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45 あり得ない提案
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「……っ、ユリア、辛かったね。でも本当にそれで良いの? ユリアはそれで後悔しない?」
ミーティアが私との距離を詰め、瞳を覗き込むようにして確認してくる。
彼女はきっと、心から私のことを心配してくれているんだろう。ミーティアはそういう人だ。
何故なら彼女は、最初からずっとこうだった。出逢ってから今まで、いつも私の話を親身になって聞いてくれて、いろんな相談にものってくれて……淑女らしくない自分に私が落ち込んでいた時も、一生懸命元気付けてくれた。
そんな彼女だから、私がどれだけレスターのことを好きだったのか知っていて、こうして何度も確認してくるのだろう。できる限り私が後悔しなくてすむように。
けれど、私は──。
「正直、レスターと婚約破棄して後悔しない自信はないわ。でも、このまま彼と結婚しても、それはそれで後悔するような気がするの」
思った通りの言葉を、そのまま伝えた。変に誤魔化しても、意味はないから。
「それは……分かるけど、でも……」
私の言うことに頷きながら、それでも納得しきれないと言いた気に、何度も「でも……」と繰り返すミーティア。
基本的に、貴族は政略結婚をさせられることが多い中で、恋愛結婚できるなんて貴重だと、だから諦めるべきではないと、彼女は何度も私に言ってくれた。だから、私がレスターとの婚約を破棄すると決めた時、それが私の決断であるというなら応援すると言いつつ、どこか迷いのある表情をしていたのだ。
できることなら私の気持ちを尊重したい。でも、それは本当に正しいことなの? と悩むミーティアの気持ちが、透けて見えるかのようで。
「ミーティア心配しないで。レスターと駄目になっても、絶対にまた別の良い人を見つけてみせるから」
彼女を安心させるように、精一杯の笑顔を見せた。
勿論そんな保証はどこにもない。
ただでさえ『訳あり令嬢』として学園で令息達から距離を取られている私に、好んで近付いて来るような人なんて、いないと思うから。
でも今は、そう言うしかない。そうすることでしか、ミーティアを納得させることができないような気がして。
「だったらさ、俺なんてどう⁉︎ 俺だったら婚約者だっていないし、ユリアが嫁に来てくれるなら──ってえ⁉︎」
そこでタイミング良く、自分のことを指差しながら、ずいっと此方に向かって身を乗り出してきたフェルが、ミーティアに思いっきり耳を引っ張られて悲鳴をあげた。
「ちょちょ、ミーティア! 痛い、痛いって! 耳が千切れる!」
「あんたがおかしなこと言うからいけないんでしょ! ユリアがあんたみたいに何考えてるか分かんない奴とくっつくなんて……あり得ないから!」
「あり得ないから」の部分をフェルの耳元で叫ぶように言い、耳を押さえて崩れ落ちたフェルに、ミーティアは「次また妙なこと言ったら殺すわよ?」と物騒なことを言っている。
「妙なことって……俺的には至って真面目なんだけど……」
不満気に呟いたフェルの言葉に、私とミーティアは目を丸くした。
「「はあああああ⁉︎」」
思わず声が揃ってしまい、私達は目を見合わせて笑い合う。
それはそうよね。今まで一瞬たりとも、フェルの気持ちが私に向いているなんて、考えたこともなかったんだから。
そして、恐らくそれはミーティアも一緒だったんだろう。だから二人揃って大声を出してしまった。
「真面目って言われても……相手がフェルの時点で、こっちは真面目に受け取れないって言うか……」
腕を組んで難しい顔をするミーティアに、フェルが「酷い!」と言って泣き真似をする。
だから、そういうところが本気に取られない原因なのでは……? と思ったけれど、言わなかった。
言ったところで、フェルはきっと何も変わらない。変えるつもりもないだろう。
「まっ、言ってみただけで自分に可能性があるとは全く思ってないから、気にしなくて良いぞ。何せ俺は最初ユリアに嫌われてたし、それを考えると、友達という今のポジションに収まれただけでも奇跡のようなもんだからな。これ以上を望んだら、罰が当たるってもんだ」
「あっそ。だったら最初からおかしなこと言わないでよね……」
冷めた目で言うミーティアに、口で「がーん!」と言って打ちひしがれた真似をするフェル。
「おかしなことって……俺の一世一代の告白を、おかしなことって……! ミーティア! お前いくらなんでも──」
「はいはい、ごめんねー」
噛みついてくるフェルを軽くいなしたミーティアは、何故だか私の両手をそっと握った。
「え……ミーティア?」
突然どうしたのかと私がちょっと身構えると、ミーティアは可愛く小首を傾げてこう口にした。
「ねぇユリア。今度は婚約破棄の話を教えて? コーラル侯爵令息? だっけ? と、ちゃんと話ができたんだよね?」
逃げられない──そう思った。
ミーティアが私との距離を詰め、瞳を覗き込むようにして確認してくる。
彼女はきっと、心から私のことを心配してくれているんだろう。ミーティアはそういう人だ。
何故なら彼女は、最初からずっとこうだった。出逢ってから今まで、いつも私の話を親身になって聞いてくれて、いろんな相談にものってくれて……淑女らしくない自分に私が落ち込んでいた時も、一生懸命元気付けてくれた。
そんな彼女だから、私がどれだけレスターのことを好きだったのか知っていて、こうして何度も確認してくるのだろう。できる限り私が後悔しなくてすむように。
けれど、私は──。
「正直、レスターと婚約破棄して後悔しない自信はないわ。でも、このまま彼と結婚しても、それはそれで後悔するような気がするの」
思った通りの言葉を、そのまま伝えた。変に誤魔化しても、意味はないから。
「それは……分かるけど、でも……」
私の言うことに頷きながら、それでも納得しきれないと言いた気に、何度も「でも……」と繰り返すミーティア。
基本的に、貴族は政略結婚をさせられることが多い中で、恋愛結婚できるなんて貴重だと、だから諦めるべきではないと、彼女は何度も私に言ってくれた。だから、私がレスターとの婚約を破棄すると決めた時、それが私の決断であるというなら応援すると言いつつ、どこか迷いのある表情をしていたのだ。
できることなら私の気持ちを尊重したい。でも、それは本当に正しいことなの? と悩むミーティアの気持ちが、透けて見えるかのようで。
「ミーティア心配しないで。レスターと駄目になっても、絶対にまた別の良い人を見つけてみせるから」
彼女を安心させるように、精一杯の笑顔を見せた。
勿論そんな保証はどこにもない。
ただでさえ『訳あり令嬢』として学園で令息達から距離を取られている私に、好んで近付いて来るような人なんて、いないと思うから。
でも今は、そう言うしかない。そうすることでしか、ミーティアを納得させることができないような気がして。
「だったらさ、俺なんてどう⁉︎ 俺だったら婚約者だっていないし、ユリアが嫁に来てくれるなら──ってえ⁉︎」
そこでタイミング良く、自分のことを指差しながら、ずいっと此方に向かって身を乗り出してきたフェルが、ミーティアに思いっきり耳を引っ張られて悲鳴をあげた。
「ちょちょ、ミーティア! 痛い、痛いって! 耳が千切れる!」
「あんたがおかしなこと言うからいけないんでしょ! ユリアがあんたみたいに何考えてるか分かんない奴とくっつくなんて……あり得ないから!」
「あり得ないから」の部分をフェルの耳元で叫ぶように言い、耳を押さえて崩れ落ちたフェルに、ミーティアは「次また妙なこと言ったら殺すわよ?」と物騒なことを言っている。
「妙なことって……俺的には至って真面目なんだけど……」
不満気に呟いたフェルの言葉に、私とミーティアは目を丸くした。
「「はあああああ⁉︎」」
思わず声が揃ってしまい、私達は目を見合わせて笑い合う。
それはそうよね。今まで一瞬たりとも、フェルの気持ちが私に向いているなんて、考えたこともなかったんだから。
そして、恐らくそれはミーティアも一緒だったんだろう。だから二人揃って大声を出してしまった。
「真面目って言われても……相手がフェルの時点で、こっちは真面目に受け取れないって言うか……」
腕を組んで難しい顔をするミーティアに、フェルが「酷い!」と言って泣き真似をする。
だから、そういうところが本気に取られない原因なのでは……? と思ったけれど、言わなかった。
言ったところで、フェルはきっと何も変わらない。変えるつもりもないだろう。
「まっ、言ってみただけで自分に可能性があるとは全く思ってないから、気にしなくて良いぞ。何せ俺は最初ユリアに嫌われてたし、それを考えると、友達という今のポジションに収まれただけでも奇跡のようなもんだからな。これ以上を望んだら、罰が当たるってもんだ」
「あっそ。だったら最初からおかしなこと言わないでよね……」
冷めた目で言うミーティアに、口で「がーん!」と言って打ちひしがれた真似をするフェル。
「おかしなことって……俺の一世一代の告白を、おかしなことって……! ミーティア! お前いくらなんでも──」
「はいはい、ごめんねー」
噛みついてくるフェルを軽くいなしたミーティアは、何故だか私の両手をそっと握った。
「え……ミーティア?」
突然どうしたのかと私がちょっと身構えると、ミーティアは可愛く小首を傾げてこう口にした。
「ねぇユリア。今度は婚約破棄の話を教えて? コーラル侯爵令息? だっけ? と、ちゃんと話ができたんだよね?」
逃げられない──そう思った。
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