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【終章】断食魔女と、肉食神官と、それから聖女
34.マリアと同じ顔の女の子を見つけました(2)
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朝食を終えたら気を取り直し、三人揃って参拝客の話を聞く。
笑うことも、話を聞くことも、握手をすることすらも、今では抵抗がなくなってきた。
もちろん、猫をかぶることは疲れるけれど、給料をもらって仕事をしている以上、わたしはプロだ。仕事の間ぐらいは、きちんとした自分を演じている。参拝客も喜んでくれるし、単調だった日々にメリハリができたし、案外性に合っているのかもしれない。
(このままずっと、こんな日々が続いていくのかな)
マリアと、セドリックと一緒に笑い合いながら。
そうだったら良いな――――そんなことを思ったそのときだった。
「ねえ、ママ! 新しい聖女様ってどんな子かなぁ?」
参拝客の列の中から、舌足らずな幼い声が聞こえてきた。マリアの列の方角だ。
「さぁねぇ? ママにもまだよく見えないわ。だけど、新しい聖女様はあなたと同じぐらいの子供なんですって。お話するのがとっても楽しみねぇ。マリア様っていうお名前だそうよ」
次いで、母親らしき女性の声が聞こえてくる。なんとなく、声の聞こえてきた方角に視線をやったその瞬間、わたしは驚愕に目を見開いた。
「え? マリア……?」
桃色の髪、タレ目がちな大きな瞳、目鼻立ちに至るまで、その女性はマリアとそっくりよく似ている。まるで大人になったマリアを見ているかのようだった。
それだけじゃない。
思わず視線を下向ければ、その女性の隣には、マリアと背格好まで全く同じ――――そっくり同じ顔をした女の子が居る。
(そんな……! 嘘でしょう!?)
あの女性は―――
女の子は――――
間違いない。
マリアの本当の母親と、双子の姉か妹だ。
このまま列に並ばれては、マリアが自分を捨てた母親と出会ってしまう。
しかも、彼女と一緒に生まれてきた子供は捨てられることなく、今も母親に育てられているという最悪の事実を知ることになってしまう。
「ダメよ、そんなの」
世の中、知らなくて良いことは絶対にある。
まだ六歳のマリアに、こんな苦しみを味わわせて良いはずがない。絶対にない。
「ジャンヌ?」
わたしのただならぬ様子に気づいたのだろう。セドリックがわたしの視線の先を追い――――それから大きく息を呑んだ。
「本日は都合により、マリア様の参拝客受け入れはここまでとさせていただきます! マリア様の列にお並びの皆様につきましては、すぐに別の列に誘導させていただきますので、この場で今しばらくお待ち下さい!」
セドリックの発表に「えーーっ」と大きなどよめきが湧き起こる。なんで? という疑問の声が、方々から聞こえてきた。
(関係のない人には申し訳ない。本当に、心から申し訳ない。だけど、今日だけは……! マリアのためにどうか許して)
心のなかで必死に謝罪をしつつ、わたしは急いでマリアのもとに向かった。
「ジャンヌさん、どうしたの? さっきセドリックがもう終わりって言ってたけど、あたしまだやれるよ?」
「良いから。騎士たちと一緒に神殿の中に入って。急いで!」
説明する時間が惜しくて、わたしは騎士たちにマリアを押し付ける。
だけど、タイミングがあまりにも悪かった。
「え……?」
一目聖女の姿を拝みたい――――おそらくはそう思ったのだろう。ぐっと背伸びをしたマリアの本当の母親が、大きく目を見開いている。
(しまった……!)
おそらく彼女には、マリアの顔が見えてしまったに違いない。
忌々しさに顔を歪めながら、わたしはマリアを神殿の中へと押し込んだ。
朝食を終えたら気を取り直し、三人揃って参拝客の話を聞く。
笑うことも、話を聞くことも、握手をすることすらも、今では抵抗がなくなってきた。
もちろん、猫をかぶることは疲れるけれど、給料をもらって仕事をしている以上、わたしはプロだ。仕事の間ぐらいは、きちんとした自分を演じている。参拝客も喜んでくれるし、単調だった日々にメリハリができたし、案外性に合っているのかもしれない。
(このままずっと、こんな日々が続いていくのかな)
マリアと、セドリックと一緒に笑い合いながら。
そうだったら良いな――――そんなことを思ったそのときだった。
「ねえ、ママ! 新しい聖女様ってどんな子かなぁ?」
参拝客の列の中から、舌足らずな幼い声が聞こえてきた。マリアの列の方角だ。
「さぁねぇ? ママにもまだよく見えないわ。だけど、新しい聖女様はあなたと同じぐらいの子供なんですって。お話するのがとっても楽しみねぇ。マリア様っていうお名前だそうよ」
次いで、母親らしき女性の声が聞こえてくる。なんとなく、声の聞こえてきた方角に視線をやったその瞬間、わたしは驚愕に目を見開いた。
「え? マリア……?」
桃色の髪、タレ目がちな大きな瞳、目鼻立ちに至るまで、その女性はマリアとそっくりよく似ている。まるで大人になったマリアを見ているかのようだった。
それだけじゃない。
思わず視線を下向ければ、その女性の隣には、マリアと背格好まで全く同じ――――そっくり同じ顔をした女の子が居る。
(そんな……! 嘘でしょう!?)
あの女性は―――
女の子は――――
間違いない。
マリアの本当の母親と、双子の姉か妹だ。
このまま列に並ばれては、マリアが自分を捨てた母親と出会ってしまう。
しかも、彼女と一緒に生まれてきた子供は捨てられることなく、今も母親に育てられているという最悪の事実を知ることになってしまう。
「ダメよ、そんなの」
世の中、知らなくて良いことは絶対にある。
まだ六歳のマリアに、こんな苦しみを味わわせて良いはずがない。絶対にない。
「ジャンヌ?」
わたしのただならぬ様子に気づいたのだろう。セドリックがわたしの視線の先を追い――――それから大きく息を呑んだ。
「本日は都合により、マリア様の参拝客受け入れはここまでとさせていただきます! マリア様の列にお並びの皆様につきましては、すぐに別の列に誘導させていただきますので、この場で今しばらくお待ち下さい!」
セドリックの発表に「えーーっ」と大きなどよめきが湧き起こる。なんで? という疑問の声が、方々から聞こえてきた。
(関係のない人には申し訳ない。本当に、心から申し訳ない。だけど、今日だけは……! マリアのためにどうか許して)
心のなかで必死に謝罪をしつつ、わたしは急いでマリアのもとに向かった。
「ジャンヌさん、どうしたの? さっきセドリックがもう終わりって言ってたけど、あたしまだやれるよ?」
「良いから。騎士たちと一緒に神殿の中に入って。急いで!」
説明する時間が惜しくて、わたしは騎士たちにマリアを押し付ける。
だけど、タイミングがあまりにも悪かった。
「え……?」
一目聖女の姿を拝みたい――――おそらくはそう思ったのだろう。ぐっと背伸びをしたマリアの本当の母親が、大きく目を見開いている。
(しまった……!)
おそらく彼女には、マリアの顔が見えてしまったに違いない。
忌々しさに顔を歪めながら、わたしはマリアを神殿の中へと押し込んだ。
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