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春間近、でも頭春は来ないで欲しい

#272 砂上の楼閣とは言ったものデス

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SIDEカルパッチョ商国の第1,2王子

「ふふふ、愚弟はあのまま一度放置しておくとして‥‥‥」
「お、いたいた」

 ボラーン王国、即位式後のパーティ会場にて、自分達の間者にトパーズを連行させ、カルパッチョ商国の第1,2王子のゲイリーとラダンは新女王となったミスティアの姿を見つけた。

「それじゃ、互にやってみるか」
「ああ、どちらかが付ければ、国を継ごうが継げまいが、そう悪くもないだろう」

 普段であれば、王位継承権争いで争うこの二人。

 だが、邪魔者を排除した今、彼らには余裕が生まれていた。




 邪魔者の国王は娼館で不自然ではないような方法で毒殺し、それに気が付いたらしい彼らの弟のトパーズ王子も、今は監禁した。

 このまま国へ戻れば、王位継承権はこの二人で争うことになるのだが‥‥‥流石に、互に消耗を激しくし過ぎるのも、割りがあわない。

 そこで今回、ボラーン王国での新国王誕生に、彼等は目を付けた。

 もともとは面識を付けて、優位に立とうとしていたのだが、新しくなったのは女王という点で変更を決める。

 どちらかがその女王に取り入り、あわよくばその王配の座に何とか入り込もうと考えたのだ。



 本来、王配というものにはそう大した権力はない。

 あくまでもその伴侶という立場で、政治等に関わることはできないのだ。

 だがしかし、ゲイリーとラダンの二人は、それは確実に変えることができるだろうと考えていた。

 父親である国王の悪い面というべきか、彼等もそれなりに性欲があり、どうにかこうにかすれば女王すらも尻に敷いて操ることができると思っていたのだ。

‥‥‥全てがそうというわけではないが、少なくともボラーン王国の前国王の例を見れば、不可能のような気がするはずなのだが‥‥‥そう言う都合の悪いところを見ないのであった。



 何にしても、まずは面識を持ってもらうべきだ。

 そう思い、二人はさっさとミスティア女王の側へより、声をかけた。

「あー‥‥‥こほん、これはこれは、新しい女王陛下ではありませんか」
「すいませんが、少々お話の時間を戴けませんかねぇ」
「ん?‥‥ああ、カルッパチョ商国の王子様たちではないですか?」

 自分たちの顔を知られていたらしいことに、まずは軽く心の中で二人は喚起する。

 ある程度知っているのであれば、それはそれで好都合だ。

「おお、そうでございますよ」
「いやぁ、我々の事を覚えていただけているとは、光栄でございますなぁ」
「そういうものですの?あなた方、以前の使節団でやらかしていたからこそ、覚えていたのですわ」
「「‥‥‥」」

‥‥‥これが、上げて落とすという事なのであろうか。

 名前が知られていたと思っていたら、都合よく忘却していたはずの出来事で覚えていたようである。


「あら?でも確か、あの時のせいで国でしばらく謹慎されたという話も聞きましたが…‥‥」
「あ、ああ。そのことでしょうか」
「いえいえ、我々もきちんと反省し、この度解かれたので、ここへ来たのですよ」

 ミスティアの問いかけに、何とか話を合わせてごまかす王子たち。

「っと、まぁ、それは置いておくとして、まずは新しくこの国の王になれたことを、祝いますぞ」
「貴女様のような方がなれば、それこそ素晴らしい国を築き上げることができると思いますからなぁ」

 ごまかしつつ、話を切り替えて王子たちはまずは祝う方向から押し始める。

 自分たちの都合の悪い方をできるだけ潰しつつ、おだてて気分を良くしようと考えたのだ。


‥‥‥まぁ、その中にはさらなる悪だくみもあったが。

「ふふふ、まだまだなり立てで、お父様のような治世は難しいですが、努力していきたいですわね」
「ええ、貴女様であれば、努力を積み重ねることで、更に高みを目指せるかもしれませんからなぁ」
「‥‥‥おっと、そう言えば先ほどから見てましたが、ずいぶんな人数と対応したご様子でしたな。喉が渇いておりませんかね?」
「言われてみれば、少し乾きましたわ」
「では、祝いの品というにはちょっと早いので、とりあえずそのあたりから飲み物を持って来ましょう」

 ここで、一旦ゲイリーが自らその場から離れ、ラダンに任せる。

 すぐ近くにある立食場に置いてあるワインを自分たちも含めて飲む分、ワイングラス3つにそそいでもらい、持っていく前に…‥‥素早く周囲を見渡し、懐から取り出した薬袋の中身をその中へ素早く混ぜ込んだ。

(‥‥‥あとは、効果が出るのを待つのみだ)

 完全に溶け込み、混入しているとはわからないようにしたうえで、直ぐにその場へ彼は戻る。

「どうぞ、女王様。コチラを一杯」
「ええ、いただくわね」

 互にチンッと打ち鳴らし、乾杯のようにして飲み合う。

 その中で、女王がその薬物入りのワインを飲んだことに、ゲイリーとラダンはアイコンタクトを取って確認しあった。




‥‥‥数分後、効能がもう現れたのか、女王の足取りが少しおぼつかなくなる。

「‥‥‥あら、なんだか眠気が出てきましたわね」
「ほほぅ、無理もない、かなりの人数を相手にしていましたからなぁ」
「では、女王陛下。一旦この場を出て仮眠を取ってはいかがでしょうか。なぁに、まだ時間は長いですし、ほんの十数分程度であればたいしたことありませんよ」
「‥‥‥そうね、ならそうさせていただくわ」

 そう言って女王がその場を去ったところで、二人はさっと気が付かれないように後を追った。



 城内を少々進み、ある部屋に女王が入ったところで少し待ち、そっと彼らは扉を開けて中に入る。

 そこは休憩スペースのようで、置かれているベッドの上で寝ている女王は無防備である。

「ふふふ‥‥‥きちんと、睡眠薬が効いたようだな」
「ああ、後は夢の中でじっくりと堪能してもらいましょうか」

 にやにやといやらしい笑みを浮かべ、近づいていくゲイリーとラダン。

 あとはこのまま手をかけてしまえば、関係を持ったことで入ることができるし、女王が訴えたとしても、新しく国王の座に就いた場で傷つくようなことは言えないだろう‥‥‥‥っと、そうどうゲスな事を考えていた二人が、手をかけようとした…‥‥次の瞬間であった。


「‥‥‥ああ、やっぱりか」
「「!!」」

 突然聞こえてきた声に、二人は驚いて振り向き…‥‥後悔した。

 そこにいたのは、一人の男。

 身にまとうのは黒い衣な、ただの青年のようにも見えたが…‥‥すぐに、そうではないと彼らの勘が告げていた。

「まぁ、大体予想できていたことだし‥‥‥わざとやって見たが‥‥‥それでも胸糞悪いな」

 じわじわとあふれ出る、怒りの空気。

 ぐぐっとかけられまくる重圧に、彼らは自然と体が震えはじめる。

 何者なのかはすぐに理解できないが…‥‥少なくとも、何かの逆鱗に触れたらしいことぐらいは、否応なく理解させられるのであった‥‥‥‥

 
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