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Ver.4.0 ~星々の輝き、揺らめく境界~
ver.4.0-23 厄介事は、案外近くに忍び寄り
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‥‥‥妖精郷の大変貌に、しばし目をそらしたい。
やられまくったことに関して、ここまでやってしまったのはどうしようもないのだが‥‥‥
【…相当苦労しているようだが、大丈夫だろうか】
「いや、本当に大丈夫ならよかったんですけれどね…まぁ、しばし一人の時間も欲しくなって、今日は最低編成状態で来たんですよね」
平穏そうな場所を求め、僕がやって来たのはカイザーシルクワームの家である。
ここは森の中でもあり、静かに穏やかな時間が流れ、現実逃避にはうってつけの場所だろう。
職業を得るためのクエスト受注場所だが、本日は落ち着いているようでそんなにプレイヤーが訪れることもなく、ここにゆったりと精神的な安らぎを得るためにやって来たのだった。
「そもそも、頼れそうな人がいないというか、まともそうな相手と話せそうなのがここしかなかったんですけれどね」
【…人ではないのだが、そういわれても何とも言えんな。苦労している感じがにじみ出ているぞ】
お茶を貰い、家の縁側で二人そろってずずっと飲んで落ち着く。
カイザーという名前が付くだけに相当威厳が溢れるような感じもするが、シルクワームの皇帝という事もあってすごい威厳という訳でもなく、どちらかと言えば落ち着いた大人のような雰囲気を持っている。
ゆえに、こうやってゆったり過ごすには都合の良い話し相手になってくれるし、中々落ち着ける空間にもなっているのである。
まぁ、そもそも知り合いにまともに落ち着いた人が少ないというのが、問題だけどね。モンスターにも頼らないといけないとは、世の中中々世知辛いものがある。
【しかし、話を聞く限りだと妖精郷を変貌させたか…ふむ、前代の女王ではできなかったことを成し得るとは、当代の妖精女王となったそちらのテイムモンスターは優秀だな」
「あれ?カイザーシルクワームさんって、妖精郷とか妖精女王とか知っているんでしたっけ?」
【ああ、知っているとも。こんなことをプレイヤーに言うのもなんだが、余も他のNPCとは少々異なる、特別な類だからな。多少はテリトリーの範囲外だとしての、その手の知識は積み込まれているものなのだ】
「へぇ、だからか」
【しかし、そんなに知識とかがあっても、やらかす同僚というべきかNPCがいるのは、こちらにとっても頭の痛い問題でもあるがな…今は落ち着いているが、まだお試し状態で活発に動かれていた時、どれだけ胃を痛めたのやら…】
遠い目をしながらそう口にするカイザーシルクワーム。
誰のことを言っているのか予想しやすく、何となく苦労人同士としてシンパシーを感じ取ってしまう。
「そんなにですか」
【そうとも。そもそも、プレイヤー側からすればここはVRMMOの中の作られた仮想空間なのだろうが…我々側からすれば、ここは我々にとっての生きる世界であり、現実に等しいのだよ。そしてその現実の中で、盛大に知り合いがやらかしていると聞いたら、どう思う?】
「…ああ、うん、何となく悩みますよね」
【そうだろうな。たとえ自分に直接関係ないとしても、知り合いがやらかしているのを聞くと申しわけない気分になる‥‥そんなことも多々あるのだ】
「苦労してますね、カイザーシルクワームさん」
【そちらも苦労しているようだな、ハルとやらよ】
お互いに話題が少ないとはいえ、何となく似たような思いと重みを感じ取り、はぁぁっと溜息を吐く。
苦労人同士、何となく通じてしまうのかもしれない。
【…はははは、ここまでゆったりと過ごしつつも、苦労に思考が行くのは中々大変だな。他にも同じように、悩みを抱えた奴らがここに来ることもあるが、似たような奴が多いぞ】
「本当ですか?」
【本当のことだ。余はNPCでもあるのだが…どうも安心感とかを感じさせるようでな、よく相談ごとをするために頼られることがあるのだよ】
話によると、カイザーシルクワームの下には、他のプレイヤーたちも何か精神的に疲れた際にやってくることがあるらしい。
森の中のマイナスイオン的な雰囲気もあるのだろうが、このアルケディア・オンラインの中ではかなり落ち着いた存在という事で、自然と惹かれてきてしまうそうだ。
本日は僕ぐらいしかいないのだが…その他の時でも、クエストを終えてすでに糸使いに転職できるようになっていたとしても、ここにやってきて話をしてくる人たちはそれなりに多いらしい。
皇帝の名が付く者ゆえに、相手が誰だろうと直接話し合ってくれるらしいし、堂々とした雰囲気はこちらの悩みを小さくしてくれそうではある。
また、人じゃないからこそ人には相談できないような悩み事も話しやすいのか、それなりに情報もよく回って来るそうだ。
【そのため実は、ちょっとばかり相談所でも開設しようかと思っている。糸使いの職業修得クエストを行う身だが、落ちついて来たら役目が微妙だからな。そのあたりは運営の方に話しているのだ】
「NPCが自ら、運営に願い出るとは…このVRMMO、やっぱり変わっているなぁ」
普通のゲームのモブキャラとかが、勝手に動くようなことはない。
だがしかし、このアルケディア・オンラインのキャラクターは皆命があるように動き、アップデートの度にドンドン新鮮味を増し、その活力や生命力が見えるようになってきているのだ。
だからこそ、直接動くものもだんだん出てきたように感じ取れ、この世界を自ら創り上げていっているようにも見えてくるのである。
何にしてもしばし落ち着いたところで、現実を受け入れる。
いや、VRMMOの中で現実を受け入れるとかの話はツッコミどころがあるとは思うが…まぁ、そこは気にしない方が良いか。
「ありがとうございました、カイザーシルクワームさん」
【うむ、礼を言わなくても良いぞ。今度は相談所を作るが、余はいつでも民のため人のため、役に立つのであれば相談ごとに乗ろうぞ】
出来た人というかNPCというか…うん、こういう落ち着いた人がいるのは、非常にありがたいかもしれない。
【ああ、そのついでにだが、せっかくだから一つ頼みごとがあるが、良いだろうか】
「ん?何でしょうか」
【相談所を開設したいが、その際にこだわりの看板も作りたい。聞いた話によれば、新たに解放された宇宙の星々の中で、理想的な看板を作れる岩があるらしくてな。その岩がある星に寄る機会があれば、取って来てくれないだろうか】
―――――
>カイザーシルクワームとの、信頼度が高まりました
>特殊クエスト『相談所看板づくり』が発生しました!!
>受注しますか?
―――――
どうやらここに相談しに来て多少通じ合うところがあったおかげなのか、クエストが発生したらしい。
こんなものが発生するとは思えなかったが、ゆったりとした時間を過ごして現実逃避もできたので、断る意味もないだろう。
そう思い、僕はそのクエストを受注しつつ、すぐに達成しようと動くことにするのであった‥‥‥
「ところで、普通は木材を選びそうなのに、なぜ岩なのでしょうか?」
【どっしりとした雰囲気が欲しくてな…木材もありだが、重みを感じるならそちらの方が良いと思ったのだ】
やられまくったことに関して、ここまでやってしまったのはどうしようもないのだが‥‥‥
【…相当苦労しているようだが、大丈夫だろうか】
「いや、本当に大丈夫ならよかったんですけれどね…まぁ、しばし一人の時間も欲しくなって、今日は最低編成状態で来たんですよね」
平穏そうな場所を求め、僕がやって来たのはカイザーシルクワームの家である。
ここは森の中でもあり、静かに穏やかな時間が流れ、現実逃避にはうってつけの場所だろう。
職業を得るためのクエスト受注場所だが、本日は落ち着いているようでそんなにプレイヤーが訪れることもなく、ここにゆったりと精神的な安らぎを得るためにやって来たのだった。
「そもそも、頼れそうな人がいないというか、まともそうな相手と話せそうなのがここしかなかったんですけれどね」
【…人ではないのだが、そういわれても何とも言えんな。苦労している感じがにじみ出ているぞ】
お茶を貰い、家の縁側で二人そろってずずっと飲んで落ち着く。
カイザーという名前が付くだけに相当威厳が溢れるような感じもするが、シルクワームの皇帝という事もあってすごい威厳という訳でもなく、どちらかと言えば落ち着いた大人のような雰囲気を持っている。
ゆえに、こうやってゆったり過ごすには都合の良い話し相手になってくれるし、中々落ち着ける空間にもなっているのである。
まぁ、そもそも知り合いにまともに落ち着いた人が少ないというのが、問題だけどね。モンスターにも頼らないといけないとは、世の中中々世知辛いものがある。
【しかし、話を聞く限りだと妖精郷を変貌させたか…ふむ、前代の女王ではできなかったことを成し得るとは、当代の妖精女王となったそちらのテイムモンスターは優秀だな」
「あれ?カイザーシルクワームさんって、妖精郷とか妖精女王とか知っているんでしたっけ?」
【ああ、知っているとも。こんなことをプレイヤーに言うのもなんだが、余も他のNPCとは少々異なる、特別な類だからな。多少はテリトリーの範囲外だとしての、その手の知識は積み込まれているものなのだ】
「へぇ、だからか」
【しかし、そんなに知識とかがあっても、やらかす同僚というべきかNPCがいるのは、こちらにとっても頭の痛い問題でもあるがな…今は落ち着いているが、まだお試し状態で活発に動かれていた時、どれだけ胃を痛めたのやら…】
遠い目をしながらそう口にするカイザーシルクワーム。
誰のことを言っているのか予想しやすく、何となく苦労人同士としてシンパシーを感じ取ってしまう。
「そんなにですか」
【そうとも。そもそも、プレイヤー側からすればここはVRMMOの中の作られた仮想空間なのだろうが…我々側からすれば、ここは我々にとっての生きる世界であり、現実に等しいのだよ。そしてその現実の中で、盛大に知り合いがやらかしていると聞いたら、どう思う?】
「…ああ、うん、何となく悩みますよね」
【そうだろうな。たとえ自分に直接関係ないとしても、知り合いがやらかしているのを聞くと申しわけない気分になる‥‥そんなことも多々あるのだ】
「苦労してますね、カイザーシルクワームさん」
【そちらも苦労しているようだな、ハルとやらよ】
お互いに話題が少ないとはいえ、何となく似たような思いと重みを感じ取り、はぁぁっと溜息を吐く。
苦労人同士、何となく通じてしまうのかもしれない。
【…はははは、ここまでゆったりと過ごしつつも、苦労に思考が行くのは中々大変だな。他にも同じように、悩みを抱えた奴らがここに来ることもあるが、似たような奴が多いぞ】
「本当ですか?」
【本当のことだ。余はNPCでもあるのだが…どうも安心感とかを感じさせるようでな、よく相談ごとをするために頼られることがあるのだよ】
話によると、カイザーシルクワームの下には、他のプレイヤーたちも何か精神的に疲れた際にやってくることがあるらしい。
森の中のマイナスイオン的な雰囲気もあるのだろうが、このアルケディア・オンラインの中ではかなり落ち着いた存在という事で、自然と惹かれてきてしまうそうだ。
本日は僕ぐらいしかいないのだが…その他の時でも、クエストを終えてすでに糸使いに転職できるようになっていたとしても、ここにやってきて話をしてくる人たちはそれなりに多いらしい。
皇帝の名が付く者ゆえに、相手が誰だろうと直接話し合ってくれるらしいし、堂々とした雰囲気はこちらの悩みを小さくしてくれそうではある。
また、人じゃないからこそ人には相談できないような悩み事も話しやすいのか、それなりに情報もよく回って来るそうだ。
【そのため実は、ちょっとばかり相談所でも開設しようかと思っている。糸使いの職業修得クエストを行う身だが、落ちついて来たら役目が微妙だからな。そのあたりは運営の方に話しているのだ】
「NPCが自ら、運営に願い出るとは…このVRMMO、やっぱり変わっているなぁ」
普通のゲームのモブキャラとかが、勝手に動くようなことはない。
だがしかし、このアルケディア・オンラインのキャラクターは皆命があるように動き、アップデートの度にドンドン新鮮味を増し、その活力や生命力が見えるようになってきているのだ。
だからこそ、直接動くものもだんだん出てきたように感じ取れ、この世界を自ら創り上げていっているようにも見えてくるのである。
何にしてもしばし落ち着いたところで、現実を受け入れる。
いや、VRMMOの中で現実を受け入れるとかの話はツッコミどころがあるとは思うが…まぁ、そこは気にしない方が良いか。
「ありがとうございました、カイザーシルクワームさん」
【うむ、礼を言わなくても良いぞ。今度は相談所を作るが、余はいつでも民のため人のため、役に立つのであれば相談ごとに乗ろうぞ】
出来た人というかNPCというか…うん、こういう落ち着いた人がいるのは、非常にありがたいかもしれない。
【ああ、そのついでにだが、せっかくだから一つ頼みごとがあるが、良いだろうか】
「ん?何でしょうか」
【相談所を開設したいが、その際にこだわりの看板も作りたい。聞いた話によれば、新たに解放された宇宙の星々の中で、理想的な看板を作れる岩があるらしくてな。その岩がある星に寄る機会があれば、取って来てくれないだろうか】
―――――
>カイザーシルクワームとの、信頼度が高まりました
>特殊クエスト『相談所看板づくり』が発生しました!!
>受注しますか?
―――――
どうやらここに相談しに来て多少通じ合うところがあったおかげなのか、クエストが発生したらしい。
こんなものが発生するとは思えなかったが、ゆったりとした時間を過ごして現実逃避もできたので、断る意味もないだろう。
そう思い、僕はそのクエストを受注しつつ、すぐに達成しようと動くことにするのであった‥‥‥
「ところで、普通は木材を選びそうなのに、なぜ岩なのでしょうか?」
【どっしりとした雰囲気が欲しくてな…木材もありだが、重みを感じるならそちらの方が良いと思ったのだ】
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