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10 ご協力を
しおりを挟む「ということで、ご協力いただけますよね?」
嫋やかに、そして清楚に。
にっこりと慈愛に満ちた笑みをその美しい顔に浮かばせて、ユーフェミアは国王フェリクスに静かな声で助力を願う。
その口調や声音そして笑顔は全て計算され尽くしもので、この大国ガーディンの王妃として生きた10年間の間に培ったユーフェミアの武器。
こんな風にユーフェミアにお願いされると、お願いされた相手はついその願いを聞いてしまうのだ。
「え、そんな話は知らないぞ!? さてはシュバリエのやつ、私に黙って勝手に動いているな……」
「私達の事を未だに何も出来ない子どもだと思って馬鹿にしている節がお父様にはありますからね」
「ほんと相変わらずだなシュバリエは……人の心と言うものがないのか? だがアレを敵に回すのは骨が折れるからなぁ……」
チラリと此方の様子を窺うような視線を向けてくるフェリクスに、ユーフェミアはにっこりと余裕の微笑みを返す。
「……助力のお礼と致しまして、28歳未婚の侯爵令嬢をご紹介いたします。とても美しいお姉様で、つり目がちな目元が印象的な胸元が大変豊かなご令嬢です」
「ふむ……胸元が豊か、か。素性は確かなんだろうな? というかユーフェミア、昨日はそんな令嬢いないって言ってたのは嘘か!?」
「ああ、それは貴方にお姉様をご紹介するのを止められていただけです。適当な所で手をうって欲しいらしくて……」
「紹介するのを止められていた? らしい……? その令嬢はどの侯爵家の令嬢だ?」
「ふふ、助力を頂けるならお話いたしますよ?」
にっこりニコニコ微笑むユーフェミア。
身の危険があるのでユーフェミア本人には口が裂けても言わないが、こういう所は父親であるシュバリエ公爵にそっくりだとフェリクスは思う。
それはユーフェミアの隣で二人の話を聞きながら、静かに茶で喉を潤しているアレクサンドも思うところで。
「わかった、協力する。私もシュバリエには思うところが多々あるし……それでどうするつもりだ?」
「男に二言は無しですよ? あと、それについては……アレクサンド? のんびりお茶を飲んでいないで、貴方がフェリクスに説明してくださいな! もう……」
「ん? ああそうですね、ユーフェミア」
見つめ合うユーフェミアとアレクサンド。
その雰囲気はとても甘いもので。
こいつら絶対なんかあったなと、フェリクスは二人の雰囲気から察してちょっとだけ寂しくなったから。
「……やっぱりその前に紹介してくれるっていう令嬢の事を教えろ、お前達だけずるい!」
「ずるいって……仕方ありませんね? ご紹介致しましょうか、実は隣の部屋で待ってもらっているんですよ。本当は紹介したくなかったのですが……」
とても嫌そうな顔で渋々とアレクサンドが、だだをこ捏ね始めたフェリクスにそう答えた。
フェリクスが大人しく言う事を聞かないと言うことは、アレクサンドは熟知している。
それはアレクサンドが宰相をやっていたからというのも勿論あるが、フェリクスとは宰相と国王という地位になる以前からの長い付き合いだから。
「隣の部屋に……名は? その彼女の名はなんという? というか急に会えと言われても……心の準備が……!」
「今連れてきますよ、ああ名前はカサンドラです」
「ほう、カサンドラというのか! 美しい名前だ! ん? なんか聞いたことがあるような……?」
こてんと首を傾げ考え込むフェリクス。
そりゃ名前くらいは聞いたことがあるだろう、アレクサンドとフェリクスは長い付き合いなのだから。
「さて、フェリクス? 連れて参りましたよ」
……扉が開く。
艶やかな腰まである長い黒髪に、焦げ茶色の瞳はつり目がちで。
口元のホクロが色気を放ち豊かな胸元が視線を集める、艶かしくも凛とした。
フェリクス好みの大人の色気を放つ年上女性。
「っ……美しい」
だが、どこかその令嬢に見覚えがある。
でもこんな美女に会ったら忘れる筈はない。
「まぁ……嬉しいですわ陛下」
「名は……カサンドラでいいのか?」
「はい、お久し振りでございます陛下、私はカサンドラ・ジリベールです」
「え、ジリベール……? 久し振り……え……」
「ふふ、私デビュタントからずっと領地におりましたのでお忘れになられていても仕方ないですわね? 最後に陛下にお会いしたのは、まだ陛下が即位される前でしたし……? 大きくなられましたね……可愛い……」
ジリベール、ジリベール侯爵家。
それはフェリクスがよく知る人物の家名。
「アレクサンド、お前……ジリベールって」
アレクサンド・ジリベール。
アレクサンドはジリベール侯爵。
「年上のお姉様が好きということで、我が姉をご紹介致しました。姉は領地で引きこもっていて未だに結婚していませんし、ほら昔はよくうちの姉に貴方懐いていたでしょう? 姉が王妃になるとか面倒なんで止めていたのですが……こうなったら仕方ありません」
やれやれという素振りをして答えるアレクサンド。
その顔は、にちゃあと嫌な笑いを浮かべていて。
「え……あ……お前……!」
懐いていた?
……違う。
フェリクスはカサンドラにオモチャにされていただけである、第一王子の婚約者だったカサンドラに。
フェリクスは王子といっても公妾の子で力はなく、時折王宮に遊びに来るカサンドラにオモチャにされていた。
フェリクスは顔が可愛いからと、カサンドラに着せ替え人形のようにドレスを着せられたり等色々と遊ばれていた。
そして王位継承争いが始まって、早々にカサンドラは第一王子と婚約破棄して領地に引きこもった。
第一王子とカサンドラの間に、愛はなく。
二人は政略上の婚約者で、馬鹿な争いを始めた第一王子が面倒になったカサンドラが一方的に婚約破棄を叩きつけた。
カサンドラはとても思い切りの良い性格で。
婚約破棄当時は何を考えているのかと、カサンドラは周囲から大層叱責された。
だがそれが功を奏してジリベール侯爵家は、シュバリエの粛清に巻き込まれる事はなかった。
だから今まで結婚することもなく、領地でのんびりと遊んで暮らしていた。
だがフェリクスをまたオモチャにして遊べると、アレクサンドに聞いて。
ウキウキと王都にやってきたのである。
「甘やかしてくれるお姉様です、ほらヨカッタですね? じゃあ狸退治、ご協力お願い致しますね?」
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