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11の旅『森に呑まれた国』

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ボォォォォッ!!ボォオオオオオオッ!!
ブシュウウウウ!!ブシュウウ!!

『…‥‥駄目だ、全然動けない』

 全力で汽笛を鳴らし、一生懸命蒸気を吹き上げるも、私はこの状況を変えることができずにいた。

『ぐぬぬぬぬぬ!!』

 一生懸命ボイラー内の蒸気を蓄え、ピストンに送り込み、動輪を動かそうとするもびくともしない。

 馬力自体は相当あるはずなのだが、いかんせん絡みついている力が強いのか、下手すれば自壊しかねない状態だと理解させられる。






‥‥‥数時間前、私はこの世界に入り込み、線路が無いかと探っていた。

 けれどもなかなか見つからず、ならばいったん停車できそうないい場所が無いかと目的を変えたところで、ふとこの今いる森に目を付けた。

 というのも、物凄くうっそうと茂る森ではあったが、よく見れば空いた隙間が確認できた。

 そこならば一時的な停車場所としてはいいかもしれないと思い、着陸したのだが‥‥‥ブレーキをかけ、人型になろうとしていたところで、思わぬことに巻き込まれたのである。

 それが、この森の木々から伸びた蔓によって、私の車体が拘束されてしまったこと。

 うにょうにょと蠢き、あっという間に動けなくされてしまったのだ。

 その上…‥‥

『‥‥‥うん、人型にもなれないか』

 どういう理屈なのかは分からないが、車体が巻き付かれているのであれば、人型になってサイズの違いから抜け出し、猛ダッシュで逃げ出そうとも考えたのだが‥‥‥どうもなることができない。

 今まで、他の世界を渡っている中でなれなかったことはそうそうなかったはずなのだが‥‥‥今のこの取り押さえられている状況では、どうしようもない。

 ボイラーの火を着火させて炎上させようかとも考えたが、流石にここまで動く植物がいるとそれも不味そうで、余計に危険な目にあわされる可能性がある。

 


 そんなわけで、大人しく拘束されていると‥‥‥ふと、木々がざわめき、道が出来上がった。

 見れば、その道の先には一人の青年の姿があった。


「…‥‥ここへの侵入者を見つけたと、森が教えてくれたと思ったら‥‥‥何で、蒸気機関車が絡まっているんだ?」

 銀色の髪を風になびかせ、赤い目を見開き、驚いたように彼はそう口にする。

 うん、何者かはわからないけど、とりあえず今言える事とすれば…‥‥

『あのー、できれば助けてほしいのですが、無理でしょうか?』
「…‥‥喋った?」

 私がそう言葉を発すれば、彼はきょとんと驚いたように目を丸くしたのであった。










 数十分後、私は何とか蔓を解いてもらい、話し合い、彼の住んでいる家に案内された。

 彼の名はゼリアス。この森の主でもありつつ、妹と共に暮らす悪魔らしい。

 うん、人間以外の生物も多く目にしてきたから、今更悪魔が出てきても特に驚くこともないが、こうも人そっくりな悪魔は見たことがない。

「今まで見た悪魔と言えば、色々と人外な見た目をしてましたが‥‥‥貴方はそんな見た目ではないですね」
「一応、角とか尻尾はあるけどな。生活の邪魔だから消しているだけだ。それにこっちだって、お前に似たようなのは見たことがあったが、まさか噂に聞く異界の列車とはなぁ…‥‥」
「噂?」

…‥‥私自身、特に意識するようなことはなかったが、どうも世界を渡れるような界隈では、ちょっと噂に上っているらしい。

 どこのだれが作ったのかは知らないが、あちこちの世界を駆け抜ける不思議な列車がおり、人の姿をとったりしていることから、一種の九十九神ではないかという話が合ったそうな。

 いや、そんな100年ほど経過した物が妖怪になる類ではないとは思うのだが…‥‥そもそも私、製造されて100年も経過していたっけ?‥‥‥うん、分からないことは置いておこう。

 そしてこの目の前の悪魔ゼリアスも世界を渡れるらしく、だからこそ私の仲間ともいえる蒸気機関車を目にすることがあり、それで一発で言い当てたようなのだ。


 とにもかくにも、彼と話をして見ると、ここは「帰らずの森」と呼ばれる場所なのだとか。

「妹と二人暮らしをしているが、時たま不審者共が出るからなぁ‥‥‥だからこそ、守るために結界を張ったのは良いが、こういうのは苦手でな。色々と今、調整中だったんだ」
「というと?」
「今はまだ、植物たちに不審者を追い返すとか、分からない物をとりあえず捕縛しておけという設定にしたのだが‥‥‥その分からない者の類にそちらが入ったらしい」

 なお、結界自体はつい昨日作成したばかりのようで、ちょうど私は運悪く引っかかったようなのだ。

 しかも、私の体が人型になれなかった理由や、シールドを張っているはずなのに侵入された原因はこの悪魔の力量が怖ろしく凄まじすぎたせいで、植物自体に物凄い影響を与えてしまったようである。

「ああ、それとな。この世界に線路はまだ無いぞ。おそらくは‥‥‥そうだな、数百年以上経過すれば、ようやくでき始めるといったところか」
「思った以上に長い…‥‥この世界って、文明レベルが遅れているのか?」
「そう言う訳でもないが‥‥‥一度滅びた国とかあるからなぁ。魔王とか、そう言う類も出たりするし、割と発展自体は遅い方かもしれん」
「うーん、魔法のある世界とかに渡ったこともあるけど、まさか魔王とか聞くとは…‥‥」

‥‥‥蒸気機関車でなおかつ別世界の存在故か、そのような世界に行っても魔法は使えなかったけどね。

 ちょっとワクワクしていたのに、使えなかった時を知った時の絶望感は言い表せない。


「何にしても、お前は人のいる場所を見て回りたいのだろう?それなら、一応この大陸ではなく、海を渡って別の大陸の方にある国へ向かった方が良い。ちょうど今、話に出た魔王の中でも悪の方に分類される類が荒らしまわってるからな」
「うわぁ‥‥‥遭遇したくないなぁ‥‥‥」

 他にもいるような口ぶりだったが、魔王とかそう言う類は絶対遭遇したくない。

 シールドとか自衛手段はあるけれども、迂闊に接触して壊される危険性があるのは避けたいからね。

「あとは、観光目当てならさっきの開けた場所の周辺を探ってみるのも良いだろう。つい先日、国を一つこの森が呑み込んだからな」
「さらりととんでもない事実が出てきてませんか?」

‥‥‥いわく、そもそもその国はいろいろやらかしていた国だったらしく、彼の妹に害が及びそうだったらしい。

 いや、及びそうどころか迫害しようとしていたようで、実行に移す前にこの森を動かし、彼が滅ぼしたそうなのだ。

 というのも、この悪魔の妹は血のつながった妹ではない。

 悪魔として契約し、魔女とした少女であり、その国では悪魔も魔女も迫害対象にしていたようなのだ。

「…‥‥と言っても、どっちも迫害される所以はないがな。悪魔の方は契約主に従うだけだし、魔女の方もその力で薬を使って配布するなど、そう大したことはない。それなのに、勝手に迫害してくるような輩がいるのが面倒なんだよなぁ‥‥‥」

 はぁっと溜息を吐くゼリアスに、私は同情する。

 どうやらその国は、人以外の者を人として受け入れることができず、完全排斥主義でもあったようだ。

‥‥‥そう言う国がある事も、私は経験している。

 人ではないからこそ、人でない存在を人々は恐れ、除外することがあるという事を。

 共に手を取り合ったり、互に不干渉を貫くのならまだしも、暴力という手段を用いて動く人々がいるという事も。

 まぁ、そう言うのは難しいし、考え方、価値観の違いなどややこしいことがあるので、どうしようもないと理解しているのだが‥‥‥‥この悪魔はどうにかしようと動いた結果、結局変えようが無かったので、森に呑ませたそうなのだ。

 非難する気はない。手を尽くした結果、こうしなければいけなかったという判断になったようだから。

 手を取り合えるような相手でもなく、どうやら自己中心的過ぎな国でもあったそうなので、むしろ潰れて喜ぶところが多いらしい。

「まぁ、そう言うことがあったわけで、あのあたりは滅亡した国の跡ならあるからな…‥‥観光したければそこを見れば良いだろう。数日後には何もかも失せて、森になるだけだけどな」
「うーん…‥遠慮しておきます」
「そうか」

 人が滅んだ国を見る事もあるが、流石に滅びたての光景はちょっと見たくはない。

 そんな物ではなく、きちんと人がいる場所を見たほうが良さそうだし、こういう悪魔とかがいるのであれば、その他にも何か面白いものがいる可能性もあるし、ちょっと期待できるだろう。

「それでは、短い間でしたが、世話になりました」
「ああ、今度はお前が来ても絡まらないようにしておくよ。それに、また世界を渡るのであれば、面白い話しでも持ってきてくれ。今日は妹は魔女集会でいなかったが、違う世界の話を聞きたがるだろうからな」
「ええ、ではそういたしましょう」

…‥‥そう互いに言葉を交わし、再び訪れる事を約束し、私はその森から出て、教えてもらった海の向こうを目指すことにした。

 というか、今の中でも出たが、あの悪魔の妹って悪魔じゃなくて魔女なのか…‥‥何やら複雑そうな関係がありそうだが、聞き損ねていたかもしれない。

 とはいえ、また訪れる機会もあるだろうし、その時に話を聞くとしよう。そして、その妹とやらにもあって、私が廻った世界の話をしていこう。

 そう思い、汽笛を鳴らして私は宙を駆け抜け、目的地へ向かう。

 上から見ればうっそうと茂る森だが、そこは悪魔とその妹が住まう森。

 また今度訪れた際には、別の国を呑み込んでいなければ良いなぁと思いつつ、その場を去るのであった…‥‥




‥‥‥そしてそれから、何回も私はその世界に訪れることになる。

 様々な旅の話を土産に聞かせることも、旅の合間の楽しみとなったのだ。

 さらに数百年以上経過したところで、ようやく線路が敷かれ始め、ちょっと出くわしたくもなかったが、悪魔に大丈夫だと保障された魔王に会わされるのも、別のお話である‥‥‥‥

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