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面倒事は、何故やってくる

#38 それぞれの動きなのデス

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SIDEシアン

「ふわぁ‥‥‥今日は中々釣れないな」

……都市アルバスでの、屑男との騒動。

 昨日の事であり、普段怒り慣れていない僕は今朝になっても気分的に疲れていたので、今日の魔法屋はちょっと休むことにした。

 一応、あの屑が報復をしてこないとは限らないので、報復の思いを抱かせないように、徹底的な対処及び防止策をやるように、自重無しで好きなだけ自由にやらかしていいという命令をワゼに出した。

 彼女の主になってから、ワゼのある程度のやらかしぶりは知っているので、今回の自重無しはどの程度になるのかも予想は付くが‥‥‥まぁ、生きている方が地獄になるのは間違いないだろう。

 その処置のために、今朝からワゼはフェンリル(夫)……もとい、ポチに乗って都市へ向かったので、今日は僕とハクロの二人きりである。


 まぁ、勢いで堂々と家族宣言をした気恥ずかしさもあって、僕は川に釣りに来ているのだが…‥‥なぜか今日は中々釣れない。

 不漁のようで、退屈になる。

「ああ、中々釣れないなぁ‥‥‥」
【そういう日もありますよ、シアン】

 っと、つぶやいたとたんに、後方から声が聞こえたので振り向いてみれば、ハクロがそこに立っていた。

【と言うよりも、シアン、気が付かないのですか?】
「え?何が?」
【ちょっとぼうっと考え事をしていたようですけれども、とっくの前に餌が取られてますよ】
「‥‥‥あ!?」

 いつのまにか、魚は餌を奪って逃げていたようである。

 そりゃ、待ってもつれる気配が無い…‥‥やっぱりまだ昨日の事を引きずっているかな……


「あー‥‥‥なんかもう悔しいな」
【あはは……私もシアンの様子を見て、竿の先を見て気が付きましたからね】

 ハクロもここに来たばかりのようで、今気が付いたらしい。

 何にしても、もう一回釣り直しだろう。

「そう言えば、ハクロは何でここに?」
【いえ、私もちょっとシアンと同じ気分でしたので、一緒に釣りをしてみようかと思って、自分用の釣竿を作ってきたのですよ】


 そう言いながら、彼女が出したのは、かなり大型の釣り竿。

 僕が持っているのはワゼが改良したものであるが、彼女は自身の糸をより合わせたりして、作り上げたようである。

 染めていないので真っ白な釣り竿だが‥‥‥ちょっと大きくないかな?

【これで大物を釣り上げますよ!】

 ぐっとこぶしを握り、意気込むハクロ。

 だけどねハクロ、この川ってそんな大物いるかなぁ?マグロ一本釣りができそうな釣竿はちょっと大げさすぎる様な‥‥‥。

 とは言え、彼女のやる気に水を差したくなかったので、僕は黙るのであった。






ザッバァン!!
【なんかでかい魚が釣れましたよ!!】
「うそぉ!?」

 数分後、まさかの大物が釣れました。

 陸に上がり、ビチビチと動くのはナマズのような魚。

 ひげはないが、丸々と太った体形はちょっとこの川の主っぽい威厳差があった。

……正直言って、ポチよりも威厳がある。



「うわぁ……まさか本当に釣るとは」
【どうですかシアン!】

 ふんっと胸を張り、自慢げな様子でハクロはニコッと笑う。

 そして、その魚を一応後で食べるために取っておこうと、持ったその瞬間であった。


ヌルン、ずぼっ

「あ」
【ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?ぬめぬめがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?】

 手が滑り、思いっきり跳ねたそのナマズモドキのような魚は、あろうことか彼女の服の中に入り込んだ。


【とってとってとってくださぁぁぁい!!いやぁぁぁあ!!ぬめぬめ、びちびちがぁぁぁぁぁ!!】
「ちょっとハクロ、暴れるないで!?」

 突然の魚の感触にハクロはパニックになったのか、慌てて衣服を脱ごうとし、さすがに色々と不味いので僕が止めようとしたところで……


どんっ! つるっ

「【あ】」
どっぱぁぁぁぁぁぁぁぁん!!

…‥‥ハクロに押され、足が互いに滑り、盛大に川の中に飛び込んでしまったのであった。





【ううううっ……逃げられてしまいました……せっかくの大物でしたのに】
「いや、そう嘆くなよハクロ……って」

 ざばぁ、っと川から上がり、ハクロが足を曲げ、膝をついているように嘆き、励まそうと僕はしたのだが、あることに気が付いてしまった。

【ん?あれ、シアン、どうして私から目をそらして‥‥‥あ】

 僕の様子から、ハクロが疑問に思ったようであったが、すぐに気が付いたようである。

 川の中に盛大に堕ちて、水に濡れていたせいで、互いの衣服はびしょぬれになっていた。

 そして、彼女の衣服も盛大に濡れてしまい、少々ぴっちりとくっついて、下着も透けてしまっていたのだ。

 いや、魚が暴れたせいでそれも取れてしまったようで‥‥‥‥

「…‥‥」
【…‥‥】

 互いに物凄く気恥ずかしくなり、しばし無言となった。

「えっと…その、焚火でもして乾かそうか」
【え、ええ……そうしましょう】

 ちょっと気まずいが、とりあえず枯れ枝を集め、火の魔法で着火する。

 代わりの衣服をハクロは糸を素早く編んで、作ってくれたが‥‥‥うん、やっぱりちょっとね。

 何にしても、昨日の嫌な気分を吹き飛ばすには十分な衝撃があった…‥‥アラクネとは言え、一応人間の女性に近いからね…‥‥でも、大きかった。

……どうしようこの空気。本気で気まずい。

 何にせよ、衣服が乾くまで互いにちょっと顔を赤くしつつ、気恥ずかしい雰囲気は漂うままであった。



――――――――――――――――――――――
SIDEワゼ


「‥‥‥という訳で、本日、我がご主人様は少々気分を悪くしており、治めるためにしばし休むのデス。‥‥‥あの屑のせいでご主人様の気分を害されてしまったのは、未然に防げなかったメイドとしての誇りに傷がつきまシタ。そこで、皆さまに手伝ってもらいたいのですが…‥‥」

 丁度その頃、都市アルバスに秘密裏に作られていた地下室にて、集められていた者たちにワゼはそう語りかけていた。

「まぁ、精々一つの貴族家……いえ、その害をなした本人をできるだけ絞って破滅させたいのデス。その為の協力をお願いできるでしょうカ?」
「…‥‥なるほど、事情は分かった」
「ああ、あの馬鹿オゥレ侯爵家のやつか・・・・・前々から色々と目障りだったな」
「でも、そいつはどの馬鹿だ?」
「話を聞く限り、おそらくは穀潰し男の奴か……そいつは確か、あまりにも役立たずだったという話があるのだが」

 その場に集まっているのは、ワゼが要請してきてもらった、裏ギルドの中でも名の知れた面々。

 そして、彼らは目の前にいるメイドゴーレム・・・・ワゼがどの様な相手なのか、すぐに理解しつつ、この話の中で、その屑は確かに嫌だなぁと同意した。

「良いだろう。裏には裏の決まりもあるのに、前からそれを破ろうとする屑野郎には辟易していたところだ」
「と言うか、珍しく面白そうな依頼だ。潰した後は、色々とできそうだしね」
「こちらとしても、手を組んで堂々と潰せる口実ができるのは都合がいい。他の貴族家からも疎まれているようだしな」
「では、交渉成立という事でそちらはそちらでお願いいたしマス」

 そう言い、その場に居た面々は解散し、すぐに行動へ移す。

 一人残されたワゼはその部屋から出て、次の行動へ移した。





「‥‥‥という訳でございまして、本日のご主人様の魔法屋としての営業は休業デス。とは言え、面白い依頼がありそうな気もするので、今のうちに取っておけるものがあればいいというわけで、受け取りに来たのデス」
「何ですかそのふざけた貴族の人は!!ああ、ワゼさんのご主人様も激怒するわけがわかりますね!!」

 魔法ギルドにて、ワゼは受付嬢に話しかけ、昨日あったことをぽろっとこぼすと、受付嬢は同情するようにそう叫んだ。

 その様子に、ギルド内にいた人々も気になり、その事情に耳を傾けた。

「まあ、そういう訳で、本日はご主人様が来られないために、ハクロさんもともに行動という事で来ないのデス」
「なるほど…‥何をふざけた頭を持っているのかしらね、そのオゥレ侯爵とやらは?うちのギルドの期待の新人に対して、不利益を被ろうとは許せません!!こちらとしても、ギルド長に連絡し、それなりの対応を約束しておきます!!」
「ありがとうございマス」

 そうお礼を言って、ギルドからワゼが去った後、その場に居た魔法屋やその他の受付嬢たちは何事なのか話を聞きに来る。

 そして、その内容を聞くと激怒するものや侯爵家に憤慨する者たちが続出した。

「なんだそりゃ!?そんな屑貴族がいたとは!!」
「しかもそいつのせいで、あの目の保養美女も来れないだと!?こちらにも超・不利益を被っているじゃねぇか!!」
「下手すると彼女が来なくなる可能性もあるし、何を考えているんだその馬鹿は!!」

……特に反応が大きかったのは、ハクロに対するファンクラブの方々である。

 普段は記録するにとどめているのだが、彼女も脅かそうとしたオゥレ侯爵に対して、怒りを覚えた。

 普段はちょっとバカみたいなところはあれども、それなりに腕の多い面々。

 ゆえに、その情報はあっという間に駆け巡り、侯爵に向けての報復が今、一斉に始まろうとしているのであった…‥‥


「…‥‥裏ギルド、魔法ギルド、ハクロさんのファンクラブ‥‥あの屑に対しては、ちょっと過剰戦力でしたカネ?‥‥‥まぁ、良いでショウ。ご主人様の気分を悪くさせてしまい、防げなかったという事もありますし、私のメイドとしての矜持分としては十分デス。ふふふふふふふふふ……」
【‥‥‥なんだろう、物凄く恐ろしい雰囲気が漂ってくるのだが。神獣の我よりも物凄くないかそれ?】
「黙りなさい、ポチ。この程度でまだ済むとは思わせませんヨ。…‥‥ところで、一つ気になったことがありマス」
【と言うと?】
「ハクロさんファンクラブはありましたが、私のは?」
【‥‥‥‥】

 その質問に、フェンリルのポチは黙秘した。

 迂闊な回答は、下手すると危いと悟ったのである。


 ただ、正直に言うとすれば、おそらくは人は無意識のうちにワゼの方に恐怖を覚えているのではないだろうかと思ったが…‥‥口にすれば確実にただでは済まないと感じ取り、森につくまで始終黙るのであった。

 そしてそれは英断であったことを、後にポチは知るのだが、またそれは別のお話……‥
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