【短編集】恋人になってくれませんか?※追加更新終了

鈴宮(すずみや)

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6.ポンコツ魔女の惚れ薬が予想外に効果を発揮した件について

3.

(もうすぐ、24時間)


 少し離れた所で、キース様とマリア様が微笑み合っている。あと数分で、キース様はまた、わたしの手の届かない人になってしまう。
 手の中にある惚れ薬の入った小瓶をギュッと握りしめ、わたしは眉間に皺を寄せた。あんなにも完璧な二人の側に近づけるほど、わたしの精神は図太くない。けれど、今頑張らなければ、わたしはこの恋を永遠に失ってしまう。


(薬の効果が切れた瞬間、キース様はどんな風に思うだろう?)


 頭の中を占めていた『わたし』への気持ちが無くなって、我に返って―――マリア様にどんな言葉を捧げるのだろう。抱き締めるだろうか。わたしには許してくれなかった口付けをして、愛していると囁くのかもしれない。


(いやだ、そんなの見たくない)

「ハナ?」


 そう思ったその時、頭上でキース様の声が響いた。


「あっ……キース様」

「来てくれてたんだね。ちっとも気づかなかったよ」


 そう言ってキース様はニコリと微笑む。傍らにはマリア様と、ケネスがいて、わたしの心臓はドクンと疼いた。


(そうだ……惚れ薬)


 わたしの作った薬は、肌に直接吹き付けることで効果を発揮する。
 シュッ。
 キース様の無防備な手首に惚れ薬を吹き付けながら、わたしは心の中で大きなため息を吐いた。止めようと――――潮時だと思ったのに、またわたしは、好きな人に偽りの感情を植え付けてしまった。


(最悪だ)


 気を抜いたら涙が流れ落ちそうだった。


「まぁ、この子が『ハナ』様なの?」


 そう口にしたのはマリア様だった。
 とびきり美しい瞳を輝かせ、わたしのことを優しく見つめてくれる。なけなしの良心がズキズキ痛んだ。


(わたしは、あなたの婚約者を奪おうとしているのに)


 マリア様はわたしの汚い心なんて、思惑なんて絶対知らない。けれど、こんな風に笑顔を向けられる何てこと、絶対にあってはならない。


「そうです。可愛いでしょう?」


 キース様はそう言ってわたしの肩をそっと抱いた。


(ダメだよ、マリア様の前なのに)


 キース様は惚れ薬に操られているだけ。けれど、この場でそれを知っているのはわたしだけだ。


(顔が上げられない)


 マリア様の顔も、キース様の顔も見ることが出来なかった。
 ついこの間まで、ひたすら嬉しかった。楽しかった。こんな幸せがずっと続くと良いなぁって、そう思っていた。
 けれど今、わたしの胸は後悔で一杯だった。さっき向けられたマリア様の笑顔が、何度も何度も頭に過って、その度に絶望感で苦しくなる。


(被害者ぶるな、バカ)


 苦しいのはマリア様だ。わたしはあくまで加害者で、わたしが苦しいなんて言っちゃいけない。自分の欲を優先したからには、最後までエゴイストでいなければならない。
 頭上では、まだ会話が続いていたけど、わたしにはキース様たちが話している内容が一つも聞こえなかった。
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