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王子の誕生と呪い2
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「対価をお支払いに参りました」
夜露の顔には脂汗が滲んでいる。
眉根は寄せられていて夜露は酷く苦しそうだ。
ここまでずっと対価の支払いはかけらほども無かった。
対価を払えなかった魔法は完全に呪いになってしまった。
もうどうすることもできない。
魔法を使った夜露自身にも、どうすることもできなくなっていた。
彼は今日まで呪いになってしまった魔法を、止めようとはしていた。けれど、何もできなかった。
呪いがどのような内容になるのか、魔法使いである夜露にも分からない。
夜露が呪いの種類を決めることもできない。決められたなら、あるいは楽だったのかもしれない。
誰にも迷惑をかけず、静かに呪いとともにあれただろうから。
パーティーに呼ばれていた紅玉が、青い顔をして夜露に話しかける。
「国王様は対価をお支払いくださららなかったの!?」
夜露が黙って少しだけ困ったような笑みを浮かべた。
それが答えだった。
夜露の視線はもう虚ろだった。
夜露は今王子の生誕パーティーをしていることにも気が付いていない様子だ。
その位苦しそうに夜露はふらふらとしていた。
真っ暗な、闇の様にどす暗いものが夜露の体から流れ出る。
「ひっ……!」
お妃様の悲鳴が聞こえる。
「呪いは呪いとして、魔法を望んだものに返さねばなりません」
静かに、夜露は言う。
それが魔法を行使するということだ。
魔法を使う上での理だ。
夜露は大きく息を吐いてそして二人で並ぶ王様とお妃様に言った。
その声は淡々としていて、誰もが夜露を恐ろしいと思ってしまった。
人の心があるとは思えない声が王子の誕生パーティーに響き渡る。
『この王子は初めて恋をした瞬間、彼の時は止まるでしょう』
声は夜露の少しだけ低い声とは別物の禍々しい低い低い声だった。
「戯言を!」
と王様が言った。
宮殿の魔法使いが進言した。
「彼が言った事は本当です。
魔法は対価を払わないと呪いになって返ってきます」
青い顔で、そう王様とお妃さまに伝えた。
こうなってしまうと、宮殿の魔法使いにももうどうしようもない。
宮殿の魔法使いも、今の今まで夜露の存在を忘れていたのだ。対価のことなど覚えてはいなかった。
なんの対策もしてこなかった。
呪いを跳ね返す準備も、彼を封じる準備もしていない。そもそも対価を払いさえすれば済む話だ。
王様とお妃様は途方に暮れた。
このままでは王子はいつか時を止めてしまう。
時を止めるの意味は分からないが、明らかに死を意味しているとしか思えない。
どうしたらいいのかとパーティーに参加していた魔法使い達を見回す。
王子に祝福を与えるため列に並んでいた紅玉が、王子に歩み寄る。
そして、自分の指輪を外すと「魔法が変化してしまった呪いは、解くことはできません」と言った。
「夜露を恨んではいけません」
紅玉は王様にそう言った。
それからちらりと夜露を見た。
夜露はゼイゼイと大きな息をしたままへたり込んでいる。
「彼はここまで呪いが呪いとならないように抑え込んでくれました。
それに、普通であれば制御不可能な呪いがなるべく影響を与えないように努力してくれました」
「しかし!!」
王様は叫んだ。
愛するわが子が呪いを受けてしまったのだ。
こんなことになるはずではなかった。
嫌われ者の魔法使いは勝手に一人で呪いを抱えて死んでほしかった。
そう言いたげだった。
ものすごい憎悪の籠った目で王様は夜露をにらみつけている。
「彼に危害を加えてはいけません。
呪いが本来の形でもっと酷いものをまき散らすでしょう」
呪いとなった魔法を無理になんとかしようとすると、手ひどいしっぺ返しが来る。
それは昔々からの摂理だった。
ただ、それについての研究を魔法使い達は連綿と続けていた。
それでも、と紅玉は付け加える。
「呪いは魔法でそのものを解くことはできません」
けれど、それを少し捻じ曲げる事は出来ます。
――そう、彼がしたみたいに。
夜露の顔には脂汗が滲んでいる。
眉根は寄せられていて夜露は酷く苦しそうだ。
ここまでずっと対価の支払いはかけらほども無かった。
対価を払えなかった魔法は完全に呪いになってしまった。
もうどうすることもできない。
魔法を使った夜露自身にも、どうすることもできなくなっていた。
彼は今日まで呪いになってしまった魔法を、止めようとはしていた。けれど、何もできなかった。
呪いがどのような内容になるのか、魔法使いである夜露にも分からない。
夜露が呪いの種類を決めることもできない。決められたなら、あるいは楽だったのかもしれない。
誰にも迷惑をかけず、静かに呪いとともにあれただろうから。
パーティーに呼ばれていた紅玉が、青い顔をして夜露に話しかける。
「国王様は対価をお支払いくださららなかったの!?」
夜露が黙って少しだけ困ったような笑みを浮かべた。
それが答えだった。
夜露の視線はもう虚ろだった。
夜露は今王子の生誕パーティーをしていることにも気が付いていない様子だ。
その位苦しそうに夜露はふらふらとしていた。
真っ暗な、闇の様にどす暗いものが夜露の体から流れ出る。
「ひっ……!」
お妃様の悲鳴が聞こえる。
「呪いは呪いとして、魔法を望んだものに返さねばなりません」
静かに、夜露は言う。
それが魔法を行使するということだ。
魔法を使う上での理だ。
夜露は大きく息を吐いてそして二人で並ぶ王様とお妃様に言った。
その声は淡々としていて、誰もが夜露を恐ろしいと思ってしまった。
人の心があるとは思えない声が王子の誕生パーティーに響き渡る。
『この王子は初めて恋をした瞬間、彼の時は止まるでしょう』
声は夜露の少しだけ低い声とは別物の禍々しい低い低い声だった。
「戯言を!」
と王様が言った。
宮殿の魔法使いが進言した。
「彼が言った事は本当です。
魔法は対価を払わないと呪いになって返ってきます」
青い顔で、そう王様とお妃さまに伝えた。
こうなってしまうと、宮殿の魔法使いにももうどうしようもない。
宮殿の魔法使いも、今の今まで夜露の存在を忘れていたのだ。対価のことなど覚えてはいなかった。
なんの対策もしてこなかった。
呪いを跳ね返す準備も、彼を封じる準備もしていない。そもそも対価を払いさえすれば済む話だ。
王様とお妃様は途方に暮れた。
このままでは王子はいつか時を止めてしまう。
時を止めるの意味は分からないが、明らかに死を意味しているとしか思えない。
どうしたらいいのかとパーティーに参加していた魔法使い達を見回す。
王子に祝福を与えるため列に並んでいた紅玉が、王子に歩み寄る。
そして、自分の指輪を外すと「魔法が変化してしまった呪いは、解くことはできません」と言った。
「夜露を恨んではいけません」
紅玉は王様にそう言った。
それからちらりと夜露を見た。
夜露はゼイゼイと大きな息をしたままへたり込んでいる。
「彼はここまで呪いが呪いとならないように抑え込んでくれました。
それに、普通であれば制御不可能な呪いがなるべく影響を与えないように努力してくれました」
「しかし!!」
王様は叫んだ。
愛するわが子が呪いを受けてしまったのだ。
こんなことになるはずではなかった。
嫌われ者の魔法使いは勝手に一人で呪いを抱えて死んでほしかった。
そう言いたげだった。
ものすごい憎悪の籠った目で王様は夜露をにらみつけている。
「彼に危害を加えてはいけません。
呪いが本来の形でもっと酷いものをまき散らすでしょう」
呪いとなった魔法を無理になんとかしようとすると、手ひどいしっぺ返しが来る。
それは昔々からの摂理だった。
ただ、それについての研究を魔法使い達は連綿と続けていた。
それでも、と紅玉は付け加える。
「呪いは魔法でそのものを解くことはできません」
けれど、それを少し捻じ曲げる事は出来ます。
――そう、彼がしたみたいに。
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