【完】天涯孤独になった筈が、周りで奪い合いが起きているようです

迦陵 れん

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第一章 回り出した歯車

人の手の及ばぬ何か

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 ついに……来た。

 目的であった家の扉の前で、青いマントを羽織った男は、歓喜に身体を震わせていた。

『一人の娘を連れて来い』という任務を受けて後、ここまで辿り着くのに、一体どれ程の苦労を強いられただろう。

 この任務が終わるまで休暇はなしだと厳命され、休む間もなく働いた結果、幾人もの部下達を過労により失った。

 必要賃金だと渡された金も底をつき、かといって手ぶらで帰るわけにもいかず、仕方なく自らの蓄えを切り崩しながら、ここまで来た。

 無論、そんな状態に疑問を感じたことがなかったわけではない。

 こうまでして任務を達成することに意味はあるのか? 多くの部下の命を失い、自腹を切ってまで続けなければならないものなのか? ……だとしたら、それはいつまで?

 幾度となく自問自答し、悩み、けれども自己判断で任務を放棄することはどうしてもできず、今日までずるずると続けてきてしまった。

 自分一人が逃げて済むなら、間違いなくそうしていただろう。

 だが、隊長である自分の判断は、否応なしに部下を巻き込む。任務放棄はクビだ。クビになれば当然給料はもらえず、生活に困ることになる。

 すぐに別の仕事に就くことができればまだ良いだろうが、それでも王宮騎士である今の給料とは比べるべくもないだろうし、下手をすれば、任務放棄を知られた時点で命を奪われる危険性だってあるのだ。

 自分が逃げ出せば、なんの罪もない部下達まで疑われ、処罰されるかもしれない。

 一介の隊長でしかないミルドには、部下達の命や今後の人生まで背負う覚悟はなかった。

 どんなに辛く、危険な任務であろうとも、所詮雇われ騎士である自分達に、選択の余地はないのだ。

 そうして、目当ての娘を探しに探し続けて、とうとうこんな辺鄙な場所にまで来てしまったわけなのだが──それがようやく報われることになろうとは。

 目の前の扉を開き、その中にいるであろう一人の娘を目的の場所へと連れ帰れば、恐らく──というのは、目当ての娘にこれといった特徴や目印などがない為、連れ帰らなければ対象人物かどうかの判断がつかないからだ──任務は完了する。

 これまで数えきれない数の娘達を連れ帰り、その度に主君によって無能扱いされ辛酸を舐めてきたが、今回ばかりは何故かある確信めいた思いがミルドの中にあった。

「万一ここに目当ての娘が居なかったとしても、この村には必ず何かある筈だ……」

 扉の取手に、手をかけながら呟く。

 思いがけない幸運のおかげで、こうして村内へと侵入することができたわけだが、それがなかったら未だ自分達は深い森の中を彷徨い歩いていたに違いない。そう思わずにいられない程、この村の入口は完璧に擬態され、隠されていた。

 そもそも、村一つ見つけ出すのにここまで苦労する事自体、普通では考えられないことなのだ。

 いくら入口を隠したところで、村の存在自体を隠し続けることは、ほぼ不可能に近い。その理由は幾つかあるが……最たるものは、外部との繋がりだろう。

 生活していく上で、外部との繋がりは必要不可欠なものだが、繋がりがあれば当然綻びもできるわけで、どんなに隠したくとも何かしらの情報は必ず漏れるものだ。

 なのに、この村に関しては、これまでの必死な捜索の最中にも、その存在の手掛かりすら見つけることはできなかった。島内に存在する町という町、村という村、そのほか人が済んでいると思われる場所を隈なく探し続けた時ですら、この村の話はどこからも、誰からも聞く事はなかったのだ。

 まるでに、守られているかのように。

「フッ……馬鹿らしい」

 ふと思い付いた自分の考えを、ミルドは鼻で笑い飛ばした。

 こんな場所にある小さな村が、何かに守られている筈などない。今まで見付けられなかったのは、単に鬱蒼とした周囲の森に、村が同化し過ぎていたせいだ。

 だが、こんな辺鄙な場所に、わざわざ村を作った理由は絶対にあるだろう。

 たとえ今回の任務がまた失敗だったとしても、その理由によっては、任務達成以上の成果を得られるかもしれない。

 まずは目当ての娘を手に入れ、その後で……。

 把手を握る手に力をこめながら、久しぶりに湧き上がる高揚感に、ミルドは口から笑いがこぼれるのを禁じえなかった。







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