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第四章 旦那様がグイグイ来ます
歯切れの悪い2人
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「ん? どうしたグラディス? 急に下を向いて……何か気になることでもあったのか?」
突然俯き、黙り込んでしまったからか、リーゲル様が心配して私に声を掛けてくれる。
いけない。つい露骨に落ち込んでしまったわ。
リーゲル様を不安にさせたいわけではないのに。
私は暗い考えを頭から追い払い、別の気になっていたことを口に出す。
「気になることというか……ただ、殿下はあっさりお帰りになったのかな? と思いまして」
「どういう意味だ?」
「なんと言いますか……殿下は大変リーゲル様をお気に召していらっしゃるようでしたので、てっきり夜まで居座られると──あ、い、いえ、失礼しました。夜まで滞在されるものと思っていたので……」
「ぶふっ」
居座られる──と言ったところでポルテのわざとらしい咳払いが聞こえたから、慌てて言い直したのだけれど、何故かリーゲル様に吹き出されてしまった。
今何か、吹き出すような面白いこと言った? 言ってないわよね?
怪訝に思いながら、肩を震わせるリーゲル様を見つめる。
その時ふと、私は既視感を覚え、眉間に皺を寄せた。
こんな風に笑うリーゲル様を、ごく最近見たような……?
どこで見たのかしら? と考えながら、チラリとポルテに視線を向ける。
瞬間、どこで見たのかを思い出し、私はつい大声をあげた。
「ああ、そうだわ!」
それに驚いたのはリーゲル様だ。
「どうした!?」
一瞬で笑いを収め、大きく見開いた目で私を見つめてくる。
「いえ、あの、少し思い出したことがあって……」
「それは、なんだ?」
さっきまで歯切れが悪いのはリーゲル様だったのに、今度は私の歯切れが悪い。
自分でも自覚はあるけど、今思い出したことは後回しだ。取り敢えず今は、先に王女殿下のことを教えてもらおう。
「先ずは殿下のことについて話していただけませんか?」
ついさっきのことはなかったかのように微笑むも、
「私の方が先なのか?」
先程の大声の理由が気になっているらしいリーゲル様は、明らかに不服そうな顔をする。
そんな顔をされたところで、このままではいつまで経っても殿下の話は聞けそうにないから、私は譲るつもりはない。
「そもそも、先に質問したのは私なのですから、其方から話すのが筋だと思いますが」
そう言えば、彼はぐっと言葉に詰まった。
きっと私の言い分が正しいと思ったのに違いない。
こういう時、無理矢理自分の意見を通さないあたり、さすが公爵様といったところ。
「仕方ないな……。私が殿下の話をしたら、君も必ず大声を出した理由を教えるように。いいな?」
「はい、もちろんですわ」
交換条件であるかのように告げたリーゲル様に、私は大きく頷いてみせる。
それでもまだ、幾らか不満そうではあったけれど、彼はやがて渋々といった態で口を開いた。
「殿下を帰らせるのは、正直かなり……大変だった」
「でしょうね……」
やはり。という気持ちが、私の心に飛来する。
私はその場にいなかったから詳しくは分からないけれど、その時のことを思い出して語るリーゲル様の様子だけでも、どれ程大変だったのかが伝わってくるぐらいだから。
「妻と約束があると言っても、奥方などより自分を優先しろと言うし、そういうわけにはいかないと突っぱねれば、もう自分のことを愛していないのかと泣き出す始末で……」
やれやれとばかりに、難しい顔をしてリーゲル様は頭を振る。
聞いているだけでもかなり面倒くさいその状況は、現場にいた彼にとって、正に地獄だったことだろう。
「殿下のことなど最初から愛していない──などと言えば、もっと拗れることは分かっていたから、とにかく平謝りをして……後日一緒に出掛ける約束をすることで、なんとか納得していただいた」
「はあっ!?」
そこでまた、大声を出してしまった私。
一緒に出掛けるってなに?
邸に長時間居座られるよりも状況が悪化しているじゃないの!
「リーゲル様……こんなこと言いたくはありませんが、それは限りなく悪手であったかと」
「う、うむ……。そうだよな。私も言ってしまってから、しまったと思ったのだが、口から出た言葉は取り消せず……」
なんということかしら。
邸で会うだけならともかく、一緒に出掛けたりなどしたら、周囲にデートだと思われてしまうかもしれないわ。否、絶対にそう思われるわね。
「ちなみに、リーゲル様は何故そこまでして殿下を早く帰らせようと思ったのですか? 大人しく邸で殿下の機嫌をとっておけば、そこまで悪い方向へはいかなかったと思うのですが」
「それは……」
またしても、リーゲル様は口を噤んでしまう。
殿下が話に関わると、どうしてこうも歯切れが悪くなるのかが理解できない。
今更何を言われても気にしない──わけではないけど──から、さっさと正直に話してくれればいいのに。
そんな風に言い淀まれると、逆にありもしないことを疑いたくなってしまうわ。
「リーゲル様?」
とうとう俯いてしまった彼の顔を覗き込むようにして、下から見上げる。
刹那、彼はぎょっとしたように目を見開くと、もの凄い勢いで顔を上に向けた。
「リ、リーゲル様……?」
彼は本当にどうしてしまったんだろう?
突然俯き、黙り込んでしまったからか、リーゲル様が心配して私に声を掛けてくれる。
いけない。つい露骨に落ち込んでしまったわ。
リーゲル様を不安にさせたいわけではないのに。
私は暗い考えを頭から追い払い、別の気になっていたことを口に出す。
「気になることというか……ただ、殿下はあっさりお帰りになったのかな? と思いまして」
「どういう意味だ?」
「なんと言いますか……殿下は大変リーゲル様をお気に召していらっしゃるようでしたので、てっきり夜まで居座られると──あ、い、いえ、失礼しました。夜まで滞在されるものと思っていたので……」
「ぶふっ」
居座られる──と言ったところでポルテのわざとらしい咳払いが聞こえたから、慌てて言い直したのだけれど、何故かリーゲル様に吹き出されてしまった。
今何か、吹き出すような面白いこと言った? 言ってないわよね?
怪訝に思いながら、肩を震わせるリーゲル様を見つめる。
その時ふと、私は既視感を覚え、眉間に皺を寄せた。
こんな風に笑うリーゲル様を、ごく最近見たような……?
どこで見たのかしら? と考えながら、チラリとポルテに視線を向ける。
瞬間、どこで見たのかを思い出し、私はつい大声をあげた。
「ああ、そうだわ!」
それに驚いたのはリーゲル様だ。
「どうした!?」
一瞬で笑いを収め、大きく見開いた目で私を見つめてくる。
「いえ、あの、少し思い出したことがあって……」
「それは、なんだ?」
さっきまで歯切れが悪いのはリーゲル様だったのに、今度は私の歯切れが悪い。
自分でも自覚はあるけど、今思い出したことは後回しだ。取り敢えず今は、先に王女殿下のことを教えてもらおう。
「先ずは殿下のことについて話していただけませんか?」
ついさっきのことはなかったかのように微笑むも、
「私の方が先なのか?」
先程の大声の理由が気になっているらしいリーゲル様は、明らかに不服そうな顔をする。
そんな顔をされたところで、このままではいつまで経っても殿下の話は聞けそうにないから、私は譲るつもりはない。
「そもそも、先に質問したのは私なのですから、其方から話すのが筋だと思いますが」
そう言えば、彼はぐっと言葉に詰まった。
きっと私の言い分が正しいと思ったのに違いない。
こういう時、無理矢理自分の意見を通さないあたり、さすが公爵様といったところ。
「仕方ないな……。私が殿下の話をしたら、君も必ず大声を出した理由を教えるように。いいな?」
「はい、もちろんですわ」
交換条件であるかのように告げたリーゲル様に、私は大きく頷いてみせる。
それでもまだ、幾らか不満そうではあったけれど、彼はやがて渋々といった態で口を開いた。
「殿下を帰らせるのは、正直かなり……大変だった」
「でしょうね……」
やはり。という気持ちが、私の心に飛来する。
私はその場にいなかったから詳しくは分からないけれど、その時のことを思い出して語るリーゲル様の様子だけでも、どれ程大変だったのかが伝わってくるぐらいだから。
「妻と約束があると言っても、奥方などより自分を優先しろと言うし、そういうわけにはいかないと突っぱねれば、もう自分のことを愛していないのかと泣き出す始末で……」
やれやれとばかりに、難しい顔をしてリーゲル様は頭を振る。
聞いているだけでもかなり面倒くさいその状況は、現場にいた彼にとって、正に地獄だったことだろう。
「殿下のことなど最初から愛していない──などと言えば、もっと拗れることは分かっていたから、とにかく平謝りをして……後日一緒に出掛ける約束をすることで、なんとか納得していただいた」
「はあっ!?」
そこでまた、大声を出してしまった私。
一緒に出掛けるってなに?
邸に長時間居座られるよりも状況が悪化しているじゃないの!
「リーゲル様……こんなこと言いたくはありませんが、それは限りなく悪手であったかと」
「う、うむ……。そうだよな。私も言ってしまってから、しまったと思ったのだが、口から出た言葉は取り消せず……」
なんということかしら。
邸で会うだけならともかく、一緒に出掛けたりなどしたら、周囲にデートだと思われてしまうかもしれないわ。否、絶対にそう思われるわね。
「ちなみに、リーゲル様は何故そこまでして殿下を早く帰らせようと思ったのですか? 大人しく邸で殿下の機嫌をとっておけば、そこまで悪い方向へはいかなかったと思うのですが」
「それは……」
またしても、リーゲル様は口を噤んでしまう。
殿下が話に関わると、どうしてこうも歯切れが悪くなるのかが理解できない。
今更何を言われても気にしない──わけではないけど──から、さっさと正直に話してくれればいいのに。
そんな風に言い淀まれると、逆にありもしないことを疑いたくなってしまうわ。
「リーゲル様?」
とうとう俯いてしまった彼の顔を覗き込むようにして、下から見上げる。
刹那、彼はぎょっとしたように目を見開くと、もの凄い勢いで顔を上に向けた。
「リ、リーゲル様……?」
彼は本当にどうしてしまったんだろう?
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