【完】天涯孤独になった筈が、周りで奪い合いが起きているようです

迦陵 れん

文字の大きさ
4 / 205
第一章 回り出した歯車

侵入者

しおりを挟む
 ラズリの目の前にいたのは、見知らぬ三人の男達だった。

 一人は青いマントを羽織り、艶やかな黒髪をなびかせた、どこか気品の漂う人物。 あとの二人は、なんだかよく分からない頑丈そうなもの──甲冑──に全身を包みこんでいて、顔すら窺い知ることはできない。 

 初めて見る格好の、明らかに村の空気にそぐわない三人。
   
「どうして、知らない人がここに……?」 

 目の前の事実が俄かには信じられず、ラズリは何度も目を瞬いた。

 産まれてからずっとこの村で生きてきて、これまで一度たりとも村人以外の人間を見かけた事はなかった。

 村の外は危ないからと、外へ出してもらったこともなく。同様に、外の人間は危険だから、外部の人間は村への出入りを禁止にしているとも聞いていた。

 その為、万が一にも村の存在が知られる事のないように、外部との繋がりを一切断ち、食料を含む全ての物を、すべて自給自足で賄ってきたのだ。

 村の入口は森の木々で巧妙に隠されているらしく、外からは絶対に分からない──だからこそ、一度外に出たら二度と戻れないと言われていた──ため、何があろうと外へ出てはいけない、と祖父から言い含められてもいた。

 それなのにこの人達は、どうやってここへ入ってきたのだろうか?

 もう何年、もしかしたら十年以上もの間、出入りされなかった村と森との境目は、既に区別など完全につかなくなっている筈。その出入り口をどうやって見つけ、村に入り込んで来たというのだろうか。

 鬱蒼と茂る森の奥深くの、普通であれば誰も立ち入らないような場所にある、名も無き村に。

 と、そこまで考えた時、ラズリは再び自分へと掛けられた男の声によって、思考を強制的に中断させられた。

「……お嬢さん? よければ道案内を頼みたいのだが……」

 聞こえているか? と膝を折り、男は視線の高さを合わせるようにして、顔を覗き込んでくる。

 恐らくだが、無言のまま身じろぎもしないラズリに、焦れたのだろう。

 けれどラズリは、初めて見る外部の人間に、頭の中が真っ白になってしまって。

「っ……!」

 気付けば、彼等から逆方向へと、脱兎のごとく逃げ出していた。

「おい、待て……!」

 後ろから、咎めるような声が聞こえてきたが、待てと言われて待つぐらいなら、最初から逃げ出してなどいない。見知らぬ男達は重そうなものを身につけていたから、たとえ追われても捕まることはないだろう。

 初めて会った、外部の人間。

 ラズリはとにかく彼等から距離をとるべく、全力で村内を駆けた。



※※※



「……逃げられましたね」
「ああ、そうだな」

 青いマントを羽織った男は、呆然とした響きを宿した部下の言葉に、苦虫を噛み潰したかのような顔で頷いた。

「せっかく丁度良い所で案内役を見つけたと思ったのだが、まさかあそこまで勢い良く逃げられるとは……」
 
 立場上、女性から逃げられた事などない彼にとって、あの娘の行動はある意味衝撃的だった。

 無体を働こうとしたならともかく、まさか声を掛けただけで逃げられるとは。

「……私の顔は、それ程までに凶悪であったか?」

 自分の顔にある程度の自信を持っていたのだが、まさか自信過剰であったのか? と若干不安になり、部下へ問い掛ける。

「いえ……。兜を着けている状態でなら分かりませんが、隊長のご尊顔は決して女性に怖がられるようなものではないかと」
「だよな? だとしたら、何故あの娘は私から逃げたのだろうか……」

 答えた部下の声に偽りがないのを感じ取り、だったら何故? と首を傾げる。

 どこの町でも、自分に声を掛けられた娘達は、みな一様に嬉しそうな顔をしたのに……。

 釈然としない気持ちを抱えながらも、青いマントの男は周囲を見廻し、他に声を掛けられそうな人影を探した。

 できれば案内人は女性が好ましい──自分が男であるが故に──が、この際どちらでも構わない。

 かなりの苦労をしてこの村へと辿り着いたのだ。手ぶらで帰ることだけはしたくなかった。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです ※表紙 AIアプリ作成

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~

みちのあかり
ファンタジー
同じゼミに通う王子から、ありえないプロポーズを受ける貧乏奨学生のレイシア。 何でこんなことに? レイシアは今までの生き方を振り返り始めた。 第一部(領地でスローライフ) 5歳の誕生日。お父様とお母様にお祝いされ、教会で祝福を受ける。教会で孤児と一緒に勉強をはじめるレイシアは、その才能が開花し非常に優秀に育っていく。お母様が里帰り出産。生まれてくる弟のために、料理やメイド仕事を覚えようと必死に頑張るレイシア。 お母様も戻り、家族で幸せな生活を送るレイシア。 しかし、未曽有の災害が起こり、領地は借金を負うことに。 貧乏でも明るく生きるレイシアの、ハートフルコメディ。 第二部(学園無双) 貧乏なため、奨学生として貴族が通う学園に入学したレイシア。 貴族としての進学は奨学生では無理? 平民に落ちても生きていけるコースを選ぶ。 だが、様々な思惑により貴族のコースも受けなければいけないレイシア。お金持ちの貴族の女子には嫌われ相手にされない。 そんなことは気にもせず、お金儲け、特許取得を目指すレイシア。 ところが、いきなり王子からプロポーズを受け・・・ 学園無双の痛快コメディ カクヨムで240万PV頂いています。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...