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【1章】断食魔女、森で隠遁生活を送る

16.おばあさんの話を聞きました(1)

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 握手会会場――――もとい、参拝者を受け入れて以降の神殿の熱気は本当に凄まじかった。

 騎士たちが城内整理を行い、神官ごとに長い列が形成されていく。見ているだけでめまいがした。


「これ、午前中までに捌かないといけないんですよ」

「は? これ、全部」

「ええ。そういう決まりなんです」


 げんなりしているわたしを前に、神官様はくすりと笑う。
 とはいえ、一人ひとりに与えられた時間は流石に十秒とかではなく、最大で五分は取れるらしい。

 だけど、昼までの残り時間と、ここに居る人数なんかを冷静に計算すると……ね。明らかに足りないじゃんってなるわけで。


「大丈夫だよ、ジャンヌさん。常連さんはみんな、二十秒ぐらいお話して、すぐにバイバイするんだよ!」

「は?」


 なにそれ。わざわざ長い時間列に並ぶのに、敢えて短時間の握手――お祈りに甘んじるって、どういうこと?


「新しいお祈り事項のない人は、私達から神聖力を受け取るだけ。そちらの方がご利益が高いということになっているんです。
ですから、皆さんきっちり二十秒で去っていかれるんですよ。まあ、その分、一日に数回並ぶ猛者もいますけどね」

「――――ツッコミどころが多すぎます。『ご利益が高いということになっている』って……」


 そりゃあ、時間は限られているし? どっかで線引は必要だろうけど、裏事情を知ると何とも言えない気持ちになる。


「皆さん、その二十秒の間に顔や名前を覚えてもらおうと、ありとあらゆる工夫をされるんです。見ていて涙が溢れるほど。本当にありがたいことです」


 神官様が目元を拭う仕草をする。
 白々しい。思わずケッと笑ってしまった。


(まぁ、あれだ。神社でお参りをするみたいな感覚なのかな)


 聖地巡礼。行くだけで元気になれるみたいな。
 対面時間が短いのも織り込み済みだし、文句は出ないってことなのだろう。


「でも、待って。わたし、神聖力なんて持ってませんけど?」


 つまり、わたしと話したところで、何のご利益もない。新しい神官みたいに紹介されてたけど、これでは詐欺じゃないか。


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