帰らずの森のある騒動記   (旧 少女が魔女になったのは)

志位斗 茂家波

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とある悪魔の記録 その1

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――――――雷鳴が鳴り響き、不気味な物音が鳴り響く。

 辺りは薄暗く、宙をいくつもの光の玉のような者が漂っていた。


 ここはあの世でもなく、魔界と呼ばれる世界である。

 天使たちが住まう天界とは違い、ここは悪魔たちや魔人と呼ばれる者たちが住む世界であり、混沌としているのだ。




 そして他にも、人間が住む下界と言う所や、存在すら不明な者たちが住まうとされる謎界など、他種多少な世界が存在していた。







 その中で、とある悪魔は召喚されていた下界から、魔界へ一時的な帰省をしていた。





「ふむ……こっちの本と、この魔導書グリモワール、それにこちらの呪術書などがおもしろいか?」
「お、兄さんなかなか目が鋭いねぇ。そちらのその本、今この魔界でベストセラー作家の書いたものだ」
「なるほど、それならこれとこれも付けて買わせてもらおう」
「毎度あり―!」


 魔界と言えども、生活・娯楽用品を販売している地域があり、そこの賑わいは下界とあまり変わらない。


 違いと言えば、店主が悪魔か、もしくはどこかの悪魔が契約した代償として永久労働をさせるために連れてきた人間の魂程度であろう。

 そして今、その悪魔は店主と交渉し、新刊をいくつか手に入れて満足していた。




「さてと、あとは妹が喜びそうな本は無いだろうか?」

 契約し、魔女ではあるが義理の妹となった少女を想いながら、悪魔はそうつぶやいた。




 その悪魔の名前はゼリアス。

 この魔界において、名を知らぬ者がいない大悪魔であるのだが‥‥‥‥今はただ、一人の兄として妹を想うだけであった。







 ほんの数年前まで、彼の人生、いや悪魔生は味気がなく、灰色の状態であった。

 だがしかし、とある少女と契約を結び、妹にして一緒に生活している間に、楽しいと思えるようになったのである。

 昔、彼が味わっていた幸せの時が再び来たかのように。

 

 とにもかくにも、今は下界の方で待つ妹のためにも、面白そうな本を求めて、魔界の書店巡りをするのであった。

 なお、かなりの大金を支払うので、各店では特上客として扱われていたりもする。









 そんな中、楽しそうな雰囲気を纏うゼリアスを見て、一人の別の悪魔が驚いていた。



「あ、あのゼリアスが‥‥‥あんなにうきうきとして書店巡りをしているだと‥‥!?」
「そんなに驚愕することかなぁ?俺っちたち悪魔も楽しむことはあるじゃん」
「いやいやいや!!あのゼリアスに限ってそんなことはないと思っていたのだが‥‥‥なにがあったんだよ!」

 その驚愕して叫ぶ悪魔の隣で、呆れたように肩をすくめるのは悪魔とは違う魔人であった。



 悪魔の方は見た目が大きなカラスである、この魔界でも魔王の側近と知られている『カラヴァ』。

 魔人の方は、こちらは全体的に体が煙で出来ている『モフローン』である。


「噂だと、なんでも最近下界で誰かと契約したようで、その時から雰囲気が変わったそうだぞ?」
「契約で雰囲気が変化した?‥‥‥まさか、その契約主に服従させられ、調教され、良いように改造されてしまい、そして奴を元に魔界を征服しようと企むやつがいるのでは!?」
「なんでそんな悪い方向へ考えるのさぁ?しかもそれ、カラヴァが企んで、奴自身にバレて、黒歴史を詰め込んだ日記を魔界隅々にまで公開されて朗読させられたことがあるんだし、あの悪魔ゼリアスにかなうやつが早々いるわけがないって、身をもって理解させられたでしょ?」
「ああああぁぁぁぁぁぁ!!思い出させるなぁぁぁぁぁぁ!!」


……悪魔とは言えども、誰にも知られたくはない黒歴史は存在する。

 カラヴァは以前、魔王の側近でありながらも、魔王に匹敵すると言われているゼリアスを利用し、傀儡の王に仕立て上げ、そこから自分が成り上がって全世界を掌握しようと企んだことがあったのだが…‥‥その企みは、見事にばれてしまい、しかも盛大にお返しとして彼の持つ黒歴史を魔界中に暴露させられたのだ。


 魔王の座を脅かす行為を意図的に行ったとして、本来であれば重罪ものであったのだが、そのあまりにもな黒歴史の暴露のひどさに同情が集まり、元の地位についたまま許されたのである。

 ただし、その日以降全魔界の住人どころか、たまたま訪れていたらしい天使からも広がったのか、天界にまで、「黒歴史曝露悪魔」として名が広まった。




 恥ずかしいが、それでも地位に居座っているのはリベンジの機会をうかがっているのである。

……生暖かい目で、絶対無理だろうと周囲の者たちから見られてはいるが、いつか必ず成功させてやるぞと彼は誓っていた。





 そんな矢先で、悪魔ゼリアスの変化の噂である。

 その噂を聞き、見に来たのは良いのだが、確かにその雰囲気が以前よりも柔らかく、楽しそうになっていることにカラヴァは疑問を抱いた。



「なぜやつがそこまで変わったのか…‥‥もしかすると、それがゼリアスを操れる秘密になるかもしれん!」
「はぁ、ダメだこの悪魔。余計な手出ししたらひどい目に遭う可能性があるのに、なぜ学ばないのだろうか?」

 カラヴァのつぶやきを聞きながら、モフローンは溜息を吐いた。

 ちなみに、なぜ煙の魔人の彼がカラヴァと共に居るかと言えば、呆れてはいるが、それでも何かしら馬鹿をやらかして面白そうなことになりそうだと期待しているからである。


「よし、ならばやつが下界に戻る時にでもついていってやるしかあるまい!この目で確かめねば!」
「ん?でも魔人である俺っちならともかく、カラヴァって自由に世界を渡れたっけ?ゼリアスは力が魔王様に匹敵、もしくは凌駕しているからこそ何もなくても行き来できるけどね」

 悪魔が下界へ訪れるには、己の力で向かうか、もしくは召喚されるかの2通りがある。



 だが、実は前者は並の悪魔では難しい。世界を超える負担が大きく、下手すれば潰されるのだ。

 実力がある程度ないと他者の助けなしでは世界を越えられないのである。

 後者の召喚の場合、こちらはただ単にできた道を通ればいいので潰される心配もなく、安心なのである。




 そしてこのカラヴァは魔王の側近としての能力はあるのだが、それはあくまで書類仕事の面でのみである。

 悪魔としては、実は並ぐらいしかなく、それでも側近になれるだけ世渡り上手なのだが‥‥‥それでも、他者の助けなしでは世界を渡ることはできなかった。


「ぐふふふ、そんなことは想定済みだ!だからこそ、既に対策は取ってある!」


 だが、モフローンの心配とは裏腹に、自信満々にカラヴァはそう告げた。

「と言うと?」
「簡単な事だ、このわたしを召喚させればいい」
「…‥‥召喚する人いるかなぁ?」


 その案に対して、モフローンは何度目かもわからない呆れた声を出した。


「少なくとも、こんな性悪で、懲りず、力もいま一つ、書類仕事ができても需要は少ない、黒歴史満載、プライドが無駄に高い馬鹿を召喚するようなもの好きはいないでしょ」
「‥‥‥‥げふっ!?」

 その容赦ない罵倒に、カラヴァはストレスのために吐血した。

「だ、大丈夫、問題はない!今どうやら、下界のとある国では物凄く困っていることがあるようでな、悪魔召喚の儀式をして助けにすがろうとする愚か者がいるそうだ!そこに潜り込めば大丈夫だ!」
「でもなぁ、下界と言ってもいろいろあるじゃん。ゼリアスと同じ世界の下界に行けるの?この間地球の日本とか言うのがある世界に召喚されて、宇宙人とか言うのに間違われて解剖されかけたやつがいるじゃん」


 ひとえに下界と言っても、実は多くある。

 そのせいで、希望する世界に行けるのかは神のみぞ知るの身なのだ。


「そのあたりも抜かりはない!しっかり世界があっていることを確認した!そして見よ、今まさにわたしは召喚されるのだあぁぁぁ!!」


 その叫びを聞き、モフローンが上を見上げると、カラヴァの頭の上に魔法陣があることを確認した。

 どうやら今まさに、彼は召喚されようとしているらしい。

「さぁ、悪魔ゼリアスの秘密を見るために、いっちょ下界へ向かうぜぇぇぇ!!」


 そう言いながら、テンション高めで召喚されていったカラヴァを見た後、モフローンは懐の隠しカメラを確認した。


「良し、ばっちり撮れているし、なにかあれば俺っちは関係ないですと言い通そう」

 そうつぶやき、腹黒い笑みを彼は浮かべるのであった。





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