75 / 205
第六章 因縁
燃え上がる憎悪
漸くだ……漸く捕らえた。
黒い靄に全身を絡め取られ、身動きできなくなったミルドを見つめながら、アランはにやりと笑みを浮かべる。
予想外に妙な女が乱入してきたせいで捕まえるのに少々手こずってしまったが、それでも無事にミルドを捕らえることができた。あとは自分を見捨てたことを最大限に後悔させながら、じわじわと痛ぶってやれば良いだけだ。
自分は隊長に見捨てられた──そう悟った瞬間に、アランの中でそれまでミルドに抱いていた尊敬の気持ちが憎悪へと変化した。隊長は、隊長だけは、他の誰になんと言われようとも自分を見捨てることはないと信じていたのに。
裏切られた──信頼していた分だけ、そう思う気持ちは大きかった。
ミルドに対する自分の信頼をあっさりと裏切り、切り捨てたことが許せなかった。たかが片腕を失くしたぐらいで、ああも冷たく切り捨てるとは。
アランはこの時、切り捨てられた理由の大半が、これまでに自分が犯した命令違反のせいだとは夢にも思っていなかった。ミルドはアランを切り捨てる際、そのことをきちんと口にしていたのだが、当のアランはそれについて全く覚えてはいなかったのだ。
アランが自分にとって都合の良い話しか聞こえない、便利な耳を持っていたせいもあるかもしれない。ただ、そのせいで彼が憎悪を燃え上がらせ、自らの身体を覆う黒い靄を一気に増殖させたことだけは確かだった。
「隊長ぉぉぉぉぉっ!」
「うわぁぁぁっ!」
叫ぶと同時にアランは分厚い氷壁を内側から破壊するべく、ミルドの身体を黒い靄によって自らの方へと引き寄せ、勢い良く全身を叩きつける。
「ぐあっ!」
「貴様! 何をする⁉︎」
ミルドを助けようとすぐさま女魔性が動いたが、黒い靄は彼女の力をもってしても消すことはできないらしく、殺意のこもる瞳でギロリと睨みつけられた。
「悪いのは俺じゃない。ミルド隊長の方でしょう?」
だって俺の信頼を裏切ったんだから。報いを受けて当然ですよ。
肩を竦めてアランが言うと、ミルドは全身を襲う痛みに身体を震わせながらも鼻で笑った。
「悪いのはお前じゃないだって? どうしたらそんなお目出度い考え方ができるんだ? いや……そういった考え方しかできないからこそ、そんな気持ち悪いものに手を借りてまで私を倒そうとするのか……お前の脳内にそこまで花が咲いていたとは、さすがの私も気付かなかったな」
「んなっ……! な、な、なんだと!」
ミルドの言葉に腹を立て、怒り狂ったアランは気持ちのままにミルドの身体を振り回し、氷壁や固い地面に何度も何度も打ちつけた。
その度に氷依が地面を水溜りに変化させたり、氷壁を消したりとできる限りミルドが傷を負わないよう配慮するものの、高い位置から叩きつけられれば地面も水溜りも然程硬度は変わらない。──結果、ミルドは幾度も自分を襲う衝撃と痛みに、歯を食いしばって耐えなければならなかった。
馬鹿なことを言ってアランを怒らせなければ──そうすれば、恐らくこんな目には遭わなかっただろう。だがミルドはどうしても、言い返さずにはいられなかったのだ。
いつでも正しいのは自分だと言い張り、他人にばかり責任を押し付けるアラン。そのために人外の力まで手に入れるなど、最早正気を失っているとしか思えない。だから最後に苦言を呈し、それで駄目なら彼を副隊長に任命した自分が責任を取る形で始末をつけようと心に決めた。
アランを隊に引き入れたのは自分であるし、彼があのように悍ましい人外の力に手を伸ばしたのも自分のせいだ。
どちらも自分のせいであるのなら、自らが方をつけるのは当然だろう。
だがまずは、黒い靄の拘束から抜け出せなければ話にならない。
「ぐっ! うぅっ……」
考えている間も容赦なく地面に叩きつけられ、ミルドは苦痛の声を漏らした。
黒い靄に全身を絡め取られ、身動きできなくなったミルドを見つめながら、アランはにやりと笑みを浮かべる。
予想外に妙な女が乱入してきたせいで捕まえるのに少々手こずってしまったが、それでも無事にミルドを捕らえることができた。あとは自分を見捨てたことを最大限に後悔させながら、じわじわと痛ぶってやれば良いだけだ。
自分は隊長に見捨てられた──そう悟った瞬間に、アランの中でそれまでミルドに抱いていた尊敬の気持ちが憎悪へと変化した。隊長は、隊長だけは、他の誰になんと言われようとも自分を見捨てることはないと信じていたのに。
裏切られた──信頼していた分だけ、そう思う気持ちは大きかった。
ミルドに対する自分の信頼をあっさりと裏切り、切り捨てたことが許せなかった。たかが片腕を失くしたぐらいで、ああも冷たく切り捨てるとは。
アランはこの時、切り捨てられた理由の大半が、これまでに自分が犯した命令違反のせいだとは夢にも思っていなかった。ミルドはアランを切り捨てる際、そのことをきちんと口にしていたのだが、当のアランはそれについて全く覚えてはいなかったのだ。
アランが自分にとって都合の良い話しか聞こえない、便利な耳を持っていたせいもあるかもしれない。ただ、そのせいで彼が憎悪を燃え上がらせ、自らの身体を覆う黒い靄を一気に増殖させたことだけは確かだった。
「隊長ぉぉぉぉぉっ!」
「うわぁぁぁっ!」
叫ぶと同時にアランは分厚い氷壁を内側から破壊するべく、ミルドの身体を黒い靄によって自らの方へと引き寄せ、勢い良く全身を叩きつける。
「ぐあっ!」
「貴様! 何をする⁉︎」
ミルドを助けようとすぐさま女魔性が動いたが、黒い靄は彼女の力をもってしても消すことはできないらしく、殺意のこもる瞳でギロリと睨みつけられた。
「悪いのは俺じゃない。ミルド隊長の方でしょう?」
だって俺の信頼を裏切ったんだから。報いを受けて当然ですよ。
肩を竦めてアランが言うと、ミルドは全身を襲う痛みに身体を震わせながらも鼻で笑った。
「悪いのはお前じゃないだって? どうしたらそんなお目出度い考え方ができるんだ? いや……そういった考え方しかできないからこそ、そんな気持ち悪いものに手を借りてまで私を倒そうとするのか……お前の脳内にそこまで花が咲いていたとは、さすがの私も気付かなかったな」
「んなっ……! な、な、なんだと!」
ミルドの言葉に腹を立て、怒り狂ったアランは気持ちのままにミルドの身体を振り回し、氷壁や固い地面に何度も何度も打ちつけた。
その度に氷依が地面を水溜りに変化させたり、氷壁を消したりとできる限りミルドが傷を負わないよう配慮するものの、高い位置から叩きつけられれば地面も水溜りも然程硬度は変わらない。──結果、ミルドは幾度も自分を襲う衝撃と痛みに、歯を食いしばって耐えなければならなかった。
馬鹿なことを言ってアランを怒らせなければ──そうすれば、恐らくこんな目には遭わなかっただろう。だがミルドはどうしても、言い返さずにはいられなかったのだ。
いつでも正しいのは自分だと言い張り、他人にばかり責任を押し付けるアラン。そのために人外の力まで手に入れるなど、最早正気を失っているとしか思えない。だから最後に苦言を呈し、それで駄目なら彼を副隊長に任命した自分が責任を取る形で始末をつけようと心に決めた。
アランを隊に引き入れたのは自分であるし、彼があのように悍ましい人外の力に手を伸ばしたのも自分のせいだ。
どちらも自分のせいであるのなら、自らが方をつけるのは当然だろう。
だがまずは、黒い靄の拘束から抜け出せなければ話にならない。
「ぐっ! うぅっ……」
考えている間も容赦なく地面に叩きつけられ、ミルドは苦痛の声を漏らした。
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?
志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。
父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。
多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。
オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。
それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。
この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています
ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!
【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝🌹グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
そう名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
✴️設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
✴️稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️