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【1章】断食魔女、森で隠遁生活を送る

15.変な方向に引っ張られています(2)

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「は⁉」


 一体この人は何を言ってるの! 馬鹿じゃないの⁉
 っていうか、神殿に来て以降、性格変わってません⁉ 
 元々強引な人だけど、変な方向に引っ張られてばかり。これじゃマジで身がもたない。


「一度は『やる』と言ったのでしょう?」

「いや、やるとは言ってない。仮に言ったとしても、貴方に言わされただけで……」

「言わされたとしても、約束は約束。逃しませんよ」


 いつになく低い声音で囁かれ、背筋がぶるりと震える。腰を抱かれ、頬を撫でられ、変な汗が背中を濡らす。
 どういう状況よ、これ。しかも、めっちゃ大勢に見られてるし。


「よく考えてみてください。貴方が少し笑顔を振りまくだけで、沢山の人が幸せになれるんです。そして、私からのキスも回避できる。素晴らしい提案でしょう?」

「わかったから。……お願いだから、もう喋らないで」


 喋ったら唇が触れちゃうから。っていうか、わたしの処理能力を超えてるから!
 今はもう、黙って言うことを聞くのが一番だ。


 神官様の手を借り、わたしはむくりと起き上がる。それから、歯を食いしばって、無理やりニコリと微笑んだ。


「先程は失礼致しました。あまりの人の多さに驚き、体勢を崩してしまって……」


 こうなったら、徹底的に猫を被ってやる。じゃないと、神官様のファンに何されるかわからない! 今ここでこの男を罵ったり、被害者ぶったりしたら、火まつりにされても文句は言えない。そういう強い気を感じる。


「改めまして、おはようございます。ジャンヌと申します。皆様、どうぞ、よろしくお願いいたします」


 至上命題:人畜無害な女性を演じること。

 清楚で、清らかで、色恋とは無縁の聖女を演じる。

 わたしの今後の身の安全のために。
 神官様から逃れられる、幸せな未来のために!


 野太い歓声が上がる。彼等を遠目に見つめつつ、神官様に繋がれたままの手を必死で引く。残念ながらびくともしない。来殿者からは見えない位置だけど、物凄く不快だ。


「本当に、よろしくお願いしますね、ジャンヌ殿」

(誰がよろしくするもんか!)


 心のなかで舌を出しつつ、わたしは神殿(=神官様)から逃亡することを決意するのだった。
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