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面倒事は、何故やってくる

#50 事後処理面倒デス

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SIDE???

「…‥‥ううっ、はっ!?こ、ここは!?」

 その者は、気絶から目が覚め、辺りを見渡した。

 そう、その者はあの都市アルバスにアンデッド集合体をもたらした最悪おっさんである。


「な、なんだここは‥‥‥真っ暗だし、何も見えない。まさか、あの怪物の腹の中なのか!?」

 パニックを起こし、しばし暴れたが…‥‥数分後、落ち着きを取り戻した。

 おっさんの覚えている記憶としては、あの怪物が目の前に迫り、食べられそうな光景であったが‥‥‥この場所は感触的にどう考えてもどこかの部屋なのだ。


カッ!!
「うっ!?眩しいっつ!?」

 突然、明りが付いたようでおっさんは目がくらんだ。

 そしてなんとか慣れてきた時に、目の前にあったのは‥‥‥一枚の大きな鏡。

 そこに映っていたのは、そのおっさんの姿であったが‥‥‥

「んなっ!?な、なんだこれは!?」

……あの若くなる薬で若返った姿でもなければ、この世界に来た当初の自身の姿ではない。

 そこに映っていたのは‥‥‥見たことがないほど、変質した自身の姿であった。

 それはもう、口に出すのもおぞましいというか、この状態でいてよく目視ができているとも言えるほどである。

「な、なんだごればぁぁぁぁぁぁ、あづ!?」

 叫んだその瞬間に、全ての歯が木っ端みじんになって無くなった。

 一体なぜ、このような姿になっているのか、彼は理解できない。

 いや、理解する前に、声がかけられた。

「それはね、物凄く濃厚な呪いかかかったからだよ」
「!?」


 その声の方を振り向くが、そこには誰もいない。

 ただ、声だけが聞こえてくるのみだ。

「ど、どぼぼゆうだけだ(どういうわけだ)!?」
「わからないの?‥‥‥命を奪っても、この世界では死体は等しくきちんと弔わないといけないんだよ。それが例え人であろうと獣であろうとモンスターであろうと、解体しても良いからそのままにしない」

「でもね、お前はその行為を怠り、知らなかったとはいえ自身の気分を爽快に、もしくは発散させるためにどんどん死体を嬲っていったからねぇ……そのせいで、想像だにしなかったアンデッドが産まれたんだよ」

 その言葉に、思わずぎくりとおっさんは硬直した。

「そしてね、そのアンデッドたちが集合して、そして恨みを持つ君へ少しづつ呪いを重ねていたんだ。でも、お前は異世界の者。ちょっとばかり呪いが効きにくいのか、精々腰痛とか、節々の痛み程度で済んでいなかったかな?」

 思い当たるふしがあり、おっさんは黙り込む。

「そして最後に、そのお前が創りだしてしまったアンデッドたちは集合し、一つの大きな怪物となった」

「お前が逃げる直前に…‥‥大きな呪いを生み出し、憑けた」

がぐん!!
「っ”!?」

 そう区切られたとたん、おっさんの手足の力が抜け、その場に倒れ込む。

「だが、あの怪物は驚くべきことに、かなりあっさりと倒された」

「その事によって、呪いの大部分は消失したと言って良いだろう」

「な、ならなんで‥‥‥この体に」

「そりゃねぇ……染み続けた呪いが根元まであったというべきか……」

 どういうことだと問えば、ある例えが出される。

 例えるのであれば、それはスポンジのようなものである。

 呪いを汚れた水とすると、入れたところで水だけならば、すぐに絞りだせる。

 だがしかし、その汚れている部分は長い時間をかけて積み重なり、水だけが出たとしても、汚れそのものを排出しきれずに残ってしまうのだ。

 そのうちスポンジは汚くなっていき、最後には交換しなければならず…‥‥


「結局のところ、汚れはそのまま積み重なり、蝕んでいく。そう、お前のように‥‥‥‥大きな呪いが取り除かれたところで、もはや呪いそのものを排出できない。いや、むしろ一気に大きな呪いで圧縮され、消え失せたところで噴き出したとでもいうべきか‥‥‥?」

 その言葉を聞きながら、次第におっさんの視界はかすみ、耳が聞こえなくなり、痛みが強くなっていく。


「何にしても、呪いを詰め込めるだけ詰め込んで、そこまで業が濃厚になった魂になっているというのも珍しい。肉体は少々不味そうだがな」
「っ!?」

 ぞくっと物凄い悪寒がして、おっさんは後ずさりたくなる。

 だが、声はすれども姿は見えず、けれども確実に自身の命の終わりが近づいている。

「や、やべぼ(やめろ)!!やべでぐべぇぇぇ(やめてくれぇぇぇ)!!」
「ざ~ん~ね~ん☆やめませんよ~☆」

 必死の懇願に対し、ふざけた返答が返される。

 逃げようにも逃げる場所が分からない。

 姿が見えないけれども、自身に迫る死を感じてしまう。

「ひ、ひ、ひぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 
 その恐怖におっさんは叫ぶ。

 もう、これ以上の抵抗ができないと理解しつつ、生への渇望を込めた叫びをあげたが……


がぶりんちょ
「!!」


……気が付いたその時には、全てが終わっていたのであった。











「‥‥‥ふぅ、たまにはこういう恐怖で味付けをした奴を食べるのも悪くはない」

 おっさんだったモノを飲み込み、その者はそうつぶやいた。

「しかし‥‥‥この味わい、前に食べたあのデブリンちょ君と同じだね。ああ、親子なのか」

 ゆっくりと味を思い出しつつ、その情報をその者は読み取った。

 同じぐらい、いや、こちらの方が親なのか元祖なのか、味わいは深い。

「そして家族構成は…‥‥んんん?」


 そこでふと、その者はあることに気が付いた。

「あれ?まだ食べたことがないけれども……この息子2人の内、いや、不倫しているからそっちの隠し子は放置するとして…‥‥んん?」

 魂を咀嚼し、その情報を読み取ったその者はその事実に驚く。

 ド屑一家かと思いきや、とんだ綺麗な魂を持った人物がいたのだ。

 そしてその魂の情報は、その者にとって驚くべきものでもあった。

「‥‥‥ええ?これってもしかして……前に予言した時の奴なのでは?」

 何をどうしたらこんなことになるのか、思わずその者は目を丸くするのであった。





――――――――――――――――――――――――
SIFRシアン

「ふぅ‥‥‥後片付けが非常に疲れたよ」
【なんとかなってよかったですけれどね‥‥‥】
「個人的には、掃除ができたので満足デス」

 都市アルバスでの怪物騒動から数時間後、僕らはようやく帰宅できた。

 怪物を爆散させるところまでは良かったのだが、その後始末が面倒なことになったのだ。

 魔法で滅びたかと思いきや、肉片とかがうごめき、再集結し始めたのを見て、助かった人たちやまだ戦っていた人たちと協力して、慌ててなんとかすべて消滅させたのだが…‥‥

「結局、あれは何だったの?」
「恐らくはアンデッド系の集合体かと思われマス。ですが、あの大きさは異常デス」


 収束したところで、今回のその襲撃してきた顔だらけの怪物についての議論が起きた。

 性質や、その外見、その他諸々の特徴から、あの怪物は元をただせばアンデッド系のモンスターたちの集合体だったらしい。

 だがしかし、そこで解せないのはなぜそのようなものが産まれたのかという事である。

 この世界では、死体はきちんと埋葬したり、火葬するし、アンデッド化への変容を防ぐ策が取られている。

 モンスターにしても、解体したりして丁寧に最後まで利用するのだとか。

 そのため、通常であればアンデッドのモンスターは出現せず、出るとすればどこからともなく湧き出たか、もしくは相当恨みを残して葬送されなかったものだとか。

 
 で、今回の者はおそらく後者で、何処かの誰かが後始末をきちんとせずに、しかもそれを繰り返し続けた結果、あのような怪物を生み出してしまったという結論が出た。

 そして証言によれば、あのアンデッド系の集合体は呪いを持っていたそうで、あれが来る前に呪いまみれの人物の目撃情報があったそうだ。

 しかも、都市にあの怪物が来た時にはその人物が逃走しながらそれの前を走っていたそうだが‥‥‥絶対にその人物が元凶であると断言されたのである。

 まぁ、謎の爆発によって亡くなったそうで、死体すらも見つかっていないようだが…‥‥とにもかくにも、この問題は非常に大きなものになりそうだとか。

 
「元凶を調べて見ると、どうも冒険者ギルドの方に所属している冒険者だったようデス。そのため、第2、第3のアンデッド複合体創造者が出る危険性があるということで、現在対応に追われているそうデス」
「まぁ、きちんと後始末をしなかったやつが悪いからな…‥‥後片付けとかをこちらに押し付けられても困るしね」
【そうですよね。糸で肉片を貫き、動かないように固定して、他の方々に処分してもらうのとかもそれなりに労力を使いましたしね‥‥‥】

 何にせよ、この問題はややこしくなりそうだ。

…‥‥ちなみに、僕が光魔法で攻撃した件もちょっとその中に入るらしい。

 どうもまたやらかしてしまったというか、あれだけの威力を誇るのはちょっと魔法屋としては枠が外れているらしい。

 冒険者登録を勧められたけれども……残念ながら、僕には討伐とかそういうのを請け負う気はない。

 魔法屋として、日常生活に役立つ手助けをしたいし、戦闘なんて向いてないからね。


「何にしても、どう考えても面倒事しかないだろうなぁ…‥‥」

 そう溜息を吐き、疲れたので、今日は僕は早く寝ることにしたのであった。

 考えても良いことは無さそうだしね‥‥‥‥



――――――――――――――――――
SIDEハクロ&ワゼ


…‥‥シアンが寝室へ入った後、家の一室にて、ハクロとワゼの二人は起きていた。


【‥‥‥ところでワゼさん、一つ気が付いたことがあるのですが、良いでしょうかね?】
「何でしょうカ?」
【シアンの、あの時使った魔法‥‥‥光魔法でしたけれども、明かに威力がおかしくないでしょうか?】
「‥‥‥まぁ、そうデスネ」

 ハクロの問いかけに対して、ワゼは答える。

 二人とも、今回の件で…‥‥シアンの魔法が少しおかしいことに気が付いたのだ。


【あれだけの規模の魔法‥‥‥一発撃てば、魔力切れになってもおかしくないような物のはずですよね?私はそう魔法には詳しくないのですが…‥‥シアンの魔力量、異常じゃないですか?】
「確かに、異常な事は異常なのデス」

 通常、魔法を撃てば魔力を消費する。

 そして消費量が多いと、疲労が出てきたりするのだ。

 だがしかし、あの化物にシアンが魔法を放った時に、あれは確かに威力が大きく、それなりの魔力が消費されたはずなのだが…‥‥シアンはぴんぴんしていた。

 いや、むしろ加減をしていたような印象もある。


【‥‥‥もしかしてシアン、魔力量がものすごい膨大なのでは?】
「疑問にしなくても、そうだと思われマス。‥‥‥通常の人間では、もはや比べようもないほどデス」
【あれ?もしかしてわかっているのでしょうか?】
「ええ、まぁ、私の起動時に…‥‥」

 実は、初めてワゼが目覚めたときに、シアンの魔法で魔力を読み取っていたことがあった。

 その時に、その量も実は計測していたのだが…‥‥ワゼの魔力計測量を大幅に振り切ってしまい、測定できていなかったのだ。

 まぁ、その膨大な魔力量のせいで、故障した個所が出ていたりするのだが…‥‥とにもかくにも、既にワゼは理解していた。

 シアンの持つ魔力量は、通常の人間ではありえない量であると。




 ただ、それに何か問題があるかどうかと尋ねられても、問題はないと言い切れる。

「ご主人様はご主人様ですし、メイドの私がどうこう言えることではありまセン。強大な力であろうとも‥‥‥私はメイドとして、尽くすのみなのデス」
【シアンはシアンですか。……ふふふ、そうですよね】

 ワゼのそのぶれない回答に、思わずハクロは笑った。

 言われてみればそうなのだ。

 彼女にとっても、シアンはシアンで有り、それ以外の何物でもない。

 魔力量が異常とかで、何故少し不安になっていたのか、自分で少しおかしくなったのだ。


【まぁ、不安もなくなりましたし、今日は気持ちよく眠れそうです。今日の騒動は疲れましたが、それでも改めて私はきちんと自分のその気持ちに迷いもなくなりましたし……それでは、おやすみなさい】

 そう言い、ハクロは退出して眠るために部屋に向かった。


「‥‥‥そう言えば、一つ忘れてましたね」

 彼女が出ていった後、ふとワゼはそうつぶやいた。

がっしょんびよーん!!
【あふわぁぁぁぁぁぁぁ!?】

 その直後に、何やら悲鳴が聞こえたが…‥‥ワゼは気にしないことにした。

 そう、シアンの部屋の前に、睡眠時用の新たな罠を増設したことなど、今ので十分思い知ったであろうと思って。

 
「‥‥‥まぁ、添い寝程度なら良いですが、本当に夫婦になりたければ、さっさと告白すればいいですけれどネ」
【シャゲシャゲェ】
「おや?ドーラさん、いつの間に?」
【シャゲ、シャゲゲ】
「ああ、寝る前にちょっと酒盛りをしようとしたけれども、ちょうどいい相手がいなかったト?・・・・・では、私が付き合いましょうカ」
【シャゲ】

 とりあえず、ゆったりと息抜きも兼ねて、ワゼはドーラと共に少しだけお酒を飲むのであった。

「ところで、植物のあなたが酒を飲むのはどうなんですかね?」
【シャゲ?シャゲゲゲッツ、シャゲッツソ】
「私の場合、これもエネルギーにできますからね。まぁ、問題は無いデス」

 何にせよ、騒動で疲れた一日が過ぎていくのであった…‥‥
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