Last flag

雨実 和兎

文字の大きさ
7 / 32

<バット1本で解る事>1

しおりを挟む
「今日こそ、おるやろ!もしかしたら洋介が頼みに来るかもな」

朝からテンションの高い健太にハカセは「それなら昨日断らないと思いますよ」と冷たくあしらう。
一日経っても変わらず誰も興味を示さない掲示板を、二人は今日も見つめていた。

「やっぱりアカンな~、もう一度俺から洋介誘いに行こうかな‥‥」

壁を見つめ上の空な健太にハカセは「彼を誘うのは止した方が良いと思いますよ」と断言する。

「なんで?理想通りやん、声は大きいし、気合い入ってるし、喧嘩強そうやし」

洋介の理想点を指折り数える健太。

「リスクが高すぎますよ」

いつになく真顔で答えるハカセに「リスクって何?声?」とふざけるでもなく聞く健太。

「もう良いですよ‥‥誘いに行くのなら一人で行ってください」

素気ない表情で教室に戻ろうとするハカセに「てかリスクっ何なんや?」と健太はもう一度聞き直すが、ハカセは振り返りもせず歩いて行く。

次の休み時間、仕方なく一人で洋介を誘いに行く健太。

「おっ!おったおった」

他クラスの教室に入ると、満面の笑顔で洋介に近づいていく健太。

「なんや、また誘いに来たんけ?」

健太に気付いた洋介は面倒臭さそうに呟くが「ええやん!応援団絶対おもしろいって!」と健太は入団するまで毎日来そうな勢いで断言する。
洋介と話す為に違う教室まで入って来た健太に、教室中の他生徒から興味の視線が刺さるが「変わった奴やな~!応援なんかおもろいけ?」

「絶対おもしろいって!!」と二人は気にするそぶりも無く会話を続けている。

その頃ハカセは、データ取りの為に一人で掲示板の様子を見に向かっていた。
掲示板の見える位置に立ったハカセは、全く期待していない様子でノートを取り出す。
数分後ノートの今日欄にゼロを記入しようとした時、一人掲示板の前に立ち止まった。
驚いた表情のままハカセは近づいて顔を確認しようとするが、走り去られてしまう。

「やっぱりアカンかったわ~!こっちも同じか~?」

洋介に再び断られ遅れて来た健太が、ハカセの肩を叩く。

「いえ‥‥一人居ましたね‥‥」

改めてノートの今日欄に1を記入するハカセ。

「誰?誰やった?」

興奮した健太は跳びはねながら聞くが「顔がよく見えなかったので‥‥」とハカセは口ごもる。

「え~!マジで~!」

うなだれる健太にハカセは「けど、また来るかもしれないですよ」と反すが「一生に一度のチャンスやったかもしれん」と納得しない健太。

「それは大袈裟ですよ」

ハカセは笑うが、健太は落ち込んだまま下を向いている。

この後休み時間には結局誰も立ち止まらず、二人はいつものように基地で作戦会議を開いていた。

「今日は応援される側の気持ちを知る為にコレを持って来たんや」

自転車に括っていたバットを取り外し、見せつける健太。

「実際の試合に出ないと解らないのでは?」

健太がバットを振り始めるのを予想してか、さりげなく距離を空けるハカセ。
健太は少し考えた後「‥‥そうや!試合を再現したら良いんや」と肩慣らしのようにバットを振り始める。

「バットだけで再現って‥‥」

小声で呟くハカセに健太は「バット1本でも解る事が有るはずやって!」と強引に話しを進めるがハカセは「無いですよ間違いなく」と冷たくあしらう。
ハカセの反論を気にもしていないのか健太は「じゃあバッターやるからピッチャーやって!」とハカセの立ち位置を指差し指示した。

「本気で言ってるのですか?」

半信半疑のハカセに「マジで!早く~!」と健太は地面をバットで叩き急かす。

「では投げますよ!」

渋々とハカセが、無い球の投げる真似をしようとすると「アカンって、そんな感じやったら緊張感が無いやん!」と不満そうに再び地面を叩く健太。

「構えたら俺がナレーションするから頼むで!」

まるでプロ野球選手のように、構えた状態でバットを回す健太。

「ハイ、ハイ‥‥」

面倒臭さそうに返事を二度反すハカセ。
ハカセが構えると「最終回カウント、ツーストライク、スリーボール!ピッチャー振りかぶりました!」と健太の熱いナレーションに合わせて振りかぶるハカセ。

「さあバッター1点差を反して逆転勝利する事が出来るのでしょうか!団長健太の必死で応援する声がスタジアムに響いています!」

まだですかと言わんばかりに、ハカセは小さなため息をついている。

「さあピッチャー投げた~!」

健太の言うとおりにハカセがやっと振り下ろすと、バットを振った健太が「バッター打ちました~!ホームラン!奇跡の逆転勝利です~!」と上機嫌でバットを放り投げ、ハカセの周りを一周した。

「正に奇跡ですね‥‥」

今にも再びため息をつきそうなハカセに健太は「そうやろ!」と拳を振り上げたままの体勢で気付いてもいない。

「そういう意味ではなくですね、データではガンバルズはホームラン1本も出ていないですよ」

すかさずノートを見せるハカセ。

「そんなんどうなるか解らんやろ!?」

健太は反論するが、ハカセの確率論が今まで外れた事は無かった。

「そんな事よりも、きちんと募集する方法を考えた方が良いのでは?」

もっともなハカセの意見に健太は諦めたように「解ってますがな‥‥」とソファーに座り込んだ。
数分間の沈黙の後、考え込んでいた健太が「やっぱり普通じゃない事をやらなアカンよな~」と一人頷き始める。

「確かにそうですね」

珍しく健太の考えに納得するハカセ。

「そうや!団員募集って部分をバンって、飛び出す絵本みたいにしたらどうやろ?」

大胆な手振りで説明する健太を見てハカセは「通行の邪魔になるので剥がされると思いますよ」と笑いながら答える。
二人がそんな話しで盛り上がっている中、背後に人の気配を感じた健太が振り返ると、途中から会話を聞いていたのか光久が笑顔で立っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

幽かな君に捧ぐ奇譚

tMG
ホラー
ホラー嫌いの高校生「笹ノ間薫」の部屋に、見知らぬ女子高生の幽霊が現れた。彼女の名は「周郷逢恋」。不慮の事故で命を落としたはずの彼女は、生前の記憶をほとんど失った状態で、幽霊としてこの世を彷徨っていた。 恐怖に震える薫だったが、霊感のある友人「桝原聖夜」と共に彼女と向き合ううち、三人は次第に奇妙な日常を共有するようになる。 彼女の未練を解き、成仏への道を探るために事故の真相を追う中で、彼らは死と向き合うこと、そして誰かを想うことの重さを知っていく――。

お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。 「だって顔に大きな傷があるんだもん!」 体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。 実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。 寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。 スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。 ※フィクションです。 ※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...