財閥のご令嬢の専属執事なんだが、その家系が異能者軍団な件について

水無月彩椰

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異戦雪原

~詭弁か、否か~

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「―もう目が覚めたのか。美雪」

「死ぬかと思った......!」

彩を除いたお嬢様だけを後ろに連れて、俺は地面に座り込んでいる伊勢美雪へと声をかける。

あのビルから歩いて数十分。ここが、本来指定されていた待ち合わせ場所だ。

美雪は俺たちに気付くとその目を細め、敵対心剥き出しで睨み付けてくる。

「鷹宮。自分たちが卑怯だとは思わないのかしら」

「何とでも言ってくれて結構。......だが、これはお前たちが出した条件だ。『失神するか、降参するかで敗北』ってね」

「そんな―詭弁よ!」

「......詭弁でも良い。これ、お前らが言ってた音声データだ。これをもう1回聞いてから言うんだな」

未だふらつく美雪の足元に、俺は1つのUSBメモリを投げる。

「音声データに加え、お前の部下が言った場所の指定諸々......全てがここに記されている。証拠も十分。確かに気絶して、失神したよね?」

いくら非殺傷弾ゴムスタンとはいえ、運動エネルギーはあるワケだ。久世の時みたく骨折する事だってある。大口径ならもっとだ。

だが現実として、美雪は傷を負っていない。的とした眉間でさえ、傷一つ付いていなかった。つまり、

「お前が無傷でいられるのは、部下のお陰だろう?よーく感謝するんだね」

部下が異変にいち早く気付き、対応したから。俺の放った弾丸が、躱された事。探知系の異能かは分からないが......。

「伏兵を隠していたと言うのに、詭弁とは。おこがましいとは思わないかな?」

「あれは......何かのとき用に、よ」

ふむ。矛盾はない。あの条件の中に、伏兵はNGとはなかったから。しかし、

「あの言葉のトリックに、俺が気付いてないとでも思ったのか?」

「っ......!」


『アンタとアタシの闘い』。


「つくづく日本語ってのは難しいんだ。ニュアンス1つで、全く別の意味の言葉に変えてしまえる。......この言葉の中に、『二人だけ』という単語は入っていないだろう?」

俺も最初は勘違いしていた。頑なに使われなかった、数を制限する言葉。

「すっかり騙されたよ。あの状況、流れ、ニュアンス......あれだけで、あたかも『二人だけの決闘』だと思わせられる」

「......」

黙ったまま口を開かない美雪。それは肯定か否定か定かではないが、終わりまで聞こうと言うのか。

「伏兵に加え、やはりここにも罠があったね」

それを蹴ってみれば、顔を歪める美雪。辺りの砂より少し明るいそれは、美雪の用意した罠。まともに当たらなくて良かったよ。

......普通に行けば、罠と伏兵が。かと言ってこちらが伏兵を連れて赴けば、難癖を付けられるであろう。真っ向勝負では負け確。

だからここで、

「お前の作戦が一役買ってくれたんだ」

「アタシの作戦、が......?」

そう。

「常軌を逸した、その作戦。だから俺もそれを逆手に取らせてもらったよ。遠距離狙撃をする事で、ね」

最低限、互いに決闘をしなければと思っていたその心理を逆手に、敢えて遠距離から攻撃したワケだ。

罠にしても、自信のあるものを用意していたんだろう。それなのに、

「それなのに、この結果だ。時刻も場所も、全て決めさせてあげたがね」

でも、本当に。

「本当に、助かったよ。お前が『二人だけ』なんていう言葉を伏せていてくれて。だからこそ俺は、狙撃なんていう決闘らしからぬ事を出来た」

美雪は、確かに策士だろう。だが、詰めが甘かったね。最後はガチガチに固めるモノだよ。

 「あの言葉を『フェアな決闘』という意味で言っていたのなら、伏兵......それに罠なんて―その意味すら持っていないよね?」

逆に、美雪が何でもありのはっちゃけた闘いを望んでいたのなら。それはそれで、

「俺の行動を責める事は出来まいな?」

前者なら不正行為と見なされ、後者なら駄々をこねているとしか見えない。故に、『嘘を付いた』としか糾弾出来なくなったワケだ。

さぁ、そんなところで。

「どうする、伊勢美雪。こっちはお前が不正を働いた以上、力づくでも聞き出せるけど?」

「......増援?」

「さぁ、それは分からないね」

それに、と俺は美雪に笑いかけ、

「ここが鷹宮のお膝元―本拠地っていう事を忘れてないかな?第4戦科部隊の規模は幾らだ?小隊か、中隊か、大隊か?」

「......」

鷹宮に真っ向勝負で挑んでも勝てないのは、美雪も目に見えているだろう。だからこそ、今回の決闘を挑んだワケだ。

美雪は小さく溜息をつくと、その口を開いた。

「......分かった、話すわよ。アタシたちが鷹宮支部を襲った理由は―」

紡がれた言葉は短く、だがそれは。



―今の俺の頭を悩ませるのに、十分すぎる意味を持っていた。


~Prease to the next time!
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