て離れろと言われたらその時は離れるさ……)

 そこまで考えて、チクッと生じた心の痛みに蓋をした。


 アンドレアスもアンドレアスで、従者なしで暮らせないこともないのだがカールと一緒の暮らしに慣れすぎてもう単身住まいをする気にはなれないのであった……。果たしてそれは今まで共に暮らした者としての情なのか、それとも別の情愛なのか。二人がそれぞれ相手と向き合うまで分からない問題なのかもしれない。

ーーーーー


 魔術の師匠をこの回に出すというのは決めていました。細かい設定をせずになんとなく書き始めたら自然とこの2人が出てきてここにスッポリ収まってしまいました。
 物語の大筋に関わるキャラクターではないのですが、作者として非常に愛着がある2人です。



お読みいただきありがとうございます。
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