【完結（続編）ほかに相手がいるのに】

～杉崎～

追憶

過去に、遡れば…

あまりに衝撃的ではあったが、
右も左もわからない混乱状態のさなか、流されるように、最初に沙織と…付き合い始め…

そして、もうこの歳だ…。
学生の頃から現在に至るまで、女性とはそれなりに付き合ってきた…。

思えば、一度も俺から告白したことはなく、相手の女性から積極的なアピールをされ、押されるように付き合うパターンが全ての…全てが受け身の恋愛だった。

もちろん、気になる女性も少しはいたが、自分から行く勇気も気力もなく、アクションなどは一切起こさず、現在に至る。

だから…
今だって、俺は…

智花と、恋人同士でありながら…　
俺は一度だって…彼女を好きだと…愛していると…口にしたことが…ない。
そもそも心から…そんな風に思ったことがあっただろうか…。

何度も、智花に求められるままに、身体を重ねながら…男としての欲望を、吐き出しながら…

彼女に好きだと、伝えたことがあっただろうか…

…多分…　
いや、間違いなく…、一度だって、ない…　

その反面…

智花には何度も、好きだと…　言われた…。

普段の生活において、何気ない瞬間に、俺の性格的部分を指してか、そんなところが好きだと、さらりと言われることもあったし…
セックスの最中には、情熱的に…　

彼女は俺の上にまたがり、獣のように激しく腰を振って絶頂をむかえる瞬間、俺の方を濡れたような眼で見下ろし…
何度も好きだ、愛していると口にして…俺を抱き締めるようにしながら崩れ落ちた…。

そんなことは何度もあったが…その彼女の言葉に、俺は…おそらく一度だって、答えていない…。

彼女が時折、口にする愛の言葉に…
俺も好きだ…愛している…などと、答えることを一切、しなかった…。

出来なかったのだ…

頭の中で、…心の中で思っていないことを、その場しのぎで口にすることが、俺にはできなかった…。


それなのに…　あの時…     俺は…


　　　俺は、

　　　　　自分自身の行動を振り返る…。