27 / 84
【じいちゃんの気持ち】
しおりを挟む
「え?」
「他人に可愛い娘を取られるんだぞ。嫌に決まっとろうが。しかも相手は子持ちのバツイチときたもんだ。で、うちの娘は大学出て働き始めてまだ三年そこそこじゃぞ。夢だった保育士の仕事もやめて子供のために専業主婦になるとか抜かす。悪い男に騙されおってってな。こう、頭にカッと血がのぼって『ゆるさーん!』言うて、テレビドラマみたいに怒鳴ったわな」
わっはっはとじいちゃんは笑いとばすけど、柚樹はとても冗談にはできない。
子持ち、バツイチというワードが、柚樹の胸を容赦なくえぐる。
やっぱりだ。
(やっぱりじいちゃんも、そうなんだ)
歪んだ表情の柚樹を見ながら、じいちゃんは続けた。
「一度、お前の父さんに直接モノ申してやろうと、ばあちゃんに内緒でいきなり押しかけたことがあった」
じいちゃんは、焚火の中から新たなアルミホイルを二つ取り出して、両手の中で行ったり来たりさせながら、懐かしそうに目を細めた。
「今にして思えばバカげた行動だが、あの時はそう思わなんだ。じいちゃんも若かったんだなぁ」
お前の父さんの家に向かう途中、公園で楽しそうな子供の声が聞こえたとじいちゃんは説明した。はしゃぐ声につられて公園の中を覗いたら、そこにいたのは母さんと父さんと柚樹だった、と。
「まだこーんなちんまいお前とお前の父さんが遊具で遊んどった。ちょっと離れた木陰にレジャーシートを敷いて、お前の母さんは座っててな。ほんでお前の母さんが『気をつけてよ~』言うた瞬間、お前が遊具から落ちよった」
そういえば、そんなことがあった気がする。
確か、遊具のいろんなところによじ登ってジャンプする遊びを父さんとしていた。
母さんに「落ちたら危ないからやめなさい」と何度も注意されて「大丈夫だよ」と手を振ろうとしたら、どしんと落ちたのだ。
「お前がぎゃんと泣いた瞬間、お前の母さんがドダダダーと靴も履かずに走っていった。お前を抱っこしながら『だから言ったじゃない!』って、お前の父さんに怒鳴りよった。あれを見た瞬間、こりゃ、いくら結婚を反対しても無駄じゃ、思うたわな」
「? なんで?」
「実はな、じいちゃんも昔、同じように一輝おじちゃんを遊ばして、ばあちゃんに同じように怒られたことがある」
柚樹が焼き芋を食べ終わるのを見て、じいちゃんは、ほい。と、手で冷ましていたアルミホイルの一つを渡す。
「ありゃあ、どっからどう見ても家族にしか見えんかった。参った参ったー」
じいちゃんも自分の分のアルミホイルをはがして皮ごとサツマイモにかぶりつく。それをゆっくりと味わい飲み込んでから、柚樹をじぃっと見た。
「お前がどう思っとるかは知らんが、お前はじいちゃんたちの初孫だぞ。目に入れても痛くない可愛い可愛い孫だ。ばあちゃんなんぞ、可愛すぎて時々食いたくなる~言うとるわ」
「……」
母さんの病院での、ふくよかなばあちゃんの笑顔が浮かぶ。酷いことをたくさん言ったのに、それでも柚樹を庇おうとしてくれたばあちゃん。
「お前の母さんに赤ちゃんが生まれても、お前がわしらの可愛い初孫である事実は変わらん」
柚樹の喉の奥が熱くなっていく。
「でも」と、かすれた声で柚樹は呟いた。
「……でも、オレはじいちゃんたちと血が繋がってないよ。じいちゃんたちの本物の孫は」
「孫に本物も偽物もあるか。血がどうのと言う奴は言わせとけ。じいちゃんとばあちゃんがユズを孫だと言っとるんだから、孫に決まっとろうが」
「でもきっと」
涙が出ないように、柚樹はサツマイモを睨みつけた。
「でもきっと、血が繋がってる孫の方が可愛くなるんだよ。……家族って血が繋がってるから家族なんだ。生まれてくる赤ちゃんは、じいちゃんたちと血が繋がってて、母さんに顔が似てるんだよ。……オレと違って」
母さんだって赤ちゃんが生まれたら、本物の子供の方が可愛くなるに決まってる。
「ユズ、お前……」
じいちゃんの小さくて鋭い瞳が自分をじっと見つめているのがわかった。柚樹はサツマイモを睨みつけながら(何を言われたって泣くもんか)と覚悟する。
じいちゃんの次の言葉が「そんなことない」という慰めでも、「そうかもしれんが」という言い訳だったとしても。
「他人に可愛い娘を取られるんだぞ。嫌に決まっとろうが。しかも相手は子持ちのバツイチときたもんだ。で、うちの娘は大学出て働き始めてまだ三年そこそこじゃぞ。夢だった保育士の仕事もやめて子供のために専業主婦になるとか抜かす。悪い男に騙されおってってな。こう、頭にカッと血がのぼって『ゆるさーん!』言うて、テレビドラマみたいに怒鳴ったわな」
わっはっはとじいちゃんは笑いとばすけど、柚樹はとても冗談にはできない。
子持ち、バツイチというワードが、柚樹の胸を容赦なくえぐる。
やっぱりだ。
(やっぱりじいちゃんも、そうなんだ)
歪んだ表情の柚樹を見ながら、じいちゃんは続けた。
「一度、お前の父さんに直接モノ申してやろうと、ばあちゃんに内緒でいきなり押しかけたことがあった」
じいちゃんは、焚火の中から新たなアルミホイルを二つ取り出して、両手の中で行ったり来たりさせながら、懐かしそうに目を細めた。
「今にして思えばバカげた行動だが、あの時はそう思わなんだ。じいちゃんも若かったんだなぁ」
お前の父さんの家に向かう途中、公園で楽しそうな子供の声が聞こえたとじいちゃんは説明した。はしゃぐ声につられて公園の中を覗いたら、そこにいたのは母さんと父さんと柚樹だった、と。
「まだこーんなちんまいお前とお前の父さんが遊具で遊んどった。ちょっと離れた木陰にレジャーシートを敷いて、お前の母さんは座っててな。ほんでお前の母さんが『気をつけてよ~』言うた瞬間、お前が遊具から落ちよった」
そういえば、そんなことがあった気がする。
確か、遊具のいろんなところによじ登ってジャンプする遊びを父さんとしていた。
母さんに「落ちたら危ないからやめなさい」と何度も注意されて「大丈夫だよ」と手を振ろうとしたら、どしんと落ちたのだ。
「お前がぎゃんと泣いた瞬間、お前の母さんがドダダダーと靴も履かずに走っていった。お前を抱っこしながら『だから言ったじゃない!』って、お前の父さんに怒鳴りよった。あれを見た瞬間、こりゃ、いくら結婚を反対しても無駄じゃ、思うたわな」
「? なんで?」
「実はな、じいちゃんも昔、同じように一輝おじちゃんを遊ばして、ばあちゃんに同じように怒られたことがある」
柚樹が焼き芋を食べ終わるのを見て、じいちゃんは、ほい。と、手で冷ましていたアルミホイルの一つを渡す。
「ありゃあ、どっからどう見ても家族にしか見えんかった。参った参ったー」
じいちゃんも自分の分のアルミホイルをはがして皮ごとサツマイモにかぶりつく。それをゆっくりと味わい飲み込んでから、柚樹をじぃっと見た。
「お前がどう思っとるかは知らんが、お前はじいちゃんたちの初孫だぞ。目に入れても痛くない可愛い可愛い孫だ。ばあちゃんなんぞ、可愛すぎて時々食いたくなる~言うとるわ」
「……」
母さんの病院での、ふくよかなばあちゃんの笑顔が浮かぶ。酷いことをたくさん言ったのに、それでも柚樹を庇おうとしてくれたばあちゃん。
「お前の母さんに赤ちゃんが生まれても、お前がわしらの可愛い初孫である事実は変わらん」
柚樹の喉の奥が熱くなっていく。
「でも」と、かすれた声で柚樹は呟いた。
「……でも、オレはじいちゃんたちと血が繋がってないよ。じいちゃんたちの本物の孫は」
「孫に本物も偽物もあるか。血がどうのと言う奴は言わせとけ。じいちゃんとばあちゃんがユズを孫だと言っとるんだから、孫に決まっとろうが」
「でもきっと」
涙が出ないように、柚樹はサツマイモを睨みつけた。
「でもきっと、血が繋がってる孫の方が可愛くなるんだよ。……家族って血が繋がってるから家族なんだ。生まれてくる赤ちゃんは、じいちゃんたちと血が繋がってて、母さんに顔が似てるんだよ。……オレと違って」
母さんだって赤ちゃんが生まれたら、本物の子供の方が可愛くなるに決まってる。
「ユズ、お前……」
じいちゃんの小さくて鋭い瞳が自分をじっと見つめているのがわかった。柚樹はサツマイモを睨みつけながら(何を言われたって泣くもんか)と覚悟する。
じいちゃんの次の言葉が「そんなことない」という慰めでも、「そうかもしれんが」という言い訳だったとしても。
0
あなたにおすすめの小説
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
『 ゆりかご 』
設楽理沙
ライト文芸
- - - - - 非公開予定でしたがもうしばらく公開します。- - - -
◉2025.7.2~……本文を少し見直ししています。
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
――――
「静かな夜のあとに」― 大人の再生を描く愛の物語
『静寂の夜を越えて、彼女はもう一度、愛を信じた――』
過去の痛み(不倫・別離)を“夜”として象徴し、
そのあとに芽吹く新しい愛を暗示。
[大人の再生と静かな愛]
“嵐のような過去を静かに受け入れて、その先にある光を見つめる”
読後に“しっとりとした再生”を感じていただければ――――。
――――
・・・・・・・・・・
芹 あさみ 36歳 専業主婦 娘: ゆみ 中学2年生 13才
芹 裕輔 39歳 会社経営 息子: 拓哉 小学2年生 8才
早乙女京平 28歳 会社員
(家庭の事情があり、ホストクラブでアルバイト)
浅野エリカ 35歳 看護師
浅野マイケル 40歳 会社員
❧イラストはAI生成画像自作
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)
三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。
佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。
幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。
ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。
又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。
海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。
一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。
事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。
果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。
シロの鼻が真実を追い詰める!
別サイトで発表した作品のR15版です。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる