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〜彼氏〜

二組の男女

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「それにしてもさ…あー…マジで、遠いな…東京と九州…前みたいに、会いたいときにすぐ会えねえって言うかさ…」
拓海がローストビーフをフォークで一口かじりながら、ぼやくようにつぶやく。

「うん…そうだね。前と比べると全然会えてないよね、私達…」
私は拓海にそう答えながら、内心…そんなに…寂しく思っていない自分に、気が付く。

拓海と私は大学卒業後、運よく就職浪人せずに、4月からお互いの第一希望の就職先に入ることが出来た。

ただ地元である東京で就職が決まった私と違って、拓海は本社である東京ではなく、遠い九州支社の社員としての採用となった。ただし、本人の頑張りによってはいずれ東京本社に異動も可能とのことで拓海もかなり前向きに頑張ってはいるようだ。

とにかくも、お互いに就職が決まって、4月から遠距離恋愛を開始した私達。

でも…なぜだか私は拓海と離れていることが、そんなに苦ではなかった。
もちろん、拓海がはるばる会いに来てくれると嬉しいし、会えば話は尽きないし、楽しいことに変わりはないのだけど…。

歓迎会で私が彼のことを隠すことなく話したせいか、拓海のことを周りに聞かれることもたびたびあった。
それにきちんと答えるたびに、ほぼ確実に、「ドライだね~」とか「もしかしてもう、冷めてたりするの?」とか…そんな反応ばかり。

私は自分がドライだなんて…考えたこともなかった…。

「…いらっしゃいませ~…二名様ですね…!では…こちらへ…」店内入口の方から、元気な店員さんの声がする。

私達が入店して1時間少し…店内はいつの間にか、満席に近い状態になっていた。

一組の男女が、私たちがいる個室から少し距離がある斜め先のカウンター席に座る…。

…あれ…なんとなく…後ろ姿が杉崎さんに似てる…もしかして…? 

でもあまり見過ぎちゃいけない…そう思って視線を拓海に戻した瞬間、「あ!…水無月…さん…?」
そちらから、高い女性の声がする。

その声の主は林さん…
     やっぱりその男女は…杉崎さんと…林さんだった。

ああ…気まずい…正直、こんな場所で二人に会いたくはなかった…。

「やっぱり!水無月さんだ…ね、修哉さん…!似てると思ったの…こんばんわ…!そちらはもしかして…例の…彼氏…さん?」林さんが、私に遠慮がちに…それでいて積極的に…尋ねてくる。

杉崎さんが私を見る…その後、視線をちらりと拓海の方へうつしたかと思うと、ペコリとお辞儀をする。
「初めまして…杉崎といいます。水無月さんには仕事で大変、お世話になっています。」とあいさつをする。

「あ!いえいえ、こちらこそ…!葉月を…よろしくお願いします…」拓海も意外と、きちんと挨拶を返す。

「ここ、初めて来たのよ…まさか、こんなところで会うなんてね…?じゃあまた…ごゆっくり…」そう言って林さんは杉崎さんの腕を引いて、カウンターの方へ戻っていく。

とてもお似合いのカップル…林さんは杉崎さんのことを、普段は修哉さんって…名前で呼んでるんだな…

やっぱり…林さんには近づかないでおこう…もちろん、杉崎さんにも…。

                       漠然と…そう思った瞬間だった。























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