【完結 R18】ほかに相手がいるのに

もえこ

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〜2人の距離〜

食後の珈琲

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「…そろそろ…出ようか…?」

食後のお茶を飲み終え、湯呑みを置いた後、杉崎さんに声を掛けられる。私の頷くのを待って、伝票を持って立ち上がろうとする杉崎さんに思わず

「あ…あのっ…支払い…私も…」
そう、言いながら慌ててバッグを持って立ち上がる。

「ああ…いいよ、もちろんここは俺が払う…たいした額じゃないから、ほんと気にしないで。俺、君よりひとまわりも上なんだよ?君に払わせることはほぼ無いと、思ってて。」

そう言って颯爽とレジへ向かう杉崎さん。

「すみません、ありがとうございます…ご馳走様でした。」杉崎さんの大きな背中を追いかけながらペコリと頭を下げる。

「ありがとうございました!またぜひ、お越しください」

会計も例の女性店員だった…
きっと、杉崎さんに見惚れて、自ら担当を申し出たに違いない…そんな気がする。
お釣りを渡す際に、杉崎さんの手を包み込むように、チケットのような紙片を数枚、手渡す。

「毎回キャンペーンやってます…おまけで、チケット多めにお渡ししますね。おひとりさまでも大歓迎です、ぜひお立ち寄りください…。」

女の色気をうっすらまとったような目が、杉崎さんを下から見上げる。

「ありがとう…美味しかったです。また、来ますね。」対する杉崎さんはいつものようにさらりと返事をして、すぐに彼女に背を向ける。

「さ…行こうか?水無月さん…」そう言って、ごく自然に外へ促すように、私の肩に触れる。
杉崎さんの突然の接触に、どきりとした…。

その女性店員が私の品定めをするかのように視線を走らせたのがわかった。

まただ…

私みたいなどこから見ても冴えない地味な女が、杉崎さんのような素敵な男性の連れ…並んだって、とても釣り合うはずがない…。

そんなことは、最初からわかってはいるけど…こんな場面で、思い知らされる…。
…なんでこんなに、杉崎さんはどんな場所でも目立つほどに、素敵なんだろう。

そして、そんな魅力的な男性が、私のことを…好きだと言ってくれている…
どうしてもまだ…はっきりとは信じ難い。

二人で夜道を歩いて私の自宅へ向かう途中、
私の少し前を歩いていた杉崎さんが、突然背後の私を振り返る。

「水無月さん…今から、うちに少しだけ寄らないかな…?すごく美味しい珈琲豆をつい最近、入手したんだ。水無月さんは珈琲好きみたいだから…ぜひ、一度飲んでみて欲しいんだけど…」


え・・・?

今から…

杉崎さんの自宅に・・・?


予想していなくて、少し、驚く…。

「あ…ごめん驚かせて…もちろん、何もしない…いや…あの、もしかしたらキス…くらいは…するかもだけど…どうかな?きっと気に入ってもらえる珈琲…なんだけど…」
慌てたように、補足説明をする杉崎さん…

何もしない…
でも、もしかして、キスはするかも…?
少し動揺したような杉崎さんの発言に驚きつつも…


行きたい…


そう、確かに…内心で、
行きたいと思ってしまった…

それが隠しようもない、私の本心だった…。


「美味しい珈琲…飲んでみたいです…行きます…」

まだ、きちんと拓海に話せていないとか、

 林さんがどうだとか関係なく……気付けば、

      私はそんな返事をしていた…。


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