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5.婚約破棄をされたので、死ぬ気で婚活してみました
2.
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「お父様、新しいお相手のリストアップは?」
「当然はじめている。というより、すでに呼び寄せているんだ」
父はそう言ってパンパンと小さく手を叩く。すると、ややして一人の男性が部屋に連れてこられた。
「お初にお目にかかります。陛下とオウレディア殿下におかれましては、ご機嫌麗しゅう……」
若く、見目麗しい貴族の男性たち。それはお茶会という体をとった、婚約候補者たちの面接だった。
「おまえはオウレディアを見てどう思う?」
「え? それは当然お美しいな、と……」
「心から愛せそうか?」
「愛し? それはもちろん……」
私たちに残された時間はあまりない。万が一口私を心から愛してくれない人を選んでしまったら――おそろしい結末を迎えてしまう。
お父様も私と同じ気持ちなのだろう。初っ端からかなり突拍子のない質問をせざるを得なかった。
「どうだい、オウレディア? これまでの間に気に入った男性はいたか?」
「そうね……よくわからないわ」
何人かに話を聞き終わったところで、お父様から第一印象を尋ねられる。
正直なところ、私が相手を気に入ったところであまり意味はないと思う。だって、向こうが私のことを愛してくれなかったらそれで終わりだもの。
だから、注目すべきは私に対してどのぐらい好印象を持ってくれるかっていうことと、なんとしても王家とつながりを持ちたいという野心ってことになるんだけど。
「正直言って難しいと思うのよね。貴族ならみんな、私がメレディスと婚約していたことを知っているのだし、まごうことなき政略結婚でお相手を心から愛せると最初から約束するなんて……」
「愛してもらわないと困る。だからこそ、それが可能な男性を探しているんだ」
お父様はそう言って、私の頭をポンポンと撫でる。憂いを帯びた表情に、私まで胸が苦しくなった。
その日の内に十五人の男性と会い、お父様と話し合って十人を候補者として残すことにした。
けれど、以降はこちらから呼び出すのではなく、男性側からのアプローチを待つ。それが相手の熱意をはかる指標になるからだ。
「オウレディア様に一目お目にかかりたくて」
「プレゼントをお持ちしました。どうか、受け取っていただけませんか?」
「殿下と出かける栄誉をいただきたく……」
相手の本気度はほんの一ヶ月もあれば判断ができる。あっという間に、候補者は三人に絞られていた。
「オウレディアは三人の中なら誰が一番好みなんだ?」
「そうね……ジェイル・トンプソンが一番かしら。彼なら私のことを大事にしてくれそう」
三人は頻繁に登城し、私と会話を重ねている。なかでも、一番熱心なのが侯爵令息のジェイルだった。
「ジェイルか……たしかに、私が受けた印象も彼が一番よかった。登城回数も候補者たちのなかでは一番だ。事前の素行調査にも問題はないし、彼ならおまえを愛してくれるだろう」
「うん……そうだったらいいんだけど」
彼が相手なら、私は死なずに済むかもしれない。十八歳以降も生きていけるかもしれない。
(だけど、怖い)
死へのカウントダウンはとっくの昔にはじまっている。
呪いの話をはじめに聞いたとき、どうして魔女はそんなまどろっこしいことをしたのだろう? と思っていた。さっさと命を奪ってしまえばよかったのに、って。
だけど、今ならわかる。単に死んでしまうより、こちらのほうがよほどお父様に与えられる絶望感が大きいのだ。
だって、仮に今、私が死んでしまったとしても、それは魔女だけのせいじゃない。愛してくれる人を見つけられなかったお父様や私が悪かったってことになるんだもの。変に助かる道を用意している分だけ、底意地が悪いと私は思う。
「――ねえ、ジェイルは私のことを愛してくれる?」
「え?」
「本当に、心から愛してくれる?」
本当はそんな言葉を口にするべきではない。だけど、不安のあまり、ついついそんなことを尋ねてしまう。
「もちろんです。結婚をしたら、殿下を一番に想い、大切にいたしますよ。そういえば、はじめてお会いしたときに、陛下も同じことを尋ねていらっしゃいましたね」
ジェイルはそう言って朗らかに笑った。彼につながれた手のひらが温かい。目頭がじわりと熱くなった。
「だって、死んじゃうんだもの」
「え?」
「十八歳までに私を心から愛してくれる人と結婚できなければ、私は死んでしまうの。だから……」
胸がたまらなく苦しい。不安で胸が押しつぶされそうだ。
ジェイルは少し目を見開き、以後なにも言わなかった。
彼から【辞退したい】と手紙が届いたのは、それから数日後のことだった。
「当然はじめている。というより、すでに呼び寄せているんだ」
父はそう言ってパンパンと小さく手を叩く。すると、ややして一人の男性が部屋に連れてこられた。
「お初にお目にかかります。陛下とオウレディア殿下におかれましては、ご機嫌麗しゅう……」
若く、見目麗しい貴族の男性たち。それはお茶会という体をとった、婚約候補者たちの面接だった。
「おまえはオウレディアを見てどう思う?」
「え? それは当然お美しいな、と……」
「心から愛せそうか?」
「愛し? それはもちろん……」
私たちに残された時間はあまりない。万が一口私を心から愛してくれない人を選んでしまったら――おそろしい結末を迎えてしまう。
お父様も私と同じ気持ちなのだろう。初っ端からかなり突拍子のない質問をせざるを得なかった。
「どうだい、オウレディア? これまでの間に気に入った男性はいたか?」
「そうね……よくわからないわ」
何人かに話を聞き終わったところで、お父様から第一印象を尋ねられる。
正直なところ、私が相手を気に入ったところであまり意味はないと思う。だって、向こうが私のことを愛してくれなかったらそれで終わりだもの。
だから、注目すべきは私に対してどのぐらい好印象を持ってくれるかっていうことと、なんとしても王家とつながりを持ちたいという野心ってことになるんだけど。
「正直言って難しいと思うのよね。貴族ならみんな、私がメレディスと婚約していたことを知っているのだし、まごうことなき政略結婚でお相手を心から愛せると最初から約束するなんて……」
「愛してもらわないと困る。だからこそ、それが可能な男性を探しているんだ」
お父様はそう言って、私の頭をポンポンと撫でる。憂いを帯びた表情に、私まで胸が苦しくなった。
その日の内に十五人の男性と会い、お父様と話し合って十人を候補者として残すことにした。
けれど、以降はこちらから呼び出すのではなく、男性側からのアプローチを待つ。それが相手の熱意をはかる指標になるからだ。
「オウレディア様に一目お目にかかりたくて」
「プレゼントをお持ちしました。どうか、受け取っていただけませんか?」
「殿下と出かける栄誉をいただきたく……」
相手の本気度はほんの一ヶ月もあれば判断ができる。あっという間に、候補者は三人に絞られていた。
「オウレディアは三人の中なら誰が一番好みなんだ?」
「そうね……ジェイル・トンプソンが一番かしら。彼なら私のことを大事にしてくれそう」
三人は頻繁に登城し、私と会話を重ねている。なかでも、一番熱心なのが侯爵令息のジェイルだった。
「ジェイルか……たしかに、私が受けた印象も彼が一番よかった。登城回数も候補者たちのなかでは一番だ。事前の素行調査にも問題はないし、彼ならおまえを愛してくれるだろう」
「うん……そうだったらいいんだけど」
彼が相手なら、私は死なずに済むかもしれない。十八歳以降も生きていけるかもしれない。
(だけど、怖い)
死へのカウントダウンはとっくの昔にはじまっている。
呪いの話をはじめに聞いたとき、どうして魔女はそんなまどろっこしいことをしたのだろう? と思っていた。さっさと命を奪ってしまえばよかったのに、って。
だけど、今ならわかる。単に死んでしまうより、こちらのほうがよほどお父様に与えられる絶望感が大きいのだ。
だって、仮に今、私が死んでしまったとしても、それは魔女だけのせいじゃない。愛してくれる人を見つけられなかったお父様や私が悪かったってことになるんだもの。変に助かる道を用意している分だけ、底意地が悪いと私は思う。
「――ねえ、ジェイルは私のことを愛してくれる?」
「え?」
「本当に、心から愛してくれる?」
本当はそんな言葉を口にするべきではない。だけど、不安のあまり、ついついそんなことを尋ねてしまう。
「もちろんです。結婚をしたら、殿下を一番に想い、大切にいたしますよ。そういえば、はじめてお会いしたときに、陛下も同じことを尋ねていらっしゃいましたね」
ジェイルはそう言って朗らかに笑った。彼につながれた手のひらが温かい。目頭がじわりと熱くなった。
「だって、死んじゃうんだもの」
「え?」
「十八歳までに私を心から愛してくれる人と結婚できなければ、私は死んでしまうの。だから……」
胸がたまらなく苦しい。不安で胸が押しつぶされそうだ。
ジェイルは少し目を見開き、以後なにも言わなかった。
彼から【辞退したい】と手紙が届いたのは、それから数日後のことだった。
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