錬金術科は私ひとり! なのに“世界の理に触れた者”とかあだ名が痛すぎる

くじら

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第4話:錬金術科、はじめての依頼と「お年玉袋」事件

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 午後。
 初めての“依頼”に、私の心臓はずっとドキドキしていた。

 彼が大事そうに差し出した銀色のブローチ型ペンダント。 表面の彫金が細かく剥がれ、留め具も壊れている。
「母の形見です」と小声で言う彼の手が、少しだけ震えていた。


「……わかりました。やってみますね」


 正直、自信はなかった。精霊と契約したばかりで、本格的な修復作業は初めて。
 でも、せっかく最初に頼ってくれたのだから――期待に応えたい。

 

 アトリエの作業机で、ペンダントを丁寧に並べる。
 私は《アーケイン・デバイス》を取り出し、そっとカードを銀貨の上にかざした。
 カード表面の幾何学的な刻印が淡い光を放ち、錬成陣が空中に展開される。


「……始めるよ」


 銀の素材に意識を集中し、精霊にそっと合図を送る。
 精霊がペンダントの上にふわりと舞い降り、小さな手で彫金の傷をなぞる。
 私の中に、素材の“声”が微かに響く感覚――
 壊れた金具の断面、薄れてしまった模様、そして金属に染み込んだ思い出の残響。

 私は意識の中で“銀”という素材の“理”を一つずつ呼び起こし、デバイスを通じて術式を走らせる。
 光る錬成陣の模様が徐々に複雑になり、ペンダント全体に細やかな光が縫うように走った。
 精霊が、「ここだよ」とでも言うように、小さな指でとんとんと細部を指し示す。


「……もう少し……」


 私は手順を確かめながら、微細な傷を修復し、欠けていた留め具を慎重に組み上げていく。
 最後に、彫金の一番小さな模様、そして――裏側にかすかに刻まれた“母親の名前”を指先でなぞる。

 静かな“響き”と共に、術式が収束する。

 光がゆっくり消え、ペンダントは元どおりの姿に戻っていた。
 失われていた彫金も、細部まで新しい銀の光で蘇っている。

 彼は、まるで魔法でも見ているかのように見入って息を呑んでいた。

 

 私はそっとペンダントを手渡した。

 彼は、両手で包み込むようにペンダントを受け取ると、
角度を変え、光にかざし、何度も裏返しては細部をじっくり見つめる。
 正面の模様、側面の留め具、繊細な彫金――そして、裏側に小さく刻まれた“母親の名前”。

 その名前の文字が、ちゃんと元通りに蘇っているのを確かめた瞬間、彼の肩の力がふっと抜けた。
 目に涙がにじみ、震える声で小さくつぶやいた。


「……ありがとう、本当に……」


 精霊が、なぜか勝ち誇ったように私の肩の上で小さくガッツポーズを取る。
 それを見て、思わず私も小さく笑ってしまった。

 

 その時――


「ふむ、楽しそうだね」


 アトリエの扉が開き、ファルマリウス先生が現れた。
肩にはいつもの精霊。先生には事情を説明したのち、ちらりと机の上の修復されたペンダントを見て、ゆっくり首を傾げる。



「なるほど。……で、依頼書は?」

「……いらいしょ?」


私と彼、同時にポカン。

先生は困ったように眉を上げて説明する。


「学内での依頼は、まず魔術科の依頼窓口を通して申請。その書類が許可されたら、錬金術科や担当生徒・教員が正式に仕事を受ける。それが学園のルールだ」

「そ、そうなのですか!?皆さん、錬金術科に行けばいいしか言わなくて……。」


彼が半泣きでうろたえる。


「まぁ、今回は初めてだから特別に見なかったことにするよ。でも、今後はちゃんと書類を通してからにしようね」


先生が優しく笑いかける。


「それと、依頼には“報酬”が必要なんだ。ベルンシュタインくん、何か用意している?」

「えっ、ほうしゅう……?」


 彼の顔がみるみる青ざめる。
 制服のポケットをごそごそ。財布を引っ張り出すも、出てきたのはお年玉袋と、折りたたまれたレシートと、バラバラの小銭。


「え、えっと……今、手持ちの分、全部で……あれ? なんでお年玉袋が入ってるんだ……」


私は思わず吹き出してしまう。


「ベルンシュタインくん、それ今渡していいやつ? っていうか、お年玉袋って時期外れすぎじゃない……」


ちょっと噛みそうになる前に言い切った彼の苗字。
心の中でホッとしていたら相手には気付かれていた。



「苗字長いと呼びにくいと思うので、ベルでいいです……。」

「あ、助かります。」


精霊が、ぴょんと跳ねて


『おとしだま、たべたい!』

「お年玉は食べ物じゃありません。」


先生が咳払いしながら、


「それと、報酬はお金に限らず“感謝の気持ち”やお菓子でもいいんだよ。でも“ただ働き”はルール違反だからね」


ベルくん、真っ赤な顔でうつむく。


「そ、そっか……依頼した側なのに、報酬のこと考えてなくて……ご、ごめんなさい。反省します……」

「まあ、今回は初回特典だ。次からはしっかり“準備”しておいで」


先生のその一言に、私もベルくんも、少しほっとする。

こうして、私の“初めての依頼”は、ハプニングだらけで終わった。
でも、ベルくんが何度も感謝をしてくれたこと、精霊が嬉しそうに私の手に乗ってくれたこと――それだけで、今日の自分に点数をあげたい。


「……次は、依頼書も報酬もちゃんと準備しなきゃね」

『おとしだま、またほしい!』

「それはダメ!」


アトリエの窓から、午後の日差しが差し込んでいる。
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