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【第三章】蓮牙山攻防戦・第二次セトラ村攻防戦

【第三十九話】ガンテス視点

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 冬が終わろうとしていた。


 蓮牙山に積もっていた雪も、ほとんどが溶けている。


 ガンテスは、カイトという少年の事を気に入り始めていた。


 セトラ村で初めて会った時から、彼には不思議なものを感じていた。


 自分はカシュカと立ち合って負けたが、カイトは更に強いのかもしれない。
 実際に馬に乗った七人の部下がカイトに襲いかかったが、いとも簡単に武器を弾き落としていたのだ。


 かなりの手練でも、簡単に出来ることではない。


 そんな彼が蓮牙山に滞在すると知った時には、内心楽しみだった。


 蓮牙山に到着したカイトは興味深そうに見学し、翌日には部下達の調練に参加するようになった。


 調練に参加する時はいつも大きな槍を背負っていた。


 その槍には王国軍の紋章が彫られていて、セトラ村を襲撃した王国軍の指揮官から貰ったという。


 カイトに頼んでその槍を持たせてもらった事があったが、ガンテスは構えるだけで精一杯だった。


 カイトも同じで、いつかその槍を遣いこなせるように毎日鍛錬していた。


◆◆◆◆◆


 ある日、ガンテスはカイトを呼び出した。


「カイト。お前は元武術師範のドライスに剣術を教わったんだったな」


「はい。たった数ヶ月でしたが、剣だけでなく、槍や棒術、弓や素手での格闘術など、様々な武術を教えて頂きました」


 カイトの身体つきは、実にしっかりとしていた。


 姿勢を見ただけで、強いのだと分かる程だ。


「俺と、立ち合ってみないか」


 強い人間と会うと、つい力比べをしてみたくなるのだ。


「はい。武器は、何にしましょう」


 何とでもないという感じで、カイトは言った。
 しかし、自信があるという態度でもない。


 やはり面白い少年だと、ガンテスは思った。


「俺は槍を遣うが、武器は何でもいい。好きなのを遣え」


 そう言うと、カイトはいつも遣っていた剣を抜いた。


 カシュカから貰った剣らしい。


 構え合う。


 その瞬間、ガンテスは不思議な感覚を覚えた。


 恐怖などではない。


 むしろ、興奮や高揚に近かった。


 それなのに、固まったように自分の身体が動かない。


 一瞬だけ混乱したが、すぐに気を取り直した。


 カイトに、隙が無いからだ。


 先に動いたのは、カイトの方だった。


 ほんの少し身体を動かしただけのようにガンテスには見えたが、恐ろしく鋭い斬撃が目の前をかすった。


 鳥肌が立つ。


 ガンテスも槍を突いた。


 自然な動きで突きを避け、避けた動きの延長線で斬撃を繰り出してきた。


 応用力も、ちゃんと持ち合わせているようだ。


 やはり、カシュカよりも強い。


 セトラ村で闘ったのがカイトだったら、もっと早くに倒されていたのかもしれない。


 そう思った直後には、彼の剣が眉間にかざされていた。








 やはりカイトは間違いなく強いのだと、ガンテスは肝を冷やしながら思った。
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