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第六章 因縁
燃え上がる憎悪
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漸くだ……漸く捕らえた。
黒い靄に全身を絡め取られ、身動きできなくなったミルドを見つめながら、アランはにやりと笑みを浮かべる。
予想外に妙な女が乱入してきたせいで捕まえるのに少々手こずってしまったが、それでも無事にミルドを捕らえることができた。あとは自分を見捨てたことを最大限に後悔させながら、じわじわと痛ぶってやれば良いだけだ。
自分は隊長に見捨てられた──そう悟った瞬間に、アランの中でそれまでミルドに抱いていた尊敬の気持ちが憎悪へと変化した。隊長は、隊長だけは、他の誰になんと言われようとも自分を見捨てることはないと信じていたのに。
裏切られた──信頼していた分だけ、そう思う気持ちは大きかった。
ミルドに対する自分の信頼をあっさりと裏切り、切り捨てたことが許せなかった。たかが片腕を失くしたぐらいで、ああも冷たく切り捨てるとは。
アランはこの時、切り捨てられた理由の大半が、これまでに自分が犯した命令違反のせいだとは夢にも思っていなかった。ミルドはアランを切り捨てる際、そのことをきちんと口にしていたのだが、当のアランはそれについて全く覚えてはいなかったのだ。
アランが自分にとって都合の良い話しか聞こえない、便利な耳を持っていたせいもあるかもしれない。ただ、そのせいで彼が憎悪を燃え上がらせ、自らの身体を覆う黒い靄を一気に増殖させたことだけは確かだった。
「隊長ぉぉぉぉぉっ!」
「うわぁぁぁっ!」
叫ぶと同時にアランは分厚い氷壁を内側から破壊するべく、ミルドの身体を黒い靄によって自らの方へと引き寄せ、勢い良く全身を叩きつける。
「ぐあっ!」
「貴様! 何をする⁉︎」
ミルドを助けようとすぐさま女魔性が動いたが、黒い靄は彼女の力をもってしても消すことはできないらしく、殺意のこもる瞳でギロリと睨みつけられた。
「悪いのは俺じゃない。ミルド隊長の方でしょう?」
だって俺の信頼を裏切ったんだから。報いを受けて当然ですよ。
肩を竦めてアランが言うと、ミルドは全身を襲う痛みに身体を震わせながらも鼻で笑った。
「悪いのはお前じゃないだって? どうしたらそんなお目出度い考え方ができるんだ? いや……そういった考え方しかできないからこそ、そんな気持ち悪いものに手を借りてまで私を倒そうとするのか……お前の脳内にそこまで花が咲いていたとは、さすがの私も気付かなかったな」
「んなっ……! な、な、なんだと!」
ミルドの言葉に腹を立て、怒り狂ったアランは気持ちのままにミルドの身体を振り回し、氷壁や固い地面に何度も何度も打ちつけた。
その度に氷依が地面を水溜りに変化させたり、氷壁を消したりとできる限りミルドが傷を負わないよう配慮するものの、高い位置から叩きつけられれば地面も水溜りも然程硬度は変わらない。──結果、ミルドは幾度も自分を襲う衝撃と痛みに、歯を食いしばって耐えなければならなかった。
馬鹿なことを言ってアランを怒らせなければ──そうすれば、恐らくこんな目には遭わなかっただろう。だがミルドはどうしても、言い返さずにはいられなかったのだ。
いつでも正しいのは自分だと言い張り、他人にばかり責任を押し付けるアラン。そのために人外の力まで手に入れるなど、最早正気を失っているとしか思えない。だから最後に苦言を呈し、それで駄目なら彼を副隊長に任命した自分が責任を取る形で始末をつけようと心に決めた。
アランを隊に引き入れたのは自分であるし、彼があのように悍ましい人外の力に手を伸ばしたのも自分のせいだ。
どちらも自分のせいであるのなら、自らが方をつけるのは当然だろう。
だがまずは、黒い靄の拘束から抜け出せなければ話にならない。
「ぐっ! うぅっ……」
考えている間も容赦なく地面に叩きつけられ、ミルドは苦痛の声を漏らした。
黒い靄に全身を絡め取られ、身動きできなくなったミルドを見つめながら、アランはにやりと笑みを浮かべる。
予想外に妙な女が乱入してきたせいで捕まえるのに少々手こずってしまったが、それでも無事にミルドを捕らえることができた。あとは自分を見捨てたことを最大限に後悔させながら、じわじわと痛ぶってやれば良いだけだ。
自分は隊長に見捨てられた──そう悟った瞬間に、アランの中でそれまでミルドに抱いていた尊敬の気持ちが憎悪へと変化した。隊長は、隊長だけは、他の誰になんと言われようとも自分を見捨てることはないと信じていたのに。
裏切られた──信頼していた分だけ、そう思う気持ちは大きかった。
ミルドに対する自分の信頼をあっさりと裏切り、切り捨てたことが許せなかった。たかが片腕を失くしたぐらいで、ああも冷たく切り捨てるとは。
アランはこの時、切り捨てられた理由の大半が、これまでに自分が犯した命令違反のせいだとは夢にも思っていなかった。ミルドはアランを切り捨てる際、そのことをきちんと口にしていたのだが、当のアランはそれについて全く覚えてはいなかったのだ。
アランが自分にとって都合の良い話しか聞こえない、便利な耳を持っていたせいもあるかもしれない。ただ、そのせいで彼が憎悪を燃え上がらせ、自らの身体を覆う黒い靄を一気に増殖させたことだけは確かだった。
「隊長ぉぉぉぉぉっ!」
「うわぁぁぁっ!」
叫ぶと同時にアランは分厚い氷壁を内側から破壊するべく、ミルドの身体を黒い靄によって自らの方へと引き寄せ、勢い良く全身を叩きつける。
「ぐあっ!」
「貴様! 何をする⁉︎」
ミルドを助けようとすぐさま女魔性が動いたが、黒い靄は彼女の力をもってしても消すことはできないらしく、殺意のこもる瞳でギロリと睨みつけられた。
「悪いのは俺じゃない。ミルド隊長の方でしょう?」
だって俺の信頼を裏切ったんだから。報いを受けて当然ですよ。
肩を竦めてアランが言うと、ミルドは全身を襲う痛みに身体を震わせながらも鼻で笑った。
「悪いのはお前じゃないだって? どうしたらそんなお目出度い考え方ができるんだ? いや……そういった考え方しかできないからこそ、そんな気持ち悪いものに手を借りてまで私を倒そうとするのか……お前の脳内にそこまで花が咲いていたとは、さすがの私も気付かなかったな」
「んなっ……! な、な、なんだと!」
ミルドの言葉に腹を立て、怒り狂ったアランは気持ちのままにミルドの身体を振り回し、氷壁や固い地面に何度も何度も打ちつけた。
その度に氷依が地面を水溜りに変化させたり、氷壁を消したりとできる限りミルドが傷を負わないよう配慮するものの、高い位置から叩きつけられれば地面も水溜りも然程硬度は変わらない。──結果、ミルドは幾度も自分を襲う衝撃と痛みに、歯を食いしばって耐えなければならなかった。
馬鹿なことを言ってアランを怒らせなければ──そうすれば、恐らくこんな目には遭わなかっただろう。だがミルドはどうしても、言い返さずにはいられなかったのだ。
いつでも正しいのは自分だと言い張り、他人にばかり責任を押し付けるアラン。そのために人外の力まで手に入れるなど、最早正気を失っているとしか思えない。だから最後に苦言を呈し、それで駄目なら彼を副隊長に任命した自分が責任を取る形で始末をつけようと心に決めた。
アランを隊に引き入れたのは自分であるし、彼があのように悍ましい人外の力に手を伸ばしたのも自分のせいだ。
どちらも自分のせいであるのなら、自らが方をつけるのは当然だろう。
だがまずは、黒い靄の拘束から抜け出せなければ話にならない。
「ぐっ! うぅっ……」
考えている間も容赦なく地面に叩きつけられ、ミルドは苦痛の声を漏らした。
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