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学園1年目

10話

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‥‥‥グリモワール学園の入学式。

 それは、学園の中にある運動場で行われるのである。

 しかし、ただ生徒の名前を読み上げたり、学園の注意事項を読み上げたりするような、ただの入学式ではない。



 この学園は魔導書グリモワールの扱い方や、禁止事項、その他普通の座学などを学ぶ場所。

 故に、入学式は‥‥‥‥



チュドォォォォン!!
「ぎゃぁぁぁぁあ!!」
「どふぁぁぁぁぁぁ!?」


『‥‥えー、34番と56番の新入生が脱落でーすね。ここに来るまでに、そこそこは魔導書グリモワールの扱い方が分かっているでーしょうし、今の魔法ぐらい軽々と回避か迎撃してくれませんかー?』
「「「「「できるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」」」」」


 拡声器を使い、運動場中に声がそう響いたが、その言葉にこの地獄のような状態を生み出した声の張本人に対して、ルースを含む新入生たちのツッコミの声が重なった。



‥‥‥甘かった。本当に甘く見ていた。

 そうルースは思いつつ、何とか生き残っている今この瞬間、生きている喜びをかみしめていた。





 この状況に陥る数分前。

 ルースたち、新入生一同は入学式のために運動場へ皆案内され、この学園の校則などの説明を聞くものだと思っていた。


 だが、全員が運動場内に入ったところで、突然運動場周辺の空間が変化し、ドームのように何かの物体で覆われた。


『よーこそいらっしゃいました、今年度の新入生諸君!!』

 声が響き渡り、この事態にあわてる人がいながら、その方向を見ると、そこにはぷかぷか浮かぶ謎の球体の上に乗った女性がいた。

 手には前世の地球にあったような、マイクに近い拡声器を持っており、白色の魔導書グリモワールが顕現しており、ニヤニヤとその女性は笑みを浮かべていた。


『わーたしはこの学園の23代目学園長、バルションでーす!!』

 にこやかに言ったが、なんとなく感じ取れるその身にまとう雰囲気の得体の知れなさに、思わず後ずさりをしたり、身構える一同。

 怪しい者以外の何者でもなく、明らかにやばそうとしか思えなかったのだ。

『今かーら!!皆さんには入学式早々でーすが!!ちょっと攻撃を回避してもらうテストをいたーします!!』
「「「「「‥‥はぁっ!?」」」」」

 突然の事で、何を言っているんだという思いが一致して、皆の声がそろった。

『ついでーに、これで最後まで生き残れたらいろいろいいことをしてあーげますが…‥‥ま、悪いなと感じたら特別補習授業みっちりコースを与えますから、そのつもーりでがんばってー!!』

「「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」」


 あまりにも急すぎる、突拍子もないことを言われ、しかもこのいきなり行うテストとやらを乗り越えなければ、暗にこの後の学生生活は完全な勉強漬けにするぞという言葉で、皆は驚愕し、焦った。



 流石にこの学園が学び舎とはいえ、完全に勉強漬けになるのは避けたい。

 ここまで突拍子もなく、いきなりテストを行うような人であるならば、もしかしたら休日がないほど勉強漬けにされるのではないかという恐怖に、皆怯える。




‥‥‥そして、開始の合図が鳴らされた後に、この攻撃が皆に飛んでいく恐怖のテストが始まって、今に至るのであった。



ドォォォン!
「みやぁぁぁっつ!?」

ガッシャァァン!!
「ぎぇぇぇぇぇっつ!?」

ドドドドドドドドドド!
「どわふふふふふっつ!?」



「‥‥‥やばいな、次々犠牲になっているぞ」
「何とか生き残っているけど、これいつまで続くんだろうねルース君」


 状況のまずさに冷や汗をかいてつぶやくルースに、同じく冷や汗をかいているらしいエルゼがそう答えた。

 学園長というからには、この学園をすべるだけの力量があるのか、その力の強さはどうやら本物のようである。

 魔導書グリモワールを手にして、まだまだ駆け出しの新入生たちにとっては、これはなかなか厳しいテストなのだ。

 
 何とか自力で膜や壁を張って防いだり、攻撃には攻撃で迎撃して逃れたりする人がいるのだが、それでも厳しい状況なのには変わりはない。


『ははははははは!!今年はー、中々骨ごたえのある人が多いでーす!!』
「それは歯ごたえって言うんだよね!?」

 誰かが学園長の言葉にツッコミを入れたようで、中々勇気があるやつがいるんだとルースは思った。




「あの学園長とか言う人…‥高笑いをして楽しんでいやがる」
「性格悪いよ。あれ確実に独し、」

ジュンッツ!!
「みょえっつ!?」
『聞こえてまーすから、言わないほうが身のためでーす!!』

‥‥‥エルゼのつぶやきに反応したところから、どうやら図星のようだ。

 というか、今頬をかすめたけど危な過ぎないか?




 この学園は、一応国内で魔導書グリモワールを叡智の儀式で手に入れた人が入学する学び舎。

 ルースのように平民もいれば、エルゼのように貴族家からきている人もおり、探せば次期当主だとか、そこそこの権力を誇りそうな人もいるのだろう。

 だがしかし、このテストはどうやら身をもって、この学園では出来るだけ身分に対して平等に扱うぞと、告げているのだと‥‥‥この攻撃の合間に、学園長と思わしき女性がそう説明をしていた。



 確かに、身をもって知ることはできるだろう。

 だがしかし、この状況はマジでヤバイ。



 人とは異なる、金色に輝く魔導書グリモワールを顕現させ、目立ちそうだが何とか攻撃を防ぎながらルースはそう思った。

 というか、目立つ目立たない以前に、攻撃が中々激しくて、他人が顕現させている魔導書グリモワールを見る暇がない。

 ちなみに、先ほど番号で呼ばれていたが、どうやらあの学園長は生徒一人一人に割り当てられた狩りの出席番号を覚えているようで、その頭の良さというか、奇人さもよく皆に知らしめていた。


ドォォォン!!

ビィィィィィム!!

ズッバァァァァァァン!!


「学園長の魔導書グリモワールって白色…‥‥この攻撃を見ても、やっぱりほとんど光魔法が多いな!!」

 ビーム攻撃というか、なんかおかしいような物も混じってはいるが、速度はそこまでたいしたものじゃない。


 流石に新入生を気絶させる程度に威力を落としているのだろうけど‥‥‥防ぎにくい。


「えーっと、こういう時に使えそうな魔法は‥‥‥」


 回避しながら、ルースは魔導書グリモワールから得た知識で、回避方法や迎撃方法に役に立ちそうな魔法を模索する。

 ちなみに、エルゼの方はすでにだいぶ扱えているのか、水で水面のような物を作り、鏡のように反射させることで防いでいるようなのでその方法を参考にしたかったのだが、どうもルースの方にはその知識はない。

 その代わりに、何とか助かりそうな魔法をようやくルースは見つけた。

「あった!『ウォーターボム』!!」

 魔法を発動させ、周囲に水の球体が顕現する。


ボン! ボン! ボボン!!


 球体はすぐさまはじけとび、その内側に蓄えられていた水蒸気が一気に辺りに広まり始めた。

『お?おおう?』

 その変化に気が付いたのか、学園長が目をぱちくりさせる。

 
 その隙をついて、ルースは次々に同様の魔法を発動させ、どんどん爆発させていく。

ボン!ボン!ボン!ボボボボボボン!!





‥‥‥あっという間に、辺りは水蒸気で覆われ、霧で覆われたようになった。


『おおおー!!これじゃ光魔法が拡散してまともにできないよ!!やるねー新入生!!』


 学園長が先ほどから使用していた光魔法だが、いわば光を収束して攻撃に転化する、さながら虫眼鏡で太陽光を集めたのと似たような攻撃。いや、ちょっと違うだろうけど。


 そこに、水魔法と火魔法を混ぜて水蒸気を発生させ、辺り一帯を細かい水滴で覆われるようにしたのだ。

 そうすれば、水滴の一滴ずつがレンズのような役目を果たし、集中していた光を乱反射させ、攻撃を無効化したのである。


‥‥‥ただし、これには弱点もある。

『アイディアはいい!!だがしかーし、逆に利用させてもらうよー!!』

 そう学園長が言い、なにかを唱えると、あっという間に水が凝縮されてしまい、大きなレンズが出来上がってしまった。


『強制的な光の圧力で集めたーんだよね。敵の攻撃も利用できることを、みーんなわかったかな?』


 悪魔のような笑みを浮かべてそう話す学園長。

 そう、この魔法で出来た水蒸気はもう手から離れたも同然のような物で、逆に利用されなかったのだが‥‥‥どうやら、学園長の腕が予想外によかったようで、利用されまくったようだ。

「「「「「は、はい‥‥‥」」」」」


 銃口ではなく、巨大な水のレンズを向けられて思わず一同は消沈し、そう答えた。

『うんうん、なーらテストはここまで!!ついでにいうなーれば、さっき言った勉強漬けもなーしにしよう!!』

 生徒たちからの返事に満足したのか、そう言ってくれた学園長。


 その言葉に、皆はほっとしたのだが…‥‥


『‥‥でーも、ちょっとこの魔法を味わって体感してねー?』
「「「「「え!?」」」」」


・・・・「上げて落とす」。その言葉の意味をルースたちは身をもって学び、巨大レンズで威力を増したレーザー光のような魔法の衝撃波でふっ飛ばされながら、初日から散々な目にルースたちは味わったのであった‥‥‥












 入学式後、ボロボロになった新入生たちが早速保健室の世話になっている頃、元凶のバルション学園長は学園長室に戻っていた。


「うんうん、なーかなか骨のありそうな人がいるねー」

 満足げにテストでのことを思い出しつつ、新入生たちの能力を彼女は考えていた。

 この学園長、実はこのふざけたようなテストで現状の皆の実力を見て、全ての教科の授業において、どのようにして進めていけばいいのか、測っていたのだ。

 
 その言動や、やることが滅茶苦茶ながらも一応有能な学園長。

「にしても‥‥‥あの水蒸気を創り出す魔法とか、確かに面白そうなのがいたねー」

 ふと、金色に輝く魔導書グリモワールを所持した生徒が魔法を使った時の事を思いだし、ニヤリと学園長は腹黒い笑みを浮かべる。

 長いこと学園長をやっているのだが、やはりあのような金色の魔導書グリモワールを彼女は見たことが無かった。

 そして、現時点ではまだ弱そうだが、鍛えようによっては面白く成長していきそうだなと思い、これからどのように授業を進めていくのか、方針を固めていくのであった…‥‥
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