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第一章:独裁の萌芽!?華の国ツバキ市の腐敗
第33話:秘密の作戦会議!? ボアに対抗する手段
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「…………」
重苦しい沈黙が、部屋の雰囲気を支配していた。
部屋にはオウとテイ、そして、シーがいた。
いや、シーだけはいたという表現は正しくない。実際はビデオ通話なので、画面越しである。
しかし、俺にはシーがあたかもそこにいるように見える。
あまりにも思力が強い支配者層の存在感が、画面越しとは言え実在するかのように俺にそう見せているのだろう。
オウやテイが同じように見えているのかは分からない。
ボアとの対面の後、オウはテイを呼び出し、公安組織のトップを解任されたことを説明した。
「すぐにシー様に知らせなくては」
テイはそう言って、オウと俺をテイがツバキ市で根城としている部屋に案内した。
「ここなら、セキュリティは安心です」
テイはオウにそう説明した。
テイは身分を偽ってツバキ市の武装警官となっている。
本当の 正体は、俺には分からないが、中央政治局常務委員序列六位であるシーの密偵としてこのツバキ市にいた。
この部屋はその密偵活動で使用しているのだろう。
部屋はがらんとし、最低限の設備しかない。その中央にデスクがありモニターが置いてある。
そのモニターにシーの無表情な顔が写し出されていた。
ボアの神々しい笑顔を見た後だからか、いや、あの美しい笑顔を見たにも関わらずか、シーの神秘的な美しさに俺は釘付けになった。
ボアは、実力、実績、血統、外見、すべてにおいて優秀だ。にもかかわらず中央政治局常務委員になっていない。
一方、シーは血統こそあるが、目立つ実績は知られていない。しかし、飛び級で、中央政治局常務委員になっているのだ。
シーの何がその地位に押し上げたのか、外見はもちろん美しいが、ボアほど人目を引く、華の国で好まれるような美しさではない。
今もシーは、多くを語らず、今後の方策はオウとテイで話し合われている。
「やはり、ボアの暗殺が最も現実的です!!」
この話し合いで、最も息巻いているのがテイであった。そして、テイは、ボアの暗殺を主張していた。
オウが公安トップを解任されたことを聞いたときのテイの憤り具合は凄まじいものがあった。
それこそ、今すぐにでもボアを殺しに行く勢いであった。
解任されたオウの方がテイを宥める始末であったのだ。
ニヶ月前のあの日、殺し合った仲だったのだが、そこからオウの人柄に触れるにつれ、テイもオウを尊敬するようになったのだろう。
「私たち二人、それにルーを使えばボアを殺すことは可能です。後の事は、殺してからどうにでもなります。目的は、ボアの中央政治局常務委員入りを阻止することです。最悪、私一人が罪を被ります」
テイはそう必死にオウとシーを説得していた。
しかし、オウは冷静だった。
「…………。ボアに暗殺をする隙なんてない。敵の多い人だからな。常に護衛をおいてるし、何より本人が強い。成功率は低いと言わざるを得ない」
オウは困ったように、その燃えるような美しい赤い髪をかきあげながら、シーに質問をした。
「シー様。我々には、ボアの不正と汚職の証拠が山ほどあります。特に妹のターニャが犯した殺人は、相手が外国人ということもあり、大きなスキャンダルです。党中央から公安を動かせないでしょうか……」
「…………。ボアは前総書記であるコウ様の一派に取り入っている。そして、コウ様の派閥は、中央政治局常務委員に五人もいるのだ。特にボアが懇意にしているのが、序列九位のシュウだ」
「それは……。では、公安を動かすのは現実的ではないですね」
オウはシーからシュウの名前が出たのを聞いて絶句した。
シュウは、序列九位。
それだけ聞くと序列六位のシーがなんとかできそうであるが、現実はそう簡単にはいかない。
中央政治局常務委員の中で、序列は形式的で、それよりも役割が重要なのだ。
そして、シュウの役割は、華の国全体の警察・公安組織と司法を管轄する責任者であった。
シュウがボアと繋がっているとなると、汚職を追及して、ボアを追い詰める方法も絶望的である。
「中央政治局常務委員の中にはもちろんボアの中央政治局常務委員入りに反対するものもいる。だが、このままではコウ様に押しきられるだろう。私も形式上コウ様の派閥にも与している。だから、表立って反対はできない」
シーは、そう無表情に言った。
「…………」
また部屋は重い沈黙に包まれた。先程から、議論は堂々巡りなのだ。打つ手なしの。
(でも、結論は出るんだよな……)
そう、俺はこの後の展開を知っている。
いや、この世界が、俺が転生する前の世界と同じような流れになるならだが。
俺の前の世界では、似た状況で、オウと立場がそっくりであった要人は、アメリカの領事館に証拠をもって駆け込んだ。亡命するために。
よって、この話し合いの結論も同じ様になるのだろう。この世界には、合星国というアメリカに似た国がある。
「…………。シー様、何かお考えはあるのでしょうか? 」
テイが恐る恐るシーにそう聞いた。
確かにニヶ月前のあの夜、シーは「考えがある」と言ってた。
「…………。そうだな」
そう言ってシーは黙った。そして、その顔を見ていた俺と目があった。その時、シーから黒い影が出て俺を包み込んだ。
(な、何だ? オウ様やテイ様には見えていない!? )
シーの思力なのだろうか。
しかし、なぜ今こんな時に俺に思力を向けているのか。
「ルー、先程から貴様、何か言いたそうだな」
シーがそう行った瞬間、俺を包んでいた影はなくなった。
と同時にシーがニヤリと笑った。
悪魔のように。
オウとテイは俺の方を向いてその顔に気付かなかった。
そして、気付くと俺は自分でも信じられないことを勝手に口に出していた。
「はい、僭越ながら一つ策を出させていただきます。オウ様には証拠をもって、合星国に亡命していただくのはいかがでしょうか」
(何で俺はこんなことを口走っているんだ!? )
確かに俺は、これからオウが亡命を希望して合星国領事館に駆け込むであろうことを知っている。
しかし、俺のようなものがそんなことを口走ろうものならどうなることになるのかわからない。
「ルー!! 貴様!! 」
真っ先に怒ったのはテイであった。
「がはっ!! 」
俺は天井に叩きつけられ呻き声を出した。
気付くとテイの思力様式である金属の蔓が俺を縛りあげていた。
「ルー!! お前、今自分が言ったことがわかっているのか!! よくもヌケヌケとそんなことを!! オウ様が今どんなお気持ちか。さらに不名誉なことまでさせる気か!!」
テイは激昂して、俺を縛り上げ、さらにその縛りはきつくなっていった。
「い、いえ、俺は、そ、そんなっ……がはっ」
首を締め上げられ、俺は弁解の言葉さえ出せなかった。そもそも、俺はあんなことを言うつもりなんてなかったのだ。
(やっぱりシー様なのか……?)
確かにあの時、シーから出た黒い影が俺を包んだ。その後、俺は俺でなくなったような感覚があった。
テイに縛り上げられ、もがきながらも、俺はシーを見た。
シーはいつもの無表情でこちらを見てもいなかった。
重苦しい沈黙が、部屋の雰囲気を支配していた。
部屋にはオウとテイ、そして、シーがいた。
いや、シーだけはいたという表現は正しくない。実際はビデオ通話なので、画面越しである。
しかし、俺にはシーがあたかもそこにいるように見える。
あまりにも思力が強い支配者層の存在感が、画面越しとは言え実在するかのように俺にそう見せているのだろう。
オウやテイが同じように見えているのかは分からない。
ボアとの対面の後、オウはテイを呼び出し、公安組織のトップを解任されたことを説明した。
「すぐにシー様に知らせなくては」
テイはそう言って、オウと俺をテイがツバキ市で根城としている部屋に案内した。
「ここなら、セキュリティは安心です」
テイはオウにそう説明した。
テイは身分を偽ってツバキ市の武装警官となっている。
本当の 正体は、俺には分からないが、中央政治局常務委員序列六位であるシーの密偵としてこのツバキ市にいた。
この部屋はその密偵活動で使用しているのだろう。
部屋はがらんとし、最低限の設備しかない。その中央にデスクがありモニターが置いてある。
そのモニターにシーの無表情な顔が写し出されていた。
ボアの神々しい笑顔を見た後だからか、いや、あの美しい笑顔を見たにも関わらずか、シーの神秘的な美しさに俺は釘付けになった。
ボアは、実力、実績、血統、外見、すべてにおいて優秀だ。にもかかわらず中央政治局常務委員になっていない。
一方、シーは血統こそあるが、目立つ実績は知られていない。しかし、飛び級で、中央政治局常務委員になっているのだ。
シーの何がその地位に押し上げたのか、外見はもちろん美しいが、ボアほど人目を引く、華の国で好まれるような美しさではない。
今もシーは、多くを語らず、今後の方策はオウとテイで話し合われている。
「やはり、ボアの暗殺が最も現実的です!!」
この話し合いで、最も息巻いているのがテイであった。そして、テイは、ボアの暗殺を主張していた。
オウが公安トップを解任されたことを聞いたときのテイの憤り具合は凄まじいものがあった。
それこそ、今すぐにでもボアを殺しに行く勢いであった。
解任されたオウの方がテイを宥める始末であったのだ。
ニヶ月前のあの日、殺し合った仲だったのだが、そこからオウの人柄に触れるにつれ、テイもオウを尊敬するようになったのだろう。
「私たち二人、それにルーを使えばボアを殺すことは可能です。後の事は、殺してからどうにでもなります。目的は、ボアの中央政治局常務委員入りを阻止することです。最悪、私一人が罪を被ります」
テイはそう必死にオウとシーを説得していた。
しかし、オウは冷静だった。
「…………。ボアに暗殺をする隙なんてない。敵の多い人だからな。常に護衛をおいてるし、何より本人が強い。成功率は低いと言わざるを得ない」
オウは困ったように、その燃えるような美しい赤い髪をかきあげながら、シーに質問をした。
「シー様。我々には、ボアの不正と汚職の証拠が山ほどあります。特に妹のターニャが犯した殺人は、相手が外国人ということもあり、大きなスキャンダルです。党中央から公安を動かせないでしょうか……」
「…………。ボアは前総書記であるコウ様の一派に取り入っている。そして、コウ様の派閥は、中央政治局常務委員に五人もいるのだ。特にボアが懇意にしているのが、序列九位のシュウだ」
「それは……。では、公安を動かすのは現実的ではないですね」
オウはシーからシュウの名前が出たのを聞いて絶句した。
シュウは、序列九位。
それだけ聞くと序列六位のシーがなんとかできそうであるが、現実はそう簡単にはいかない。
中央政治局常務委員の中で、序列は形式的で、それよりも役割が重要なのだ。
そして、シュウの役割は、華の国全体の警察・公安組織と司法を管轄する責任者であった。
シュウがボアと繋がっているとなると、汚職を追及して、ボアを追い詰める方法も絶望的である。
「中央政治局常務委員の中にはもちろんボアの中央政治局常務委員入りに反対するものもいる。だが、このままではコウ様に押しきられるだろう。私も形式上コウ様の派閥にも与している。だから、表立って反対はできない」
シーは、そう無表情に言った。
「…………」
また部屋は重い沈黙に包まれた。先程から、議論は堂々巡りなのだ。打つ手なしの。
(でも、結論は出るんだよな……)
そう、俺はこの後の展開を知っている。
いや、この世界が、俺が転生する前の世界と同じような流れになるならだが。
俺の前の世界では、似た状況で、オウと立場がそっくりであった要人は、アメリカの領事館に証拠をもって駆け込んだ。亡命するために。
よって、この話し合いの結論も同じ様になるのだろう。この世界には、合星国というアメリカに似た国がある。
「…………。シー様、何かお考えはあるのでしょうか? 」
テイが恐る恐るシーにそう聞いた。
確かにニヶ月前のあの夜、シーは「考えがある」と言ってた。
「…………。そうだな」
そう言ってシーは黙った。そして、その顔を見ていた俺と目があった。その時、シーから黒い影が出て俺を包み込んだ。
(な、何だ? オウ様やテイ様には見えていない!? )
シーの思力なのだろうか。
しかし、なぜ今こんな時に俺に思力を向けているのか。
「ルー、先程から貴様、何か言いたそうだな」
シーがそう行った瞬間、俺を包んでいた影はなくなった。
と同時にシーがニヤリと笑った。
悪魔のように。
オウとテイは俺の方を向いてその顔に気付かなかった。
そして、気付くと俺は自分でも信じられないことを勝手に口に出していた。
「はい、僭越ながら一つ策を出させていただきます。オウ様には証拠をもって、合星国に亡命していただくのはいかがでしょうか」
(何で俺はこんなことを口走っているんだ!? )
確かに俺は、これからオウが亡命を希望して合星国領事館に駆け込むであろうことを知っている。
しかし、俺のようなものがそんなことを口走ろうものならどうなることになるのかわからない。
「ルー!! 貴様!! 」
真っ先に怒ったのはテイであった。
「がはっ!! 」
俺は天井に叩きつけられ呻き声を出した。
気付くとテイの思力様式である金属の蔓が俺を縛りあげていた。
「ルー!! お前、今自分が言ったことがわかっているのか!! よくもヌケヌケとそんなことを!! オウ様が今どんなお気持ちか。さらに不名誉なことまでさせる気か!!」
テイは激昂して、俺を縛り上げ、さらにその縛りはきつくなっていった。
「い、いえ、俺は、そ、そんなっ……がはっ」
首を締め上げられ、俺は弁解の言葉さえ出せなかった。そもそも、俺はあんなことを言うつもりなんてなかったのだ。
(やっぱりシー様なのか……?)
確かにあの時、シーから出た黒い影が俺を包んだ。その後、俺は俺でなくなったような感覚があった。
テイに縛り上げられ、もがきながらも、俺はシーを見た。
シーはいつもの無表情でこちらを見てもいなかった。
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