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序章

~志津二と執事とお嬢様~

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異能。そして、異能者。

皆は異能者と聞いて何を思い浮かべるだろうか?
『魔法使い』『アルケミスト』など、様々だろう。
『魔法』や『錬金術』も異能の1つだ。

そして、鷹宮家も.....その1つ。
異能を有する者の家系―『異能者集団』である。





「―…ふわぁぁ......」

窓の合間から射し込む朝の光で、俺―鷹宮志津二たかみやしつじは目を覚ます。
上体を起こし、伸びをして。羽毛布団を退かしてベッドから降りる。

カーテンを開けつつ窓の外を見ると、今にも蕾が咲き誇りそうな桜の樹が、黄金色の朝日に照らされて淡く輝いている。

視線を戻し、壁掛け時計を見ると―その針は6時を指していた。…うん、いつも通りだ。

クローゼットを開けると、ハンガーに掛けられた執事服がズラッと並んでいる。俺はその内の1着を手に取り、着替えた。
鏡の前に立ち、身だしなみを確認する。

ワイシャツの襟、シワ、背広のホコリや髪型。
…大丈夫そうだな。 
そう判断した俺は、キャビネットから懐中時計を取り出して首に掛ける。

―ガチャっ。

スリッパを履いてドアを開け、廊下に出る。
即座に目に止まるのは、床に敷かれている紅いカーペット。それが数十メートル先まで続いている。
左手には窓があり、廊下を紅く、明るく照らしている。

螺旋階段を使って階下へと向かう。
まだ人の気配は無く、この館には自分一人しかいないような錯覚に陥る。

さて、着いた。
移動した先は、館内のとある一室。
そして、執事バトラーである俺の朝一番の仕事。それは―

「…お嬢様、朝ですよ。起床の時間です」

―お嬢様を、起こすこと。
コンコン。とドアをノックしつつ、俺は扉の向こう側に話し掛ける。扉には木製のプレートが掛かっており、『鷹宮 彩乃』と書かれている。

(返事が無い…のは、いつもの事か)

「入りますよ?」

声を掛けるだけでは起きず、結局部屋に入って起こさなければならない。ここまでは良いんだ。問題は、次だ。

―カチャッ…

俺はそっと扉を開け、部屋に入る。
その広さはおよそ35畳で、アンティーク調に統一された部屋だ。

奥には天蓋付きのベッドがあり、純白の毛布を被っているお嬢様がいた。背中程ある金髪を無造作に垂らし、背中を此方に向けている。
…何と言うか、起きてるな。これ。今までの経験則で分かる。

「お嬢様、朝です。狸寝入りしてないでさっさと起きて下さい。…用事があるのでしょう?」

「…っ!?…すー...すー...」

先ほど言った問題とは、これである。

異常なまでの狸寝入り。

「早く起きないと間に合いませんよ?」

「..................」

応答無し、か。
まぁ、慣れたものだ。何しろこっちはそれに毎日対応しているのだから。 

「はい、起きて下さい。毛布取りますねー」

「…っ......!」

こら、掴まないで下さい。
引っペがすの面倒なんですよ。

容赦なくやらせてもらいますが。

―バッ!

羽毛布団、毛布を剥がされ―ても、なお狸寝入りを続けるお嬢様。どこにそんな精神力があるのですか。眠りの力は凄いですね。

「はぁ......」
 
こうなったら、最終手段だ。
まぁ、これも毎日やってることなんだが。

俺はベッドまで歩を進め、片腕を寝ているお嬢様の背中に。もう片方を太ももへと回す。 そしてそのまま―持ち上げた。
俗に言う、お姫様抱っこである。

「―っ!?ちょっと…離して!」

やっとだ…
だが、離さない。
 
「ダメです。毎日起こす度に狸寝入りして…これも何千回目のお姫様抱っこだとお思いですか?かれこれ5年ですよ?今日から高校生になりますが、お恥ずかしいとは思わないのですか?」

「思ってる、思ってるから!離して!」

お姫様抱っこされたままのお嬢様が、俺の真下で叫ぶ。そして、

「焔弾!」

焔の弾幕を放ってきた。至近距離で。
だが、俺はそれを首を傾げることで避けた。

「お断りします…罰です。今日はこのまま食堂まで行きますからね。少しは学習して下さいよ…」

「むー......執事志津二のクセに、生意気よ!」

「や、私だってしたくないですよ。ですが、ご主人様のご命令でして。『従者だろうが関係ない。ちゃんと教育を頼む』と言われてるんですよ?そのために私がお嬢様の専属の執事になったのですから」

「今だけはお父様を恨むわ......!」

これが俺、鷹宮志津二の朝である。





喚くお嬢様を何とか食堂まで運び、来ましたるは朝食の時間。
木製ローテーブルが食堂の中心に置かれ、脇には館の人数分の椅子が置かれている。

「おはようございます、お嬢様。朝食の準備が出来ましたので、お運びします」

俺がテーブルにお嬢様を座らせた時、厨房からコック長が顔を出した。

「メニューは何?」

「はい。クロワッサンと、スクランブルエッグ…生ハムサラダとなっております」

「はーい」

直後、お嬢様とご主人様…他の執事たちの食事が運ばれてくる。それと同時に、鷹宮家主人―清十郎せいじゅうろう様とお付きの執事が食堂に入ってきた。

それを見て、俺は即座に頭を下げる。

「おはようございます、ご主人様」

―鷹宮清十郎。
日本有数の財閥・鷹宮の会長。全国各地に個人の企業を持っており、それが日本に与える影響は大きい。最近は海外にも企業を創るつもりでいるとか。

「おはよう。そう言えば二人とも…今日が高校の入学式だろう?」

そう、入学式。
用事とはこのことである。

「ええ。準備も昨夜の内に済ませておきましたので、お嬢様は着替えるだけで宜しいかと」

「流石、志津二君だ。君を彩乃専属の執事に任せて良かったよ」

「お褒めに預かり光栄です。これからも精進していきますので、今後ともよろしくお願いします」

「うむ」

ご機嫌そうに、笑いながら席に着くご主人様。
それを確認した俺も、椅子に座る。

仕事中、と言われればそうなのだが…この館では、執事などといった者も一緒に食事をとる事になっているのだ。他と比べると、少し変わっている様に思える。

「それでは、どうぞお召し上がりください」

コック長の一言で、その場にいる全員が一斉に食事を始める。それと同時に、自然にご主人様とお嬢様・執事たちというグループになり、会話が始まった。

お嬢様方は『株の投資が云々…』とか、そんな話をいつもしている。さすがは財閥のご令嬢。

そんな話を聞いていると、不意に、声を掛けられた。

「―そうだ、志津二くん。2人が高校に入学するにあたって、少し話しておきたい事がある。食事が終わったら、私の部屋に来ておくれ」

「承知しました」

…重大な話なのだろう。
ご主人様は真剣な面持ちで、俺たちにそう言った。
そして食器を自分で片付け、食堂を抜けていく。

隣に座っているお嬢様に目をやると、珍しく不安げな顔をしている。

「大丈夫ですよ、お嬢様」

「…どう言うこと?」

「話の内容が読めました」

「......?」

む、分かりませんか。

、ですよ」

「あぁー......そう言うことね」

その一言を聞いて、何かを悟ったらしいお嬢様。
いったい何をお考えで?





朝食の片付けも済まし、今はお嬢様と一緒にご主人様の部屋へと向かう途中だ。

時間もあるし、ここら辺で1回『異能』について説明しておいた方が良いかな。

―異能。
その名の通り常人とは異なる能力を持ち、1人が一つだけ有している、異能。超能力や魔法ともよばれる、まさに奇跡の力。

ここ、鷹宮家に関する家系は―遺伝的な、超常の力を開花させやすい。
俺が知っている範囲内だと、属性魔法を使う人や、水を操る人もいる。

その能力故に、鷹宮家は人の上に立つことが容易になった。テレパシーで人の心を読んで上手く立ち回り、念話が使えれば重要機密を外部に漏らすことが出来る。

だからその力を使って、鷹宮家は発展して来た。
会社を合併し、巨大企業を創り、学園都市を創り―議員をも抱き込み......エトセトラエトセトラ。
だから鷹宮家は、日本有数の財閥として名が知れている。政治・経済界においてもかなりの力を有する。

だが一般に知られている鷹宮は分家であり―本家を束ねる『長』は表には顔を出さない。 
まぁ、鷹宮家の本質たる異能の管理者だからそれも当然だが........

話がズレた。
鷹宮家の意義は1つ。異能者の存在が世に出回らない事。権力があれば、もみ消すのは容易い。異能者という、異端の存在。それらが世に混乱を来さぬよう、鷹宮家は代々発展してきた。

さて......そんな話をしているうちに、着いたな。鷹宮家主人、清十郎様の部屋に。

「ご主人様、失礼致します。約束通りお話を伺いに参りました」

俺はコンコン、とドアをノックしつつ、扉の向こうにいるであろうご主人様に声を掛ける。

だが―


―返事が、ない。

今まで、こんな事無かったのに。......なぜだ?


~Prease to the next time!

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