【完結 R18】ほかに相手がいるのに

〜杉崎〜

余裕

約束の土曜日

俺はいつになく、緊張していた。

考えてみれば、彼女と会うのはいつも平日。
夕方食事をするにも仕事後だった。

今回のようにわざわざ休日に約束をして彼女と会うのは…そうだ、この前の旅館の下見…あの日以来のことで…まるで、初めての彼女とのデートのようで…気持ちがざわつく。

しかしもう、俺は浮ついた年齢でもないのだから…今日は大人の余裕で臨まなければ…

俺はそう、自分に言い聞かせながら、普段はしないような、少し光沢のあるネクタイを締める。

あらためて、鏡の中の自分を見る…。

前髪が…少し伸びすぎていて目にかかり鬱陶しい…
散髪に行っておくべきだったと後悔する。
眼鏡も…新調しておけばよかった…。

この歳になって何をはしゃいでいるのか…自分に呆れるようにため息をついて、ドアの鍵を閉める。

…    …   …


早目に海辺に着いたので、乗り場近くを見渡すが、まだ彼女は来ていないようだった。

俺は時間まで少し散歩をしようと歩き出す。

しばらく行くと、遠目に…一人の華奢な女性の後ろ姿が見えた。
青く、少し透け感のあるフレアスカートが、潮風を受けてゆったりとなびいている。
そこから白くて細い脚が…真っ直ぐに伸びていて…



…？

俺は目を見張る。

　　　　　水無月さんだ…

遠くて…しかも後ろ姿で顔までは見えないがあれは…きっと…

背後から声をかけるとやはり水無月さんで…俺は言葉を失う。

彼女は普段、黒いストッキングを履いていて、決して…生足は見えない状態なのだ。

普段は黒く覆われているその部分…その部分の肌色がその日は完全に露出していて、眩しさすら覚える…。

見てはならないものを見たような、そんな感覚…。

俺はそこを間違ってもおかしな目つきで凝視してしまわないように気をつけつつ、彼女と話しながら船内へ足を進めた。

女性らしいふわふわとした生地のブラウスにフレアスカート…普段の、暗めの色でかっちりとした隙のない格好の水無月さんとはまるで違う…

そうだ、人事部の細野さんが普段しているような…そんな女性らしいフアッション…。

　　　　なんて…

　　　　　　　　似合うだんだ…

細野さんには悪いが、
水無月さんみたいな女性こそ、毎日着用すべきだと思えるほどに…

大袈裟に言えば、そう思えるほど、彼女の色白で華奢な身体にフィットしていた…。

ヤバい　…
 
　　　水無月さんが、可愛すぎる…

その洋服があまりに清楚な雰囲気をまとう彼女に似合い過ぎていて、視線がどうしても…彼女の身体のシルエットに行ってしまう…

ダメだ…  あまり露骨になってはいけない…

俺は意識的に彼女の身体から目線を逸らし、あくまで普段通りを装いながら、会話を進める。

　　　食事をゆっくりと楽しむ、
　　　　　大人の男の、ふりをしながら…