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九話

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 私たちは最寄りの町の宿についた。その宿は私のお父様の商会が運営するものであった。

「うむ、まぁまぁいい宿ではないか。さて、中に入るぞ」

 どうやらゴーティエ公に満足していただけたようだ。アレクサンドラは、私を迎えるのだからこれくらいの宿が当然だという感じだった。中に入ると整然と宿の店員が並んでいた。そして支配人が一歩前に出て言った。

「ようこそ、いらっしゃいました。ゴーティエ様、当店最大限のおもてなしをご用意しております。ごゆっくりお過ごし下さいませ」

 ゴーティエ公も彼らの振る舞いにご満悦であるようだ。その後ゴーティエ公とアレクサンドラはそれぞれ豪華な部屋に案内された。私とアインスは支配人の執務室に来ていた。


「さて、支配人用意はできている?」

 私がそう聞くと支配人はしっかりと頷きいった。

「えぇ、しっかりと。まさに酒池肉林の如く贅を尽くしたおもてなしをさせていただいております。今頃、ゴーティエ公、アレクサンドラ様は欲に溺れている頃でしょう」

「そう、それはよかったわ」

 私はニヤリと笑った。彼らは今頃、自分たちが山猫軒に入ってしまったことに気づかない愚かな紳士淑女なのだ。これから自分たちが美味しく調理されるために加工されているのにも気づかなでいるのだろう。二人が欲に溺れている情景を想像すると笑いがこみ上げてくる。



 私は聞きたいことを聞けて満足してアインスと共にそれぞれに部屋に戻った。そしてすぐに夕食に時間になって食堂に集まった。食堂は私たちしかおらず広い空間で食事をとることになった。ゴーティエ公とアレクサンドラは肌艶や髪の艶が戻っていた。さらに服装がガラリと変わり、まさに豪華といえるようなギラギラとした装飾をしていた。アレクサンドラにいたっては指に宝石ジャラジャラにつけていた。私はあまりの趣味の悪さにドン引きしたが、二人はとても自慢げな表情で歩いて入って来た。

「ゴーティエ公、アレクサンドラ様、我々のおもてなしに満足していただけましたか?」

「うむ、まぁまぁである。だが、十分にワシたちにふさわしいもてなしであった」

「そうね、お父様の言う通りですわ」

 ゴーティエ公はとても満足そうにそう言い、アレクサンドラはこれくらい当然だと言う感じだった。

「それはようございました。これもゴーティエ公、エンツェンスベルガー侯爵様の御人徳がいたすところでございます」

 アインスは執事のように礼をとり、そう言った。

「そうか、そうか。ワシの人徳のおかげか」

 ゴーティエ公はとても嬉しそうにそう言った。

 そしてこの後もまさに最上級と言える料理が食卓にずらりと並べられた。それをやはり幸せそうに二人は食べていた。私は小声でアインスに話した。

「これで十分にゴーティエ公のエンツェンスベルガー家に対する価値が上がりました」

「そうですね。あとはバルトロメウス様に恋に落ちてもらうだけですね」

 私たちは頷きあった。

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*山猫軒:宮沢賢治の著作『注文が多い料理店』に出てくる西洋料理店 山猫軒のこと。
 
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