悪女は王子を騙したい~あなたの破局、わたしが請け負います~

鈴宮(すずみや)

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「オルニア、居るか?」


 扉の向こうで、大きな花束が揺れる。その後から響くのは、クリスチャンの快活な声音だ。


「殿下! 今日も会いに来てくださったのですか?」

「ああ。具合はどうだ? 顔色は良さそうだが」


 クリスチャンは、花やドレスや宝石を持参し、三日と開けず、オルニアに会いに訪れる。専属の侍女も一人つけてもらった。至れり尽くせり――――寧ろ過ぎるぐらいだ。


「元々過労というお話ですもの。すっかり元気になりましたわ」

「いや、未だ顔色が悪い。しっかりと静養しなければ」


 良い依頼人――金蔓になりそうだと思っていたのに、どちらかと言えばクリスチャン自身がカモになっている。彼はオルニアに惚れているらしく、過保護に世話を焼きつつ、こうして貢物を持参するのだ。


(こういうの、ちょっと面倒だなぁ)


 オルニアは惚れさせた相手から施しを受けたい訳ではない。依頼人から納得の上、報酬を貰うことが好きなのだ。
 見ている限り、クリスチャンは兄達を失脚させたいとか、そういった欲を持ち合わせていない。


(これ以上の長居は無用ね)


 ベッドから立ち上がり、オルニアはニコリと微笑んだ。


「ご覧になって、殿下。この通り、もうすっかり元気ですわ。早くお暇せねば、わたくしの気が――――」

「そうか! だったら今日は、俺と一緒に街に出よう」

「…………へ?」


 クリスチャンはオルニアの手を取り、嬉しそうに微笑む。


「オルニアの好きなものを何でも買ってやる! ドレスも宝石も、自分で選んだ方が楽しかろう。それから、女性に人気のカフェがあるそうだから、そこに行こう。好きなものを食べると良い」

「えぇ? っと……それは大変光栄なことですが、殿下がそういったことをなさって大丈夫なのですか?」


 そもそも、何処の誰とも知らぬ女を城に連れ込んだだけでも十分問題だ。そう仕向けたのはオルニア自身だが、ここまで分別が無いと、さすがに反応に困ってしまう。


「嫌か?」


 クリスチャンの整った顔がオルニアに迫る。


「どうしても嫌なのか?」


 押しが強い。おまけに、後には侍女や騎士が大勢控えている。嫌です、と言える状況にないのは間違いないだろう。


「まさか! 是非、ご一緒させてください」

(よし、途中でとんずらしよう)


 満面の笑み。裏ではそんなことを考えつつ、オルニアはこっそりとため息を吐いた。
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