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Ver.4.0 ~星々の輝き、揺らめく境界~

ver.4.2-125 遠足は帰るまでが遠足です

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…結局、火口に降りる方法はどうしたものかと考えた結果、シアに抱えてもらってゆっくりと降り立つことになった。
 このメイドボディは中三病さんがもともと大改造しまくったのもあって、ジェットエンジンぐらいならばついているもの。長時間の飛翔は向いていないようだが、それでもプレイヤー一人ぐらいならば安全に着陸させるぐらいまでならば大丈夫とのこと。

 なお、最大出力で瞬間的に恐竜女帝へ接近してからゼロ距離での攻撃も予定していたために、加速した瞬間に飛び出る刃なんかも仕込まれているらしい。


 そんなことはさておき、無事に火口へ再び舞い戻ってぽっけねこさんたちと合流した。
 黒き女神の事情を知っている彼らには察してもらいつつ、欲望戦隊には攻撃終了後に女神はさっさと旅立っていったと告げれば、ガチ嘆きをされた。

…戦闘終了後に旨く話を交えることができれば、フレンド登録とかを企んでいたのだろうが…世の中、そう都合よく行かないし、身バレする気もない。
 まぁ、アティやマッチョンは既に大体わかっているようだけど、判明したらどうなるのかということも十分理解しているようでそこからバレることもないだろう。

 
 今はとりあえず、戦いが終わった後の楽しみの一つをやるべきだ。

「さてさて、エンプレスやその他シャドウフェニックスを討伐したことで…」
「わんさか呼び寄せられて湧き出て倒しまくった分、ドロップ品もかなりあるぞ!!」
「それぞれで確認するぞー!!」

 大量に倒した分、出てきたドロップ品もどうやらそれ相応にあるらしい。
 本来であればここのボスは普通のシャドウフェニックスなので、倒したらそれ一体分のドロップ品しか獲得することしかできない。

 だが、エンプレスが大量に呼び寄せてくれたおかげで、普通よりも多く獲得できているようだし、数が多かった分同時にレアドロップ品を得られる確率も高かったようだ、

「シャドウフェニックスのドロップ品関連だと、羽毛、嘴、爪、肉なんかが多いけど…おお、レアドロップ品の『シャドウフェニックスの焼き鳥』のバフがすごいぞ!』

―――――
『シャドウフェニックスの焼き鳥』
自ら燃え盛っている鳥の焼き鳥とは何だと思われるが、焼けているのだから仕方がない一品。
ちょっと辛めの味わいでありつつ、食すれば3分間だけ自身の炎攻撃及び炎耐性を80%上昇させることができる。
―――――

「時間制限が厳しいけど、それでも上昇幅が高いな」
「流石にレアだから本数が少ないが、これだけあれば攻略しにくい場所がはかどりそうだ」
「こっちのドロップ品もすごいぞ!!」

 攻略組にとっては嬉しい品が出てくる中、タローンも何かドロップしていたのを見つけたらしい。

「見ろよこれ!!女性限定装備『黒焔ドレス』!!チャイナドレス風に仕上げられつつ、焼き鳥には及ばないけど炎に対する耐性を常時35%アップさせるって品だ!!」
「おや、意外にまともそうな装備…あれ?でもそっちで装備できる人いるの?」
「アティさんなら着れるんじゃないの?」
「そうか、これでより華やかに…あ」

 意気揚々としつつ、変な品ではないのでまぁこれならまだましかとアティがギリギリ承諾しそうな顔をしていたのだが、何かを見つけて瞬時にタローンの様子がおかしくなった。

「どうしたの?」
「…これ、ドロップした人にしか装備できないって制限も…」
「あー…うん、自分の方にはないのぅ」
「つまり、装備できない品でごみとしか言えないようなものってことか」

 せっかく見た目の性能もまぁまぁ良い感じだったはずだが、どうも売買や交換が制限されている装備品扱いだったらしい。
 結構いい性能をしているし、レアドロップ品扱いなので良さげな品だったはずだが、装備ができないとなれば残念だけど廃棄するしかないだろう。

 これでもしも、女体化スキルをタローンが持っていればまだ使い道はあっただろうが…いや、遭ったらあったでろくでもない使い道にしかやらないからなくて良かったか。

「エンプレス系のドロップ品だと、同じようなものでありつつつも性能は普通のシャドウフェニックスよりも強そうなのが多いか…」
「タローンさんのドロップ品とは違う装備系があったぞ。『鳥重の鎧』で男女関係なしのものだな。体当たり、押しつぶしなどの体重が生きる攻撃のバフが付くようだ」
「あのエンプレス、光線もヤバかったけど体当たりも十分脅威だったな」

 全員同じボスを倒したとはいえ、どうもドロップ品はバラバラのようだ。
 まぁ、皆が同じものを手に入れられるわけではないのも面白いが…お、僕の方にも何やら会話内に出なかったドロップ品が。

―――――
『ブラックフレイムの水着(炎ビキニタイプ)』
エンプレス限定レアドロップ品、女性専用装備。
―――――

(…見なかったことにしよう)

 うん、絶対に着ることはない。そもそも僕、男。
 黒き女神としての状態であれば着ることは可能そうだが、こんなもの身に付ける機会は絶対にない。
 しかしこれ、性能が無駄に優秀なんだが…さっきのドレスは35%アップだったが、こちらは80%…肌面積が少なすぎるのに、防御力もアップしているってどういう仕組みだこれ。炎ビキニってななんだそのわけのわからないもの。真っ赤に燃えているような色合いのものってことなのだろうか。

 というか、もしも黒き女帝の状態で着用しているときに、スキルを解除して男に戻ったらどうなるのか…いやいや、そんな好奇心、どぶに捨てようか。

「よし、よりとりあえず無駄なフラグも立てないうちに廃棄し…」
ーーーグラグラァッ!!
「「「ん!?」」」

 バレないうちに処分しようとしている中、ふと何か大きな揺れが生じた。
 何事かと思い全員があたりを見渡すのだが、どうも火山そのものが揺れているような…

「揺れているようなって言っている場合じゃない!!これ、本当に揺れているぞ!!」
「えっと、こういう火山のある場所での不自然な揺れのお約束があるような」
「まさか!!」

 嫌な予感がして全員慌てて火口のそばで下を見れば、ぐぐぐっと溶岩が上に向かって上昇している様子が見えてきた。
 明らかにこれ、こういう火山地帯お約束の…

「噴火が起きるぞぉおおおおおおおおお!!」
「やべぇ!!全員急いで逃げろぉおおおおおおお!!」

 ボスを倒して安心し、ドロップ品を色々確認していたゆったりとした空気が流れていたところから一転し、突然の大脱出ゲームが始まってしまった。

「ここで噴火にやられてデスペナルティを喰らってもそこまで損害はないとは思いたいけども!!」
「現実だろとゲームだろうと何だろうと!!」
「こんな噴火に巻き込まれるのは流石にいやすぎる――――!!」

 うぉぉぉっと全員勢いよく火口から逃亡し、火山のふもとまでの道のりを間違えることなく走る抜けていく。
 道中で火山内部に住まうモンスターとエンカウントしまくったが、このメンツで数と力の暴力を無理やり押し切り、どうにか脱出できそうな…その時だった。


ガラガラズッシャァァァン!!
「ぎゃあああああ!!出口が落盤してふさがれたぁぁぁ!!」
「やべぇぇぜぇぇ!!後方から溶岩たちがやってきているぜぇぇ!!」
「おうぅうう!!ここまで来ておしまいだべかぁぁ!!」

 現実で死ぬことはないが、それでもゲーム内とは言えこんなにあっけなくやられるのは心残りがあり過ぎる。
 どうにかしたいが、炎に耐性を持っても長時間が厳しそうだし、あんな溶岩の中を遊泳するようなことはしたくない。

「どうすれば…あ、そうだ!!」

 火山内部の洞窟内をすさまじい勢いで進み、迫りくる溶岩を見ながら何か手がないかと考えると、ここで思い出したことがあった。

 そう、フェニックスたちへ挑む前にボルナックさんが渡してくれたアイテム。
 緊急時にしか使えないようだし、正体不明だったが、明らかに大ピンチなこの状況ならば、もしかすると助かる希望の光になるかもしれない。

「えっと、これでもないあれでもないここじゃないそれでもない」
「今某猫ロボ風なボケは良いから!!」
「わかっているって!!ドロップ品が多くて奥の方に…あった!!しかも、ちょうどいま、名称が変わっている!!」

―――――
>所持アイテム『???』が、緊急時と認識。
>封印が解け、『お助け呼び寄せ玉』へ変化いたしました!!
『お助け呼び寄せ玉』
超緊急事態に、一度だけ使用可能になる使いきりのレアアイテム。
その場の状況に合わせた助っ人を呼び寄せ、協力してもらえるようになる。
ただし、何が呼び出されるかは状況によって変わり、場合によっては意味がなさない運試し的な一面も持つギャンブルアイテムでもある。
―――――

「そうだ、ぽっけねこさんたちは持ってないかな?」
「え?それこちらは持ってないけど…もしかして、ランダムで譲渡が決まる関係なのか?」
「いや、今はそんなことよりもそのアイテムを早く使ってほしいべぇ!!」

 最初からエンプレス狙いだったぽっけねこさんたちも同じアイテムを持っているのではないかと思ったが、どうも所持していないらしい。
 何か条件があるのか気になったが、今はそんなことを言っている場合ではなく、さっさと使うに越したことはない。

「何が出るかはわからないけど、とりあえず外れ以外でこの状況をどうにかしてくれる人を頼みます!!」

―――――
>『お助け呼び寄せ玉』を使用します!!
>呼び寄せ対象、降臨!!
―――――

 貴重な品でもあるようだが、そんなことも気にせずに即座に使用を選択。
 すると同時に、球が強く輝き…次の瞬間。


ぼぅんっ!!
『いよっしゃぁああああ!!久しぶりに下界へ参上だぜぇぇぇ!!』

 球が爆発したかと思えば、煙の中から人影が現れ、そう叫んだ。

―――――
>呼び寄せ、大成功!!
>噴火からのお助けとして、『火の神アグトス』が召喚されました!!
―――――
「「「火の神!?」」」

 ログで確認ができ、呼び出したものの正体を見て全員が驚愕の声を上げる。
 無理もないだろう。何しろ、ここのシャドウフェニックスがそもそも火の神の加護を得て復活したという話があり、その本人というか本神が出てきたのだから。

 でも、呼び出される原因としては一つ心当たりがある。
 あのシャドウフェニックスたちの信仰対象であったし、火の神の神域にもなっていたということは、呼び出すだけの縁があってもおかしくはない。

 そうこうしているうちにすぐに煙が晴れて、火の神の姿が確認できた。

 めらめらと燃えているような炎の衣をまとっており、健康的に焼けているような色合いの褐色の肌色を持ち、火の神というだけあって、目や髪の色も真っ赤に燃え盛る火の色と同じ神。

 しいていうのであれば、もっと大きなものを予想していたが…まさかの手のひらサイズの小人のような姿をしていた。

「思った以上にちっさ!!」
『大きさなんて関係ないぜー!!それよりも、状況はもう呼び出された時点でわかっているが、噴火から逃げたいんだろう?』
「そうだよ!!」
『ならば、ここでお助けしてやるぜ!!神域最大制御、噴火よ止まれえぇぇぇぇぇぇ!!』

 こぶしを掲げて勢いよく火の神が叫ぶと、手からはどうのような何かが発生する。
 それを周囲が吸収するように動き、迫ってきていた溶岩もまた同様に飲み込んで…僕らに到達する前に、動きも止まったのであった…


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