【完結（続編）ほかに相手がいるのに】

～杉崎～

奥歯

俺は、自身の目を疑った…。

そこに書いていたことは、俺の予想だにしないことだったからだ…。

だが、ほんの、一瞬のことだ…

見間違いかもしれない…　ほんの数秒の出来事…

そもそも、文字も、さかさまだった…　

既にスマホの画面は真っ暗になっている…　もう一度、確認することは不可能だ…

だが…　　まさか…


　　俺が認識した文面は、こうだ…


『ごめん…あんな無理矢理…ゴムもすべきだった…マジでご…』


そう… 

　　確かに、そう…書いてあった…

ポップアップ画面で映し出された文字は、そこまでで、終わっていて…
続きは何と書いてあったか、定かではないのだが…

まさか…　　

　　　　　まさか…　


　　　　　…　ゴムとは、なんだ　…

無理矢理とは…  …

最初にごめんと書いてある以上…　
男の…水無月さんに対する謝罪文としか…言いようがない…　


無理矢理に…   彼女を… ？
　
　ゴム　…を、すべき…だった…　だと… 

まさか…　そんなことが…　あの夜…　　
そんなことが、彼女の身に起きていた…？

「…　…　…」

俺は、言葉を失う…

あくまで…推測に過ぎないが…

あの日、水無月さんに別れを告げられた男が…逆上して…無理矢理に、彼女を…　抱いた…　？

そして、それだけではなく…
その行為は…　ゴム、なしで…行われた…つまり、
避妊すら、せずに…　　

嫌がる彼女を無理矢理に組み伏せたとでも…いうのか…

「…　…っ… …」

俺の身体は、静かに震え始める…。

そんなことがもしも、あの夜にあったとしたら…


彼女の様子…その行動、全てに合点がいく。

俺から、不自然に視線を逸らすようになったこと。

なんとなく、元気がないこと。
職場で笑う顔が、なんとなく無理をしているように見えること。
不安そうなオーラを、常に身にまとっていること…

出張後の彼女の行動、全てに…合点がいく…納得できてしまう…。

　
その夜、彼女はどんな目に遭ったのだろう…　
その、程度は…想像でしかない…
全てが無理矢理だったのかは、俺にはわからない…

だが…　

ただ、欲望を吐き出すだけの、男とは違い…

妊娠の可能性を孕んでいる状況で…
彼女は今…どれほどに、不安を抱いていることだろう…。
　
ああ…  
　もっと早くに、踏み込むべきだった…

もっと早くに、彼女の異変に気付くべきだった…。

　

　　　　…　ギリ　…

　　
　あの男はやはり、最低…最悪な、男だ…
　　
　　俺は気付けば、これ以上ないほどに…

　　　　　奥歯を、噛み締めていた…