白露の蜘蛛はあなたを愛しましょう ~転生者以上にチート過ぎませんか~ (仮)

志位斗 茂家波

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出会いましょう、新しい世界と共に

第四十四話 濃縮された、混沌は

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…襲撃をかけてきた、魔獣の群れによる災害、モンスターハザード。
 人為的に引き起こされた可能性があるようだが、相手は魔獣ということもあってか、聖女の結果によって囲われた王都への侵入はできていないようだ。
 だが、それでも何者かの手によるものゆえか諦めることはなく…

【グォォォォォォォ!!】
【エビフラァァァァ!!】
【ボベェェェェェ!!】

「…種類の違う多くの魔獣が、全力で突撃してくるたびに結界が震えている」
【数が多く、限界を超えて稼働させられているからこそ相当な力が働き、衝撃を与えることが出ているのでしょう。でも、これは…】

 攻め入ってくる魔獣の群れを、結界の内側から弓矢や投石などによって迎撃することで、数は減っているようだ。
 けれども、こちらからの攻撃だけで倒されているのではなく…操られているからこそ出せる過剰な力で限界を超えているせいで、一部の魔獣が体当たりと同時に爆散したりして、その命を儚く散らせていく。

「限界を超えた力の代償に、自己崩壊か自滅か…いや、どっちも同じか」

 数が減ることで、こちらの脅威がなくなっていくのは良いのだろう。
 しかしながら、それでもこの光景は見ていて気持ちがいいものではない。


【キュル…何かもっと、どす黒いような力が働いて、魔獣を動かしている。どうにもできないけど…同じ魔獣としては、悲しい気持ちになる。だからこそ…ここで、終えさせないと】

 悲しげな表情になりつつ、体力が回復したハクロはルドを抱えて跳躍し、王都の周囲を負う城壁の上から下を見下ろして、多くの魔獣たちに狙いを定める。

【一気に全部…安らかに。範囲攻撃魔法…『グラビティ・スタンプ』】
ドン!!
ブチュチュン!!


 ハクロが空に手を掲げ、下ろすのを合図にして瞬時に魔獣の肉体が潰されていく。
 強力な圧力の様なものが魔法によって生じて、狙いを定めた魔獣全てに上からまともにかかり、7押しつぶしているようだ。

 範囲攻撃というが、それでもこの数の多さには限界があるようなので、一度に全体を潰せないから、ロードローラーで轢いているような形で潰していく。

 押しつぶされていく魔獣は抵抗する間もなく、あっという間に地面と一緒の薄い存在へと命を散らしていく。


「うわぁ…ハクロ、糸で切り刻むとかじゃなくて、圧力を選んだのか」
【ええ、そうです旦那様。私の糸による攻撃でも、彼らを眠らせることはできたでしょう。けれども、瞬時に切り刻めてもその意識までもすべて瞬間に消せないので…強力な圧力をかけて一瞬で潰すことで、感じ取れる前に眠らせることにしました】

 それはそれできちんとできているのかと疑問に思うが、どうやら糸で処理するよりも素早くできるようで、断末魔を上げさせることなく潰していく。

 プチプチと、蚊を叩くよりも大雑把に、それでいて瞬間的に潰すことで、あっという間に魔獣たちの数は減っていった。

【キュル…あ、でももうできなくなりました。これ、相当魔力使うので…残り、十分の一ほど残りましたよ】
「あの数相手に、ここまでやるのも相当すごいって」

 
 魔法を出せる力も限界はあったようで、さらにこの重力魔法はより消費が激しいようで、全てを潰しきることは叶わなかった。
 だが、ここまで数を減らせば、衛兵たちですぐにでも全て打ち倒せるかと思っていた…その時だった。

「おい!!あそこを見ろ!!」
「な、なんだ!?死体の山から、何か生えてきたぞ!!」
「え?」
【キュ?】

 潰されていった魔獣たちを見てあっけにとられていた人たちがすぐに動こうと意識を戻していく中、ふと声が上がった。
 何か異常があったようで、その声の指し示す方向を見れば…そこには信じがたい光景が作られつつあった。

「な、何、あれ…」

 衛兵たちの弓や、ハクロの攻撃によって倒れたり潰されたりした魔獣の死体。
 その一角から、突如として何か蔓のようなものが飛び出し、周囲の魔獣をかき集めてどんどん一つの塊として大きくなり始めた。

【キュルル…!!何か、濃くなっている!!死体の栄養使って、育っている!!】
「何かって何なの!?」
【わからない。けれども、あれが…魔獣の体内に仕掛けられていた何かであったあれが、今回の原因!それが、死体を喰らって出てきた!!】

 ぶちゅりと鈍い音を立てまくり、魔獣の死体の内部から飛び出し、集まっていく何か。

 その蔓の色は、以前皇女を襲撃した賊たちが取り込まれた魔道具から出た何かに類似しており、関係性があると思われる。
 そして、その関係性がしめすこととすれば、周囲の肉を喰らいまくって…


グジュゴボゴボゴボ、ブッシャァァァァ!!
【ジョゲェェェェラァァァァァァ!!】

 巨大な肉塊になったかと思えば、瞬時に蔓で覆い尽くされて大きな緑の球体になり、次の瞬間には内部から飛び出すように化け物が爆誕した。
 取り込んだ魔獣の肉を混ぜたかのような、おぞましいような色合いをした巨大な化け物。
 その肉体のあちこちからは蔓が出ており、頭は巨大な蕾のようになっているのに、その中から出てくる咆哮は巨大な音。

「しょ、植物の化け物の様なものが出来やがったぁ!!」
「見た目は巨大な猛牛に、植物の触手と蕾の頭が出た感じだぁ!!」
「サイズが馬鹿でかくねぇか、あれ!!」

 あまりにも巨大な、化け物の体。
 そのサイズは周囲の魔獣の肉を全て取り込んだからか、城壁を軽々と飛び越えられそうなほど巨大なものになっているだろう。

【ジョゲラァァァァァ!!】
「突っ込んでくるぞぉぉぉ!!」
「だ、大丈夫だ、聖女様の結界があ、」

ドッゴバリバリバチィイイイイイイイイ!!

「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」」

 猛牛のように大地を踏み荒らし、突撃してきた巨大な化け物。
 聖女様の作った結果によってすぐに王都に入ることは阻まれたが、バチバチと凄まじい衝撃と電撃の様なものが接触部分から放たれており、一歩も譲る様子がない。

「くっ…ま、不味いわね!!これ、大きすぎるわ!!」

 聖女クラウディア様がそう叫んだ次の瞬間、びしっと嫌な音が響き渡る。

 見れば、接触面にひびが入っており…そこに、化け物の蕾の頭が差し込まれて、内部へ侵入しようとしているようだ。

「うぉい!!ちょびっと入り込み始めたぞ、あいつ!!」
「いそげぇ!!王都へ入らせるなぁ!!」

 衛兵たちが慌て始め、攻撃をするもひるむ様子はない。
 それどころか無理やり蕾部分を結界の内部へと推し進め…

ブシュウウウウウウウウウウウウウ!!
「な、なんだぁ!?」
「何か吐き出しやがった!!」

 蕾の隙間から突如として、毒々しい色合いのガスの様なものを放出してまき散らす。

「まさか毒ガスか!!おい、吸い込むな!!」
「表面から入ってきて、体がやられ…いや、何ともないぞ?」

 この攻撃であっという間に全滅するのではないかという緊張が漂ったが、どういうわけか影響がない。
 蕾の中から出て毒々し色合いをしているというのに、何の香りもなく、一体なんだろうと思っていた…その時だった。


ゴブッ
【…ギュルッ】
「は、ハクロ!?」
「どうしたの、ハクロちゃん!」

 突然、ハクロが血を吐き、ルドたちは驚愕する。
 先ほどまで全力で魔法を放っていた反動か思われたが、様子がおかしい。

【ま、不味いかも…これ、多分、人間には効果が無いですが…アあ、そウいウコトですカ、コレ、魔獣に対シてノ効果が…だ、旦ナ様…ゴメンナサイ…】
「ハクロ、しっかりして!!」
【キュルキュルッキュル…ギュルルルルルルルルルルルル!!】

 血を吐きながら、ハクロが叫び身体を震わせる。
 白かった身体がみるみる間に赤く、紅色に染まっていき、その眼の色も真っ赤に光る。

【キュル、キギュルルルルルルルル…魔獣ヘノ操リ、コレ利用…デモ、旦那様傷ツケタクナイ!!】

 暴れそう体を糸で押さえ、ハクロは自ら糸の塊の中に閉じこもり始める。

【ヂョッド抜ギマズ!!私ガ私デナクナラナイヨウニ、ジバジオ待ヂヲ!!】

 そう言いながら巨大な糸の塊に、彼女は完全にこもった。
 ブシュウウッと内部から音を立てて、真っ赤な液体が垂れまくる。

「は、ハクロ…いったい何を」
「そうか、あの化け物が魔獣を操る何かを出しているんだ。魔獣である彼女もその影響を受けたのだろう」
「でも、他の魔獣と違って彼女は強い意志で抗い…それでもできない部分があったのかもしれない:
「だからこそ、何かしでかす前にこの選択をしたのか」

 ハクロの様子を見て、人々は悟る。
 そういえば、彼女も魔獣だったという事実を。

 人と一緒に生活する中で、かなり溶け込んでいたが…それでも魔獣の身であるがゆえに、あの魔獣たちと同じようなことになろうとしていたのを。

 でも、彼女はそれを否定した。
 人を傷つけることを、愛しい相手の命を危機にさらすことを避け、自らの戦いのために閉じこもったのだ。

【ジョゲラァァァァァァ!!】

「っと、やばいな、あの化け物が根性で入ってこようとしているぞ!!」
「多分、彼女が魔獣であることを利用して、内部から攻撃して聖女様を害し、楽に結界を破壊しようとしたのだろうが、目論見が外れたからか怒り狂っているようにも見えるな!!」
「ひでぇ逆恨みだがそんなこと知るかぁぁぁ!!」

 化け物が蠢きはじめ、入ろうとする。
 その光景は本来、畏れるべきものなのかもしれないだろう。

 しかし、彼女の…人を傷つけないようにと選択したハクロを見て、そんな目に合わせた相手を、皆許せないようだ。
 それだけ彼女がここで人と過ごし、愛されていた。
 たとえ、彼女が愛しているのが番だけだとしても、その心は親しく思えたのだろう。


 だからこそ、人々は怒りをもって化け物へ立ち向かい始める。

「そうだよ、ハクロ…うん、皆で何とかしている間に、ゆっくり休んでいて!!」

 そしてルドもまた、非力な少年の身とはいえ、彼女に害を与えようとした化け物を許すことはできない。
 たとえ何もできないとしても戦う人を手当したりなどの補助はできるだろうし、後方支援だとしても動かずにはいられない。

【ジョゲラァァァァァァァァァァ!!】
「「「「うるさいわ、この化け物がぁぁぁぁ!!」」」」

…化け物が取った、内部から崩壊させようという手法。
 それは、目論見通りいけたら楽に終わったのだろう。

 でも、あの化け物は想定していなかった。
 利用しようと企んだ魔獣が、他の人たちに思った以上に親われて、愛されていたことを。
 恐怖におぼ言える人々もいたはずなのに、心に怒りの炎をともしてしまったことを。


 化け物は、生み出した者たちは、誤った選択をしてしまったのである…


 
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