【完】天涯孤独になった筈が、周りで奪い合いが起きているようです

迦陵 れん

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第二章 赤い魔性

放火犯

「なに、これ……」

 予想もしていなかった凄惨な光景に、ラズリの全身が戦慄く。

 燃え盛る炎の激しさや、地響きの様子からある程度の予想はしていたものの、まさかここまで村が酷い状態になっているとは思いもしていなかった。

 家という家、田や畑、周囲の森──全てが火に呑み込まれ、原型がないのは勿論のこと、何処に何があったのかさえ分からなくなっている。

 村は大量のどす黒い煙に覆われ、上空からでは細部まで窺い知ることはできない。だが、それでももう、どうしようもないということは、認めざるを得なかった。

「どうして、こんな事に……」

 燃えているのが、まさか自分の住んでいた村だなんて、全くもって考えもしていなかったから、気持ちが追いついていかない。意識を失っている間に、てっきり自分は遠くへ運ばれたと思っていたから。

「おじいちゃん……みんな……」

 別れたのは、つい先程の事だった。こんな風に会えなくなると分かっていたら、決して村から出たりしなかったのに。

 遥か下の地上に広がる炎を見ながら、ラズリの脳裏に、祖父や村人達の顔が次々に浮かんでは消えていく。

 如何に前向きに捉えようとも、今の状況で村人達が生きていると思えるほど、楽観的にはとてもなれなかった。

「誰か……生き残ってる人はいないの?」

 無駄と知りつつ、それでもラズリは懸命に動く人影を探す。

 もしかしたら、早い段階で逃げ出した人がいるかもしれない。村から少し離れた場所で、火事がおさまるのを待っている人がいるかもしれない。

 そんな僅かながらの希望を抱いて、上空から見える範囲を、ラズリは目を皿のようにして探した。けれど。
 
「もう手遅れだ。誰一人助かった者はいない」

 無情な奏の言葉が、ラズリの希望を容赦なく打ち砕く。

「嘘よ! そんな筈ない。探せばきっと、どこかに一人ぐらい……!」

 いくら火事に遭ったとはいえ、全員が全員逃げ遅れるなんて、あり得ない。

 たとえ消火が間に合わなかったとしても、駄目だと思った時点で森へ逃げれば、死ぬ事だってなかったはずだ。

 なのに、どうして誰一人助かった者がいないのか?

 そんなのは、あまりにもおかしい。おかしすぎる。

 もしそれが事実だとしたら、誰かに仕組まれでもしなければ──。

「そういえば……」

 そこでラズリは、唐突に王宮騎士達の存在を思い出した。

 あの人達はどうしただろう? 王宮から来たと言っていた、あの騎士達は……。

 てっきり、自分を安全な場所に寝かせた後、火事の対処へ向かったのだと思っていた。

 けれどそれが、違うというなら? 彼等が別の目的のために、今、自分の側を離れているのだとしたら、どうだろう?

「別の目的……。まさか、この火事を起こしたのが王宮騎士達だなんて事……ないわよね?」

 震える声で奏に問うが、彼は困ったように眉を下げただけで、答えてはくれなかった。

 つまり、きっと、そういう事なのだ。

 何故、奏が明言してくれないのかは分からないが、それでもラズリは、なのだと感じ取った。

 でも、どうして?

 王宮騎士達が村に放火などする理由が分からない。

 自分は彼等の要求に従い、大人しく王宮へ行く事を了承したのに、どうして村に火を放つ必要があるというのか。

 考え込むラズリに対し、奏は速やかに地面へと下り立つと、優しく背中をトン、と押してきた。

「知りたい事があるなら、本人に直接聞けば良いんじゃないのか?」

 言われて、顔を上げる。

 するとそこには、驚いた顔でこちらを見つめるミルドの姿があった。

「ラズリ殿? もしやラズリ殿ではありませんか?」

 彼との間には少しばかり距離があるものの、ミルドは驚いた顔で、足早に近付いてくる。

 背後に連れている部下は一人だけで、他の者達は何処で何をしているのか不明だ。

 だが、未だ馬にも乗らず、村の周囲にいる時点で彼を怪しいとは感じた。そして、周囲が炎に包まれているというのに、妙に冷静なその様子も。

「あなた……確かミルドとか言ったわよね? ここで一体何をしているの?」

 まっすぐ彼を見つめながら尋ねると、一瞬だけだが、ミルドの顔が不快気に歪められたのが分かった。

 その理由は、自分に名前を呼び捨てにされたからか、それとも──。

「そんな事より、ラズリ殿は何故こちらに? 気を失った際、ここからかなり離れた位置に寝かせて置いた筈なのですが……」

 どうやらミルドは、こちらの問いに答える気はないらしい。

 穏やかな声を発してはいるが、右手を隙なく剣の柄に添えた状態で、やや歩調を落としつつ近付いてくる。

 知らない間にラズリが逃げ出していた事に、腹を立てているのだろう。彼の全身からは、怒りとも殺気ともつかないものが発せられ、しかもそれを少しも隠す気はないようだった。

 そんなものに自分が怯えると思われているのなら、滑稽だ。

 そう思い、ラズリはミルドを睨み付ける。

 大切な人達を残酷な方法で自分から奪った相手に、怯むわけにはいかなかった。













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