【完結 R18】ほかに相手がいるのに

もえこ

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~二人きり~

馬鹿な女

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「… あ…の… お邪魔、って… 」

私は震える声で、杉崎さんの言った言葉を馬鹿みたいに、復唱する…。

お邪魔するという、ことは…そういう、意味だとわかってはいても…
そんなことを聞かれた驚きで、すぐには返答ができない…。

杉崎さんがそんなことを言うとは予想していなかったからだ。

杉崎さんの性格なら、きっとこの場面では…
今日はよく眠ってねとやさしく微笑んで、ドアの前ですんなり、別れていたはずだ…

なのに、どうして… 

杉崎さんが、少しおかしい…
そういえば、社長に何度もお酒を勧められていた…
かなり飲んでいるのかもしれない… 
それで、いつもより少し気が大きくなっているのだろうか…?

ああ…私自身も、 頭が回らない…

このまま、私の部屋に杉崎さんを招き入れたとして…
杉崎さんが待っている状態を横目に、 
狭い部屋の中で…私は落ち着く暇もなく、部屋に備え付けのお茶か珈琲を杉崎さんに出して…
今日の出張の、反省会…?まとめの話…他に、雑談なんかもして…

違う…

そんなことは、いい…そんなことは抜きにしても…
そもそも、私は、我慢できる…だろうか…

杉崎さんに、朝の空港内のカフェで、あんな風に手を握られただけで… 
飛行機内で、私を安心させるために手を握られただけで…
私の心臓は、明らかにバクバクと落ち着かない音を立てていた…。

杉崎さんには言えるはずもないけど…
手を握られただけで、離陸も着陸も…そんな恐怖は、どこかへ吹き飛んだ…。

だけど代わりに…私はどうしようもないほどの安心と緊張に、包まれた…

「… … あ、えっと… … 」なんて、答えれば… 

「… あっ…と、ごめん、ごめんね、水無月さん…」
杉崎さんが慌てたように口を開く。

「あの、冗談冗談…さっきの水無月さんの、楽しい妄想の続き…実践でやってみただけ…本気じゃないから。」

「え… は…、はい…」妄想の、続き… 本気じゃない…
 
「あの、今日は疲れてるだろうから、ゆっくりお風呂に入って寝て…。あ、明日の朝食は9時…位に会場で待ち合わせしようか…一緒でいいかな?」

「は… はい、… すみません、」申し訳ない気持ちが、押し寄せてくる…。

「いや、こちらこそ…真剣に悩ませて、ごめんね、俺、思ったより酔ってるかも…じゃあ、おやすみ…」
いつも通りの、優しい杉崎さん。

「おやすみ…なさい…」

パタンと、ドアを閉めて室内に入り… 私はベッドの上に、力なく突っ伏した。 

こんな性格が… こんな自分が、心から…  心の底から、大っ嫌いだ… 

私は、私が…本当に嫌いだ…  比較するのもおかしいが…

こんな時、林さんだったら…?  
人事の細野さんだったら… ? 

今日の飲み会で…杉崎さんの身体に何度も触れていた、あの…積極的な女性だったら…

二つ返事で杉崎さんの申し出にOKを出し、はい喜んでと、部屋に招待するに違いない…

それほどに、馬鹿な私… 可愛くない、私… 素直じゃない女…

だけど、私は私でしか、ない…  

既に、完全に拓海を裏切っていながらも…
中途半端な理性が、なんとか私を押しとどめる。

私はため息をついてのそりと、起き上がり、のろのろとシャワー室に向かった。







 

 





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