審判を覆し怪異を絶つ

ゆめめの枕

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第一章 七不思議の欠片

月島くんのガード

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「ちょ、ちょっと待って! それって渡辺さんたちが守っているのは月島と黒川くんだよね?」
「……ええ、勿論」

 不自然な沈黙と共に、そっぽを向いて顔を歪める渡辺ちゃん。二人して感情が表に出ていると言うのにどうして気付かないのだろう。
 この二人って似た者同士であるが故に、お互いの不自然さに全く気が付いていないし、むしろすれ違い気味なのが興味深い。

「じゃあ、どうして私に言うの? 私は人気者じゃないんだから」
「確かにわたくしたち学園保護委員会は彼らを守っているわ。だけど問題は貴方よ。貴方が彼らに近づくことによって、嫉妬で怒り狂った輩が矛先を向けてくるかもしれないわ。そうならないよう貴方に注意をしているのよ」
「なるほど……俗にいう親衛隊ってことだね」

 沢村さんが真っ蒼な顔で頷いた。

「名目上、注目を受けやすい彼らの学園生活を守る役割として存在しているけれど、学園のバランスを釣り合わせるための委員会でもあるのよ。だから貴方を守らないといけない。お分かりかしら?」
「あ、うん。あり、がとう」

 困った顔つきで沢村さんが僕を見る。安心させるように苦笑交じりに笑顔を見せると、沢村さんはひとつ頷いて渡辺ちゃんへと視線を戻した。

「礼は不要よ。それよりも理解したかしら?」

 渡辺ちゃんがそう尋ねると、沢村さんは必死に頷いた。それを見た渡辺ちゃんが満足したように息を吐く。
 こうして沢村さんに丁寧に(?)説明してあげたのも、渡辺ちゃんが彼女の近くから守りたいと考えた故だな。僕を通じて守護するにも限界がある。
 盗聴器だって黒川くんが見つけてしまったらどうなったことか。一番怪しまれるのは僕だな。

「まあ、貴方も保護対象にしておいてあげるわ。心配しないで頂戴」

 そう言って渡辺ちゃんが得意そうに微笑んだ。
 するといきなり月島くんが教室に入ってきて、沢村さんと渡辺ちゃんの間に割り込んできた。珍しく眉間に皺を寄せ、沢村さんと僕の肩を掴んだかと思うと、そのままの勢いに任せて抱き込んだ。その力強さに僕もよろめいて、沢村さんと一緒に月島くんの厚い胸板へと飛び込んでしまった。

「ちょっと! レディに何するのよ」

 暫く渡辺ちゃんも目を瞠っていたが、怒りに眦を上げた。
 きっと僕のことは忘れているんだろうな……。

「お前の方こそ、何してんだよ。またいじめてたのか」
「え、私っていじめられてましたっけ?」
「そう見えたのかな」

 僕たちの言葉は双方ともに聞こえていないらしく、渡辺ちゃんが「それは誤解よ」と言葉を続ける。
 その間にも僕も沢村さんも月島くんの腕から離れようと藻掻いたが、びくともしなかった。これが俗に言う筋肉達磨ってことなのかな、と視線を上げれば、月島くんは渡辺ちゃんを睨みつけている。
 ――これはもう駄目だわ。
 ――そうだね。
 僕と沢村さんは見つめ合って、視線で会話する。もう諦めの一途だ。

「お前らのせいで沢村が怪我しそうだっただろ。もう覚えてねえのかよ」
「それに関しては何も言えないわ。確かに私たちの落ち度だったもの」
「誠意を感じない。二度と近づくな」
「それは無理よ」

 二人が睨みを利かしている。

「この強情女め」
「あら、本性を現したわね? 貴方のせいでこっちは苦労を強いられているのよ。一番はあの男のせいなのだけれども。いいから彼女から身を引くことね」
「はっ。抜かせ」

 月島くんがそう言い捨て、僕たちを引き摺っていく。沢村さんの席まで連れられ、僕は黒川くんの席に座らされた。そして月島くんは入口に立っている渡辺ちゃんへと近づいていく。
 どうにかしてよ、と渡辺ちゃんの視線を受け取ったが、僕にはどうすることも出来ない。首を横に振ると、渡辺ちゃんが口を尖らせる。

「まあ、いいわ。お望み通りわたくしから出て行ってあげる。とにかく貴方の思う通りにならないから。その辺り、理解しておいて」

 渡辺ちゃんはそう宣言し、教室から出て行った。月島くんが冷めた目で見送る。
 いったいどうしたら月島くんに、それ程気に入られるのだろうか、沢村さんは。

「樋脇くん」

 沢村さんが声を掛けてきた。

「うん?」
「後で話したいことがあるんだけれど、放課後って暇?」
「大丈夫だよ」
「じゃあ図書館に来てくれる?」
「分かった。放課後になったらすぐに行くね」

 了承すると沢村さんがほっとしたようで頷いた。
 っていうか、この席って黒川くんが普段座っている席だよね。そう自覚したら、頬が熱くなった。少し落ち着かなくなって、引き出しの辺りをきょろきょろと見てしまう。
 ちらりと見えた教科書はほんの少し色褪せていて、黒川くんが勉強熱心だってことが分かる。まだこの教科書を始めてから間もないし。
 この席から見える僕の席ってどうなんだろう……。どきまぎしながら、視線をそろっと向けると、目の前に深い紺色が見えた。

「――?」

 これは、学生服……?
 緩々になって働かない頭で案じる。そしてやっと目の前に人が立っていることに気付き、その顔を見上げれば――。

「く、黒川くん……」
「はよ。欣幸だな」
「お、はよう。えっと、ごめん。すぐここ、どくから」

 羞恥のあまり黒川くんの顔が見れずに俯く。

「別に良いが」
「ううん、大丈夫」

 僕は立ち上がって自分の席に戻ろうとしたが、腕を引かれてたたらを踏んだ。振り向くと、僕を引き留めたのは沢村さんだった。

「その、樋脇くん。この間は手鏡をありがとう。あと……ごめん。折角くれたのに、割れちゃって。本当にごめんね」

 花が萎れたかのように俯いて謝った彼女に手を振る。

「別に構わないよ。大丈夫だから」

 だってあれは壊れる為に用意されたものだったし、きっとあいつも本望だっただろう。

「……そっか、ありがとう」
「ふふ、沢村さんって本当に気を遣ってくれるんだから」

 そこまで気を遣わなくても良いのに。本人にはそのつもりはないみたいだけど、結局彼女の本質は歪みが生じたとしても変わらないだろう。だって彼女は善、だから。

「……ねえ、あのさ。あの時、樋脇くんは私に手鏡を渡してくれたけど。どうしてあの手鏡が必要だと思ったの?」
「僕の祖母がね、タロット占いをしているんだ。月島くんからとんでもない事態になったって話を聞いた時に、何か手伝えないかなって思ってさ。おばあちゃんに占ってもらったら手鏡をくれてね。絶対に役立つから渡してあげなさいって教えてくれたんだ」
「そっかあ。お祖母さん、凄いね。だってすっごく助かったもん。お礼を伝えておいてくれる?」
「勿論。喜んでもらえて嬉しいよ」

 沢村さんと微笑んでいると、鋭い視線が横から飛んできた。誰の視線なのか簡単に予想がつくけど、振り向く勇気はない。
 沢村さんは黒川くんとも気が合っているように見える。だから、少し怖い。

「オレも占って欲しい!」

 月島くんが元気よく言う。

「私も!」
「……俺も気になるな」

 低い声音が僕の頭上に落とされる。そっと見上げると、黒川くんは探るような目で僕を見ていた。おそらく今の話が事実かどうか確認したいんだろう。
 脳内で自分が切り替わる音が聞こえた。

「勿論いいよ」

 僕は挑戦的な視線をわざと彼にぶつけて、そう言い切った。

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