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誕生・ダンジョン生活編

SIDE とある奴隷の目撃談

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「わぁぁぁぁあぁぁ!?」


 ダンジョン内部で、一人の悲鳴がその始まりを告げていた。

「まずいだろこれ!!」
「畜生!!なんでここにコボルトナイト共の群れがあったんだよ!!」

 それぞれが叫び声や雄たけびを上げて、周囲に取り囲んできたコボルトナイトと言うモンスターの群れの対処に追われていた。


 彼らは冒険者……ではなく、商人と買われた奴隷たちであった。


 ダンジョンには貴重な鉱石などの資源が産出することがあり、本来であれば商人たちは冒険者たちに依頼してそれらの資源を獲得し、市場に出して売り上げを得るのだ。

 だが、今いるその商人……デッブロウはその依頼を冒険者たちに出すことができず、こうして奴隷を購入してダンジョンに潜りに来て、直接取ることにしていたのである。


 理由は単純明快。

 この商人デッブロウは傲慢で粗野で、冒険者たちをないがしろにするような奴であり、その為信頼なんかも皆無に等しくて、今欲しい資源の獲得依頼を誰一人うけてくれなかった。

 その為に奴隷を購入して、自分たちでその目的の物を獲得しに来たのである。





 なぜ奴隷だけを行かせずにこのデッブロウ馬鹿自ら出向いてきたのかというと、その理由もまたこの商人らしい物で、奴隷の購入の際にケチり過ぎて教養が出来ていなくて安い者達を、簡単に言えば学習の機会を与えられていなかった者たちばかりを購入したものだから、皆、何を得ればいいのかよくわからなかったのである。

 見本を見せればいいだろうが、変な自尊心というか、この際奴隷たちには自分がどれだけ知識があるのかと見せつけるために、このデッブロウ馬鹿はわざわざダンジョンへ奴隷たちと一緒に潜って、今の危機に襲われていたのであった。




 そもそも今彼らがいるダンジョン『ブレイク・コモンセンス』自体はものすごく難易度が高いダンジョンとして知られていた。

 その為、本当であれば彼らの実力だともっと前の階層で危機に陥っていたはずだが……変なところで運が良いのか、それともそのせいで運を使い切ったのか。


 なんと今いる10階層までまったくモンスターに遭遇せずに、安全な道のりでいたのだ。

 なお、その記録はダンジョンでモンスターに遭遇しなかった階層記録としては更新出来る者であり、無事に帰還して報告出来れば名を残せるようなことであった。



……ただし、今彼らの周囲を取り囲んでいるコボルトナイトたちの群れから逃げ延びることができればの話であったが。


――――――――――――――――――――――――――――――――
「コボルトナイト」
犬が立って、手足が発達して物をつかんだり武器を振るったりしているような見た目のモンスター。個としてはそこそこの強さしかないが、集団で群れとして集まって連携をしてくると非常に脅威のモンスターたちになる。
知能もあり、獲物が油断した時を狙って集中攻撃で短期決戦を狙ってくるので要注意。
ドロップは「コボルトナイフ」「コボルトナイトの牙」等。
たまに未熟な「コボルト」や、魔法を扱う亜種の「コボルトマジシャン」というものが混じっていたりもする。
――――――――――――――――――――――――――――――――


「げばぁぁぁ!!」
「うわぁぁ!腹に突き刺さった!!」
「ひぃ!!腕をもぎやがった!!」


 奴隷たちはそこそこ戦闘が可能な者たちが買われてはいたが、誰しもこの状況にパニックに陥り、逃げ出そうとしてあっという間に袋叩きにされたりなど、もはや絶体絶命の状況であった。




「……ここで終わっちゃうのかニャ」

 そんな中、その奴隷たちに混じって応戦している奴隷の一人であるルーシアはそうつぶやいた。

 彼女は猫の獣人の少女であり、身軽さを活かしてナイフで戦っていた。

 奴隷にも様々な者が居て、犯罪犯して犯罪奴隷、契約期間奴隷として働く契約奴隷などがいるのだが、ルーシアはその中でも借金の方に奴隷にされた借金奴隷であった。


 もともとルーシアは冒険者として一生懸命働いていた。

 まだ年若く、けれどもどこか見捨てては置けないような弱弱しい雰囲気に周囲の冒険者たちは庇護欲に駆られて、出来る限りの手助けをしてあげるような優しい人たちばかりだったのである。


 だが、その中にはよこしまな心を持っているような輩がいて、ある日突如として襲われ、貞操とかは無事だったものの、右目を怪我させられて、隻眼となったのである。

 その治療をしようと彼女は回復薬などを買おうとしたのだが……騙されてまったく効果のないものを買わされ、しかも借金を背負わされて借金奴隷となったのだ。


 その時に、この商人デッブロウに買われたのだが……幸いなことに、彼はどうやらこだわりがあったようで、ルーシアが隻眼だったせいか襲う事だけはなかった。

 しいて言えば、もう少しだけ幼かったら襲っていたのかもしれないという発言をしていたようだが……




 そして、現在そのデッブロウは奴隷たちを置いて囮にして、逃走を図ったが、先回りしてきたコボルトナイトたちにその傲慢さが気に食わなかったのかすぐさまぼっこぼこにされていった。


 周囲の奴隷たちも応戦してはいたがやられていき、唯一身軽で何とか避けていたりしたルーシアも、壁際に追い詰められた。


 購入した主人がいなくなった場合、奴隷は解放されるらしい。

 その為、ルーシアは奴隷ではなくなったものの、もう命を終えようとしていた。

「ワォォォォォォォォォン!!」
「ワォォン!!」
「グルルルルルル!!」

 最後の一人になったことを確認するかのようにコボルトナイトたちは泣き声をあげ、ルーシアの元へ近づいていく。

 もしかしたら殺されないかもしれないが……その時は、モンスターの繁殖のための相手としてされるかもしれない。

 その恐怖もあり、ルーシアが自分の命を終えようと舌をかみ切る覚悟をした時であった。


ボォォォォォォォッツ!!

「グァァァァ!?」
「ワフォォォン!?」

 突如として、いきなりコボルトの群れに火が放たれて何体かが火だるまになった。

「……ミャ?」

 その突然の状況に、ルーシアは目を丸くして驚く。


 誰かが魔法を飛ばして助けてくれたのかと思い、その方向を見て見れば……


「『ファイヤボール』×20連発!!」

 ……魔法をバンバン唱えてコボルトの群れに襲撃する、宝箱ミミックの姿がそこにあった。

「な、な、なんだアレェェェェェェェェ!?」

 そのミミックに、ルーシアは驚愕し叫ぶのであった。
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