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【第四章】資金調達編

【第六十一話】

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 ゼクトアと呼ばれた男は、特徴の無い、どこにでもいるような見た目だった。


 闇の業界の情報屋という職業柄、あえてそのように見せているのかもしれない。


「ほう、蓮牙山の頭領が、俺に商談か」


 ゼクトアが、俺に目を向けてきた。


 どこか影ったような視線だが、瞳の奥に力を感じる。


「ゼフナクト、この少年は?」


「セトラ村の自警団の団長代理をしている、カイトだ。ここ最近、蓮牙山に出入りしているのだ」


 ゼクトアの表情が、かすかに動いた。


「ほう、最近噂のセトラ村か。王国軍の侵攻を二度も退けたという」


 この地域にも、セトラ村の噂は広がっているようだ。


 しかしゼクトアの反応を見るに、俺の名前や顔は知られていないのだろう。


「ゼクトア、時間が無い。早速話だ」


 ゼフナクトがゼクトアに向かい合うようにして座ったので、俺も腰を下ろした。


 店員が注文を聞きに来たので、ゼクトアが酒と料理を幾つか注文した。


「カイトと言ったか。酒は飲むか?」


「俺はまだ、未成年です」


 そう言うと、ゼクトアは声を上げて笑った。


「そんな事を気にする奴は、この街にはいない。盗賊やごろつきなど、ならず者の街なんだ、ここは」


 仕方が無いので、俺は弱い酒を少しだけ注文した。


「未成年と言ったな。いくつだ?」


「十八になりました」


 様々なことがあって忘れていたが、俺はこの世界に来てから、いつの間にか歳を重ねていたのだ、と俺は束の間思った。


「なんだ、もうほとんど成人みたいなものだ」


 ゼクトアがそう言うと、ゼフナクトが咳払いをした。


「時間が無いと言っただろう」


「それは聞いた。だがな、俺は酒を飲みながらじゃないと話は聞かないことにしている」


 本気言っているのかふざけているのか、俺には分からなかった。


 ゼクトアに合わせるように、それからしばらく飲み食いをした。


 初めての酒だったが、悪くは無いと思った。


 ゼフナクトは、酒を少し飲んだだけだ。


「いい具合に酒が回ってきたな。話を聞こう」


 皿に残っている肉を箸でつまみながら、ゼクトアは言った。


「先日、お前から貰った情報を頼りに、王国軍の輸送隊を襲撃した」


 ゼフナクトが、淡々と話し始めた。


「ああ、太平車が四十台弱、東に向かって輸送されたのだったな」


「俺たちはその太平車を強奪し、積荷を売って軍資金にしようと思っているのだ」


「なるほど、それで俺に仲介を頼もうって話か」


 ゼクトアが、杯に残っていた酒を飲み干した。


 かなりの酒を飲んでいたが、やはり酔ったような表情はしていない。


「言うまでもなく、俺はこの街では情報屋として顔が効く。その人脈を使えば、大体の物を売れると思うが、それは裏の社会に限ってのことだ」


 ゼクトアは、あえて俺に説明したつもりのようだ。


「それで、肝心の品物は?」


「奪ったままの状態で、蓮牙山にある」


「違う違う、何を売るのかを聞いてるんだ」


 ゼフナクトは、さり気ない動きで卓の上に指で「塩」となぞって書いた。


 箸を持つゼクトアの手が止まった。


「量は? まさか、奪った太平車の全部がそうだってのか」


 ゼフナクトは、黙ってうなづいた。


「前言撤回だ。いくら裏の社会に顔が効くと言っても、それだけは無理だ」


 見るからに、ゼクトアは動揺していた。


 塩とは、それほど危ない物という事だろう。


「情報屋の名折れだな。話しを聞くだけで、怖気付いたのか」


 挑発するように、ゼフナクトは言った。


「何とでも言うがいい。それを取り扱ったが最後、俺は王国政府から消されるだろう。それも、明日にはな」


 二人の話を聞きながら、どうしたらゼクトアを動かせるのだろう、と考えていた。


 こういった駆け引きを経験させる為に、ゼフナクトは俺を連れてきたのか。


「今更だが、どうしてセトラ村の少年を伴ってきたんだ? この街の観光ってわけじゃないんだろ」


 ゼクトアの視線が、俺に向いた。


 ゼフナクトは何も答えず、酒を口に含んだ。


「軍資金の為に売ることを提案したのは、俺だからです」


 ゼクトアの表情が、さらに動いた。


「お前、それを売るという事がどういう事なのか分かっているのか」


「分かっているつもりです。しかし、蓮牙山でもセトラ村でも、軍資金を必要としているのです」


「軍資金って言っても、食っていくだけの銭なら、他に稼ぎようがあるだろう」


「それだけでは、とても足りません」


「足らないだと? 戦争じゃあるまいし」


 ゼクトアの【戦争】という言葉が、重くのしかかったような気がした。


 しかし、やると決めた戦いなのだ。


「そうです。戦争と言っても過言ではありません」


 真っ直ぐ目を合わせて言うと、ゼクトアが怯むのが分かった。


 少し間を置き、ゼクトアがため息をついた。


「ゼフナクト、この少年は一体何者なんだ?」


「さっきも言っただろう、セトラ村の自警団長代理だ」


「身の程を知らないにも程がある。大体、どこと戦争しようって言うんだ?」


 ゼフナクトは、口元だけでかすかに笑った。








「この国の不条理と、理不尽なこと全てに対してだ」


 ゼフナクトはそう言うと、懐から一冊を冊子を取り出し、ゼクトアに手渡した。


 表紙には、【替天行道】と書かれていた。
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