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第一章 七不思議の欠片
悪ふざけ
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「やっぱそういう話になるよね。黒川も誘おうとはしていたけど、明らかに私の命を狙ってたってことよね、アレは」
「そうだな。最初からお前と二人っきりになりたかったんだろ」
「そんなの嬉しくない!」
沢村が憤慨する。まあ、誰だって嬉しくないだろうな。
「まあ、そんなこんなでさ。月島と暫く校舎に隠れてて、夜になってから動き出した訳なんだけど。微妙な時間だったから、校舎内をうろついてたんだよね」
「隠れるところなんてあったか?」
沢村と月島が隠れられる場所なんて限られているだろうし、部室くらいか? いや、二人とも帰宅部だったな。
月島ならお得意のコミュニケーション能力で、誰かの部室の鍵くらいぶん取るのもお手の物だろうが。
「月島がとっておきの場所があるって言うから、ついていったんだけど」
危機感が塵屑以下だろ。沢村の将来が心配になっちまったな。
「北校舎にコミュニケーション室Ⅰって教室があるじゃない?」
「なるほどな。警備員はどう躱したんだ」
「それがさ、あの教室に小部屋があるでしょ。あそこってカードゲーム部が劇をやる時の小物や衣装が置かれているんだって。月島って顔が広いから、カードゲーム部の子から鍵を借りてきてさ、ずっとそこにいたのよ」
カードゲーム部は学園祭で毎年劇を行っている。そもカードゲーム部と演劇など縁のゆかりもないだろうに、何かしらの理由があって続いているらしい。それも演劇部顔負けの本格的な演劇だ。衣装も何処からか調達しているようで、武士や中世、果てはメイド服など様々用意されているとも聞く。俺は一度も見たことがないが、学園祭の見世物としてトップに君臨する催し物の一つとなっているようだ。
「……密室で男と二人きり、か」
わざとそう呟けば、沢村が慌てて「違うって!」と発狂した。
こいつらが夜遅くまで校舎にいたのは、驚愕だった。否、驚喜と言うべきか。手間が省けて良かったな。
月島が転がっている位置に近い階段を一瞥する。
「でも月島と話していて、驚きの事実が発覚したよ」
「驚きの事実?」
「うん。月島くんって妹がいるんだって。意外と妹想いみたいだし」
「へえ? それは意外だな」
「でしょっ。まあ、その感動も塵と化したんだけどさ」
悔しそうに顔を歪める沢村。だが、その情報の価値は計り知れないだろう。
「兎に角、帰るぞ。こんなところで警備員に見つかったらやばいだろ。良くて反省文、悪くて補講だ」
「……そうね。なんかごめん」
沢村がいきなり沈んだ。何でだよ。俺は余計なことでも言ったか? いや、ただ帰宅を促しただけだろ。これだから沢村の扱いは難しい。とんだじゃじゃ馬だな。
とにかく慰めるように沢村の肩を軽く叩き、その辺りで転がっている月島の体を引っ張り上げた。重たいが引き摺れば、運べない訳ではない。
俺が上ってきた階段とは真逆の階段の淵へと向かい、一度振り返る。すると沢村が大きく口を開きながら固まっていた。
「何してるんだ。早く帰るぞ」
「へ? あ、うん」
沢村の間抜けな声は背中で受け、再び月島を引き摺る。さっさと階段を降りようとした、その時--。視界がずれた。
反転。
自分がどうなっているのか、脳みそが理解できなかった。目の前の階段がぐにゃり、と曲がっているように見える。身体も動かせない。その違和感から、思わず「……あ?」と小さく声が漏れた。
「――え?」
後ろから沢村の掠れた声が聞こえ、その直後に現実を知る。
まるでスローモーションのように、ゆっくりと体が傾くような感覚。目が回りそうな視界の中、あいつの姿を探す。その時、目の端でにやり、と笑う口元が映った。――このクソ野郎が。
くそっ、やられた。沢村へ意識を向けていたこいつが、まさか俺にも殺意を向けてくるとは思わなかった。これだから思考が全く読めないやつは嫌いなんだ。
「く、ろ」
沢村が一歩を踏み出す音が聞こえたが、もう手遅れだ。彼女との距離は短くないだろう。
俺は覚悟を決めて受け身を取ろうとした。二、三段ほど階段から落下したが、唐突に腕を引っ張られて身体が空中で止まった。どうにかバランスを取り戻すと、強い力で掴まれた腕が痛みを訴えかける。
この状況で俺を助けたのはあいつしかいない。俺はゆっくりと振り返って、そいつを睨み上げた。
「なんてな」
月島がいやらしい笑みを浮かべる。
「そうだな。最初からお前と二人っきりになりたかったんだろ」
「そんなの嬉しくない!」
沢村が憤慨する。まあ、誰だって嬉しくないだろうな。
「まあ、そんなこんなでさ。月島と暫く校舎に隠れてて、夜になってから動き出した訳なんだけど。微妙な時間だったから、校舎内をうろついてたんだよね」
「隠れるところなんてあったか?」
沢村と月島が隠れられる場所なんて限られているだろうし、部室くらいか? いや、二人とも帰宅部だったな。
月島ならお得意のコミュニケーション能力で、誰かの部室の鍵くらいぶん取るのもお手の物だろうが。
「月島がとっておきの場所があるって言うから、ついていったんだけど」
危機感が塵屑以下だろ。沢村の将来が心配になっちまったな。
「北校舎にコミュニケーション室Ⅰって教室があるじゃない?」
「なるほどな。警備員はどう躱したんだ」
「それがさ、あの教室に小部屋があるでしょ。あそこってカードゲーム部が劇をやる時の小物や衣装が置かれているんだって。月島って顔が広いから、カードゲーム部の子から鍵を借りてきてさ、ずっとそこにいたのよ」
カードゲーム部は学園祭で毎年劇を行っている。そもカードゲーム部と演劇など縁のゆかりもないだろうに、何かしらの理由があって続いているらしい。それも演劇部顔負けの本格的な演劇だ。衣装も何処からか調達しているようで、武士や中世、果てはメイド服など様々用意されているとも聞く。俺は一度も見たことがないが、学園祭の見世物としてトップに君臨する催し物の一つとなっているようだ。
「……密室で男と二人きり、か」
わざとそう呟けば、沢村が慌てて「違うって!」と発狂した。
こいつらが夜遅くまで校舎にいたのは、驚愕だった。否、驚喜と言うべきか。手間が省けて良かったな。
月島が転がっている位置に近い階段を一瞥する。
「でも月島と話していて、驚きの事実が発覚したよ」
「驚きの事実?」
「うん。月島くんって妹がいるんだって。意外と妹想いみたいだし」
「へえ? それは意外だな」
「でしょっ。まあ、その感動も塵と化したんだけどさ」
悔しそうに顔を歪める沢村。だが、その情報の価値は計り知れないだろう。
「兎に角、帰るぞ。こんなところで警備員に見つかったらやばいだろ。良くて反省文、悪くて補講だ」
「……そうね。なんかごめん」
沢村がいきなり沈んだ。何でだよ。俺は余計なことでも言ったか? いや、ただ帰宅を促しただけだろ。これだから沢村の扱いは難しい。とんだじゃじゃ馬だな。
とにかく慰めるように沢村の肩を軽く叩き、その辺りで転がっている月島の体を引っ張り上げた。重たいが引き摺れば、運べない訳ではない。
俺が上ってきた階段とは真逆の階段の淵へと向かい、一度振り返る。すると沢村が大きく口を開きながら固まっていた。
「何してるんだ。早く帰るぞ」
「へ? あ、うん」
沢村の間抜けな声は背中で受け、再び月島を引き摺る。さっさと階段を降りようとした、その時--。視界がずれた。
反転。
自分がどうなっているのか、脳みそが理解できなかった。目の前の階段がぐにゃり、と曲がっているように見える。身体も動かせない。その違和感から、思わず「……あ?」と小さく声が漏れた。
「――え?」
後ろから沢村の掠れた声が聞こえ、その直後に現実を知る。
まるでスローモーションのように、ゆっくりと体が傾くような感覚。目が回りそうな視界の中、あいつの姿を探す。その時、目の端でにやり、と笑う口元が映った。――このクソ野郎が。
くそっ、やられた。沢村へ意識を向けていたこいつが、まさか俺にも殺意を向けてくるとは思わなかった。これだから思考が全く読めないやつは嫌いなんだ。
「く、ろ」
沢村が一歩を踏み出す音が聞こえたが、もう手遅れだ。彼女との距離は短くないだろう。
俺は覚悟を決めて受け身を取ろうとした。二、三段ほど階段から落下したが、唐突に腕を引っ張られて身体が空中で止まった。どうにかバランスを取り戻すと、強い力で掴まれた腕が痛みを訴えかける。
この状況で俺を助けたのはあいつしかいない。俺はゆっくりと振り返って、そいつを睨み上げた。
「なんてな」
月島がいやらしい笑みを浮かべる。
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