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キャンドル

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    春日部は結局「暫くしたくない」と言ったはずのセックスを毎日している。

    思った通り、新しい性の快感に溺れつつある。

    中だけでイケるようになれば、あっという間に溺れ、その先は『卒業』が待っている。

    その瞬間を迎えるのは恐いが、春日部に求められれば単純に嬉しいし、気持ち良くしてもあげたいから体を重ねる。

    止まれない。

    でも大丈夫。
    春日部は絶対戻ってくるから、一度手放すだけ。
    戻ってきた春日部に、僕ほどのオトコはいなかったって、絶対言わせてみせるから。





    春日部は仮免に合格した。
    お祝いということで、僕はキャンプ用のテントを春日部にプレゼントした。

    びっくりさせたかったから、黙って買ったけど、店員と相談しながら、この前春日部の実家からお借りしたテントと同メーカーの最新タイプを選んだので間違いはないはず。
    それでも気に入ってもらえるかドキドキした。

    春日部の第一声は「マジで!?」だった。
びっくりした顔から、テントを広げると嬉しそうな顔になって、最後は「高かったんじゃね?」と申し訳なさそうな顔になった。

「いいんだよ。これ、プレゼントって言っても僕と一緒に使うもんだしさ。いっぱいキャンプに連れてってよ。」
「そりゃもちろんいいけど。」
「あ、そうだ、予行練習しよ?」
「予行練習?」
「うん。ここにテント張ってみようよ。」

    リビングのソファーを二人で移動させ、出来たスペースにテントを張った。

    部屋の中にテント。
    非日常がリビングの中に出現し、キャンプに来たワケじゃないのにやたらワクワクした。
    春日部もそうだったみたいで、テントの中に入って「新しい匂いする!」とか、「ランタン引っかける場所あんじゃん!」と瞳を輝かせてた。

    こんなに喜んで貰えるなら、もっと色々貢ぎたい。
    今度は『手切れ金』を使うんじゃなく自分で稼いだ金で。二月の春日部の誕生日までにバイトして金を貯めようか。

    子どもみたいにはしゃいでいる春日部が可愛くてニヤニヤしながら見ていたら、目が合った、

「やべぇよ町屋ッ、お前も入ってみろよ。俺、今日ここで寝よっかな。」
「あははー、いいね。じゃ、今日はここでキャンプしよ。僕、そこら辺で野草取ってくるから待ってて。」
「待て、町屋一等兵。俺も行く。お前の採ってくる苦い野草には懲り懲りなんだよ。」
「僕の階級が上がってる!」


    もちろん冬の都会に野草なんて生えてないから、近くのスーパーに行って、バーベキューの材料を買った。
    明日は休みだから酒もたんまり買って、二つずつレジ袋をぶら下げてマンションに戻った。
代金は春日部が「出させてくれ」と言うのでお言葉に甘えた。

    魚焼きグリルで串に刺した肉や野菜を焼いて、テントの近くで飲み食いした。
    キャンプ用のテーブルは無いから、床に雑誌を置いてその上に料理を並べて床に直接座った。

    雰囲気を出す為に暖房は切って、照明も消して、何かのパーティの景品でもらったキャンドル数本に火を点けた。

    焚き火ほどではないが、炎を見ているとワクワクするし、話も弾む。

    次はどこにキャンプに行こうかとか、薫製を作ってみようとか、熊に会った時の対処法、川の魚を釣るには遊漁券なるものが必要な(場合がある)こと……。

    美味しい料理と酒を飲みながらの楽しい話は尽きなかった。

    キャンプの予定を立てるのは、近い未来にも僕が春日部の傍にいることが普通のこと、って言われてるみたいで嬉しくもある。


    話し込んでいて気付かなかったが、部屋の温度がかなり下がっていた。
    くしゃみをしたところで、春日部は立ち上がり自分の部屋から持ってきた上着を僕にかけてくれた。

「ありがと。」
「お前は体脂肪が少ねぇし、すぐ風邪引きそうだからな。」

    鼻をきゅっと指で摘ままれて「気ぃ、付けろよ」言われて、僕は頬が熱くなるのを感じた。
    キャンドルの灯りで良かった。顔が赤いのは多分バレない。

    こういうことを自然にできる春日部は、天然たらし、だ。

    エロいことには耐性があるけど、不意にされるこういったコミュニケーションには僕は不慣れだ。
    狼狽えたのを誤魔化すように、自分の得意なフィールドに春日部を引き込む。

「風呂にお湯、入れてくるね。一緒に温まろ?」
「あっ、……ああ。そう、だな。」

    今度は春日部が狼狽える番。まぁ、狼狽えるってよりは期待で声が上ずってるだけの気もするけど。


    風呂から上がり、いつもなら手を引いてベッドルームに行くところだが、今日は違う。
    「ちょっと待ってて」と言って、春日部にガウンを着せてソファーに座らせて僕だけがベッドルームに入る。

    ローションとゴムをガウンのポケットに入れ、掛け布団とシーツを外し抱えた。

「お待たせ。」

    どこか所在なさげにソファーに座ってキャンドルの火を見ていた春日部は僕の声に反応し、立ち上がると布団を代わりに持ってくれた。

「お前も、ここで寝る気か?」
「うん。キャンプだからね。」
「だったら寝袋シュラフでいーじゃん。何でだよ。」
「何で、だろうね?」

    封筒型の寝袋の上じゃセックスをするには狭すぎる。

    含みを持たせて言ったが、春日部のガウンの下には下着は着せていない。そういうことをするのは分かっていて、でもテントで?という戸惑いが春日部にはあるらしかった。
    でも、僕の顔とテントを交互に見て思案した後、口を開いた。

「掛け布団ペタンコになるだろ。俺の部屋から敷き布団だけ持ってくる。」

    春日部は思わぬ提案をしてくれた。僕はそれに頷いて手伝う為に春日部の部屋に一緒に入った。

    きちんと整頓された室内。
    布団も几帳面に三つ折りにして畳んである。

    そう言えば、引っ越しをした日以外にこの部屋に足を踏み入れたのは初めてだった。

    ――近い将来、この部屋に春日部はオトコを引き入れるかもしれない。

    チラリとそんなことを考えて、モヤモヤと胃の辺りが重くなる。

    じゃあ、僕がこの部屋で春日部とヤる一人目にならなきゃ。
    春日部の初めては譲れない。

    僕に背を向け、掛け布団を持ち上げ移動させている春日部の背後に僕は回ると、抱きついた。

「ごめんね、僕、もう我慢できない。」


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