財閥のご令嬢の専属執事なんだが、その家系が異能者軍団な件について

水無月彩椰

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異戦雪原

~物思いは授業中に~

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「相変わらず騒がしいクラスだなぁ......」

授業中の私語を注意する教師もおらず、教室では遠慮なしに言葉が交わされている。自習という事になった我がクラスだが、授業中以上休み時間未満の騒がしさだ。

そんな中俺は、数日前に席替えをした時に近くになった面々を眺める。隣にはお嬢様。これはクラス中でも決定事項だ。後ろには無表情っ娘の片山雫。雫の隣には天然っ娘の神凪鈴莉。そして―

「彩、ここの生活にも......多少は慣れたかな?」

「......はい」

―学園の制服を身にまとった、『開かずの小部屋』の使用者、水無月彩。

何でこの子が学園ライフを送っているかの説明には少々時間が掛かるのだが......。一言でまとめれば、『長の命により、教育を受けさせた』―いや、違うね。少しこの言い方だと語弊がある。正しくは、『人との関わりを持たせるため』だな。

「昔から本部暮らしだったからね。こうやって人と関わるのは苦手だとは思うが、こういう時間を大切にした方が良いよ」

長の権限を利用して、校長である結衣さんと、本部の面々に頼んだのだ。そうしたら、多少渋りながらも了承してくれたよ。

「有難い、お言葉......です」

彩はくるっと身体をこちらに向けると、その髪を揺らしつつ優雅に頭を下げた。やっぱり彩のお辞儀は、いつ見ても美しい。大和撫子、とでも言おうか。

そんな彩と雑談をしているお嬢様たちを他所に、俺はさっきから1人。物思いにふけっていた。その事案こそが、昨日の美雪が告白した、襲撃の理由についてだ。

『アタシたちが鷹宮支部を襲撃したのは―鷹宮が保有しているとされる、を奪取するため』

これが気になってしょうがない。さらに、

『異戦雪原が鷹宮よりも上位の組織だと世に知らしめる事が出来る......かもしれない情報があると、聞いた。だからあそこを襲い、それにアクセスしようとした』

というのだ。まぁ、残念ながら彼女らの目論見は外れる事となるが。その大きな理由として、鷹宮が保有している情報......それにアクセス出来る事は限られている。セキュリティ云々ではなく、限られた重要な情報とは、物理的に回線が繋がっていないのだ。

例えば、『鷹宮の記憶マスターデータ』。これは鷹宮の長や秘書、一部の上層部だけが覗ける。故に、美雪の言う情報を見たいならば―

―直接、本部に赴かなければならないワケだ。その辺りの支部が保有している情報なんざ、家計簿くらいの物しかない。 

だから、今回の事件。異戦雪原第4戦科部隊が起こした襲撃は、全くの無意味だ。その落とし前は他の部署に任せるとして......問題は、その、出処。

「志津二、どうしたの?難しい顔して」

「......あ、ホントだ。志津二くんが悩み事って、珍しいねぇ」

「ホント......だ」

「志津二......様。如何なさい、ましたか?」

お嬢様を筆頭に、俺の表情が少なからず強ばっているのに気付いた4人が俺の顔を覗き込んでくる。さて、どうするか。お嬢様と彩は良いとして、後の2人に本部の事案を話したくはないから......。それに俺が長って事も秘匿しておかないと。

「あぁ、何でもないよ。少し疲れただけだから」

「「「「......ホントに?」」」」

「ホントだよ。じきに治る」

お嬢様と彩は俺の置かれた状況を理解してくれていたのか、詮索はしなかったが。後の2人が異様に怪しんでくる。普段物思いしないからだろうな、珍しいのだろう。

「大丈夫だよ、心配無用」  

俺はそう言うと、再び頭を思考に戻す。っと、どこまで考えたんだっけ......あ、そうそう。出処だ。

自分たちの属する組織がどんなものであれ、他組織より上位だと示すメリットは、数限りなくある。そして、鷹宮はその『規模』・『歴史』・『長の異能』......その他諸々においてあらゆるものを基盤として、異能者のトップに立ち続けてきている。古来より、何百何千と。

だからそれを上回りたいと思うのは、分からなくもない。鷹宮の、天下。それを自分のものに出来たらどれだけ良いだろうか―まるでかつての戦国大名が想っていた事と酷似しているかもしれない。

―戦国、大名......か。

その言葉に、ふと思い当たる。

確かに『長』という大名を筆頭に、私の天下だ俺の天下だと組織間で取り合いをしていたのは事実。そして、今も陰ながらそれは続いている。だが、鷹宮が天下を治めて何百年。以来、無謀な争いは鎮火してきた。しかし、陰ながら続いている......というのは。

―鷹宮・反体制派による活動。

何時かに起きた、反体制派によるお嬢様暗殺未遂事件。 あれは鷹宮の分家筋が反旗を翻したものであって、他組織が起こしたものではない。

つまり、他組織の中にも少なからず。鷹宮を墜とし、我が天下を―というならず者がいるんだろうね。まぁ、良いんだけど。

......話題が大幅にズレた。ヤバイヤバイ。

確かに、確かに彼女らが求める情報ならある。『鷹宮の記憶』がそうだ。その中にある、代々の異能者の家系。系譜。それが総てを物語っている。

鷹宮も、異戦雪原も。その総てを萃めた、究極に近い情報の集大成。

鷹宮がトップに立つのに『血筋の古さ』がある以上、それを上回る情報があれば、異戦雪原は鷹宮より上位だと知らしめられると。

―しかし、今の鷹宮にとってそんな情報はどうでもいい。彼女らが執着している順位でさえ、気にしない。我ら鷹宮の意は、

『異能者という異端の存在。それを、秘匿し続ける事』

だがしかし。それは異能者の『祖』である鷹宮の事情。他の組織がどう思うかは別だ。それこそその情報を求めて来る可能性だって、数限りなくある。  

だから余計な争乱を招かぬように、鷹宮は、長は、その情報自体を秘匿し続けてきた。知っているのは代々の長か、その側近。それと、一部の本部の上層部だけ。

すなわち、異戦雪原がこれを知るには―鷹宮の誰かから、その情報を聞き出さなくてはいけない。だとすると、

「まーた造反者か離反者か......」

と、辺りに聞こえないほどの音で呟く。しかも今回は上層部確定じゃん?厄介な事この上ない。

「......あ」

そんな考え事をしていると、授業の終わりを告げるチャイムが教室中に鳴り響いた。そんなに考え事してたのか。

で、そんな俺の疲労はさらに蓄積される事となる。何故なら―

「お嬢様、彩。この後本部に行きますよ。仕事が残ってるんです」

俺は2人にだけ聞こえるように耳打ちし、手早に要件を伝えた。

―組織間の諍いで、それに関する処理しなければならない資料が沢山あるからだ。

「じゃあ帰りは校門から直接迎えだからね?」

「......志津二さん、机」

そんな事をしていると、雫に肩をつつかれた。掃除モードにしてくれとの事。

「分かった、今やるよ」

俺は掃除の体制に入りつつ、これから始まるデスクワークへの地獄を嘆いていたのだった。


~Prease to the next time!
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